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行政広報に新時代到来【農林水産省 現役官僚YouTuber】

型破り編集で「地味で堅い」逆手に

右:野田広宣(のだ・ひろのぶ) 福岡県出身。九州大学卒業、平成30年農水省入省。/左:白石優生(しらいし・ゆうせい)鹿児島県出身。鹿児島大学卒業、平成31年農水省入省。
右:野田広宣(のだ・ひろのぶ) 福岡県出身。九州大学卒業、平成30年農水省入省。/左:白石優生(しらいし・ゆうせい)鹿児島県出身。鹿児島大学卒業、平成31年農水省入省。

中央省庁が国民の関心を高めようと情報発信で試行錯誤を続けている。農林水産省が2020年1月に立ち上げたYouTubeチャンネルでは、「地味」で「お堅い」イメージを逆手に取った、型破りな演出と茶目っ気たっぷりの「官僚YouTuber」が話題だ。なかでも熱視線を集めているのは九州農政局の有志で結成した若手職員コンビ「タガヤセキュウシュウ」。人事異動で1年間ほど解散状態だったがこの春、霞が関で再結成したと聞きつけ、話を聞きに行った。

白石優生氏。令和3年4月より農林水産省大臣官房広報評価課広報室にてSNS業務を担当。(取材時撮影)
白石優生氏。令和3年4月より農林水産省大臣官房広報評価課広報室にてSNS業務を担当。(取材時撮影)

白石 その後も続いて何本かがバズるなど実績ができる中で、「行政機関が情報発信にYouTubeを使うこと」自体が受け入れられてきました。外部に頼らない安定したPRコンテンツを持っておくメリットについて省内でも理解が深まったと思います。
 農水省が踏み出せたのは、大きな一歩。当初から、業務として認めつつ職員の自由度を高めたしくみを作れた点は素晴らしかったと思います。

―まさに行政広報のあり方から見直される契機となったわけですが、行政機関が新しい広報手法に挑戦する難しさもあるのではないでしょうか?

野田 最初はまず動画を作ることにかなり時間もかかりました。

白石 編集作業に慣れてきた今でも、1分につき1時間半くらいはかかります。10分の動画だったら15時間。それから、行政の発信なので絶対に事実でないことは言っちゃいけない。
 数字一つも間違えないようにしたいので、ファクトチェックは担当課と打合せを重ねて厳しくやります。

―映像コンテンツのもつ可能性は魅力的ですが、従来の広報手法に比べて大変な部分もあるのですね。

白石 でも動画作成までなら、頑張ればどこでも可能なはずです。本当に大変なのは「見てもらえるまでがセット」ということ。従来の広報手法では、注目度が分かりづらく「出せば見てもらえる」という認識でいられた側面もありますが、YouTubeでは再生数という指標で注目度が明白になります。
 1年以上取り組んできてよく分かったのですが、関心を持ってもらうって、想像を絶するほど難しいことです。農水省本位で「これを知って欲しい」だけでなく、視聴者にとって面白くてメリットがある発信内容を、国民目線で考え続けなければいけません。

―入省3~4年目の若手であるお二人が、国民目線での発信に成功したのは特殊な事例でしょうか。

白石 いえ、むしろ逆です。例えば観光地でも、住民にとっては当たり前な要素が観光客には魅力ということがありますよね。若手職員には農水省を外から見る視点がたくさん残っているので、国民目線でのコンテンツ作りが自然にできる。そういう意味では、若手が活躍しやすいわけです。

―4月の人事異動で、ばらばらだったお二人の勤務地が共に東京・霞が関になり、コンビ再集結となりましたね。

野田 「タガヤセキュウシュウ」の企画や編集はほとんど白石くんです。初期には二人で動画のアイデア会議を開いたりもしていましたが、私は全然、面白いものは思いつけない。一方、白石くんからばんばんアイデアが出てくるので、もう先輩ぶってあれこれ言わずに任せることにしました。

野田広宣氏。令和2年4月より農林水産省国際部国際地域課にて海外情報業務を担当。(取材時撮影)
野田広宣氏。令和2年4月より農林水産省国際部国際地域課にて海外情報業務を担当。(取材時撮影)

白石 やはり野田さん独特の飾らない人柄が、余分な演出なんて不要なほど人気。他の人にはマネできないことですし、普段はこんなこと言いませんが、すごく感謝しています(笑)。

野田 いえいえ。私は本当に素のまま、出させてもらっています(笑)。

白石 今は動画の再生回数などを見ながら、毎日頭を悩ませています。お金や時間をかければ再生数が上がるわけではないし、正解がないから難しいけど夢がある。
 例えば、最近ではありがたいことに他省庁からコラボの依頼を頂く機会も増えています。以前、環境省とコラボした際は、廃プラスチック処理が環境に与える影響について、両省それぞれの目線から問題提起する動画を作りました。今は、法務省の方と一緒に動画を作ってみようというアイデアも温めていて。あらゆる省庁やその所管を超えてPRできるようになったらもっと面白いですよね。

(本記事は、月刊『時評』2021年6月号掲載の記事をベースにしております)