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本誌独断2021年夏の霞が関人事予測

内閣府

大きな人事断行で田和次官誕生か 今や各省のエース級が出向する有力官庁に

内閣府は新型コロナウイルス対策からデジタル庁設置に向けた準備まで、菅義偉政権の重要政策ほぼすべてに関与している。今や各省のエース級が出向する有力官庁となり、「縦割り打破」に邁進する菅首相の〝直轄府〟になりつつある。官房長官時代を含めて8年半、菅首相と内閣府の接点は非常に深い。

ただ、昨年9月の新内閣発足後、菅首相は幹部人事にはほとんど手を付けていない。戦時に近い危機下とはいえ、霞が関の人事は常に動かさないと目詰まりを起こしてしまう。今夏、大きな人事が断行される可能性がある。

 最大のポイントは山﨑重孝事務次官(58年、旧自治省、東大法)の去就だ。山﨑氏は天皇陛下の譲位に関連する一連の行事全般を取り仕切った手腕で、官房長官時代の菅氏の信頼を得た。今夏で在任2年半となることから、交代のタイミングとみられる。

 後継候補と目されているのは田和宏内閣府審議官(59年、旧経済企画庁、東大経)である。第2次安倍政権以降、看板政策に関与し、「働き方改革」でも実績を積んだ。田和氏も、別府充彦内閣府審議官(58年、旧総理府、東大教育)も着任から2年となる。府審の動きは重要だ。

 菅首相の懐刀である経済財政運営担当の林幸宏政策統括官(63年、旧経企庁、京大農)、経済社会システム担当の井上裕之政策統括官(61年、大蔵省、東大法)の両氏にも注目したい。林氏は官房長官時代の菅首相に秘書官として仕えた。昨年8月の就任なので異動時期としてはまだ早い。井上氏は就任から2年で、このまま内閣府にとどまれば有力次官候補となる。財務省に戻ることも想定される。

 井野靖久経済社会総合研究所長(60年、旧経企庁、慶大経)、日下正周迎賓館長(60年、旧総理府、東大経)、大塚幸寛官房長(61年、旧総務庁、早大政経)、小野田壮賞勲局長(61年、旧総務庁、東大法)、原宏彰沖縄振興局長(62年、旧総務庁、東大法)、田中愛智朗政府広報室長(62年、旧総務庁、東北大教育)は、着任から丸2年で異動の対象になる。

 増島稔経済社会総合研究所次長(61年、旧経企庁、東大経)は昨夏の異動、経済財政分析担当の籠宮信雄政策統括官(61年、旧経企庁、東大院)は今夏で60歳となる。

 今年10月には衆院が任期満了を迎える。菅首相が続投となれば、自分の手で行う、ゼロからの組閣となる。最後に官邸中枢を点検しておく。

 和泉洋人首相補佐官(51年、旧建設省、東大工)のパワーが日増しに高まっている。北村滋国家安全保障局長(55年、警察庁、東大法)も重用されている。一方、副長官就任から8年半となる杉田和博官房副長官(41年、警察庁、東大法)の影が薄いとの指摘が出始めている。

 今年1月に抜擢された寺岡光博首相秘書官(平成3年、大蔵省、東大経)が調整役としてフル回転中だ。

総務省

旧郵政の不祥事が影、事務次官は旧自治が続く公算

 旧郵政省の接待不祥事問題で激震の走った総務省。指揮を執る武田良太総務相は今夏の人事で難しい判断を迫られる。旧郵政は有力幹部が軒並み処分の対象となり、辞職者も出したため、残った幹部でもそのまま昇格させるわけにはいかないだろう。東京五輪や衆院選も控え、大きく顔ぶれを変えないとの見方もあるが、武田総務相は人事を滞留させるのではなく、新体制に組みなおすことを優先するのではないか。

 事務次官の黒田武一郎氏(57年、旧自治、東大法)は在任期間が1年半となった。黒田氏の後任には旧郵政のエースと目され、総務審議官を務めていた谷脇康彦氏(59年、旧郵政、一橋大経)の昇格が既定路線だったが、NTTから高額接待を受けた問題で3月に辞職に追い込まれた。このほかにも郵政幹部の処分が相次いだことから、省内では黒田氏の留任説もささやかれている。だが、黒田氏も郵政不祥事の監督責任を問われており、ここは夏で勇退とみるのが順当だろう。

 交代するとすれば、新次官は旧自治出身者からの起用となろう。有力視されるのは消防庁長官から内閣官房に出向した林﨑理内閣審議官(58年、東大法)。ふるさと納税や選挙制度に精通しており、菅政権を支えるには打ってつけの存在だ。霞が関全体のバランスを考えても候補になりうる。次の次官候補としては自治税務局長も経験した内藤尚志自治財政局長(59年、東大法)が控えており、もちろん内藤氏がすんなり昇格する可能性もある。消防庁長官には髙原剛自治行政局長(59年、京大法)が回る公算が大きい。

 郵政幹部のつまずきは菅政権の推進力に水を差した。菅義偉首相の身内も絡む問題であり、情報通信政策への信頼を失わせたのは間違いない。旧郵政が次官ポストを取り戻すまでには一定の時間がかかるのではないだろうか。携帯電話の料金引き下げやNHKの受信料引き下げなど重要案件を抱えている局面で、郵政幹部が前面に立てないのは痛い。

 旧自治が事務次官を務める場合、三つの総務審議官ポストは旧郵政が二つ、旧総務庁で一つを分け合うケースが多いが、郵政組の昇格は竹内芳明総合通信基盤局長(60年、東北大工)にとどまる可能性が高い。残る一つは髙原氏か内藤氏の昇格もありえるだろう。

 旧自治の局長ポストは、前田一浩総括審議官(62年、東大法)、大村慎一地域力創造審議官(62年、東大経)らの起用が検討されよう。郵政不祥事問題で省内調査を担った原邦彰官房長(63年、東大法)は留任の可能性がある。

 旧郵政の局長ポストは情報流通行政局長に吉田博史氏(62年、東大法)が就いたばかりであり、続投が有力だ。竹内氏が総務審議官に昇格すれば、局長ポストは佐々木祐二郵政行政部長(62年、東大経)、小笠原陽一経済産業省大臣官房審議官(63年、東大法)らの起用が取り沙汰されよう。9月に発足するデジタル庁に回る幹部も出そうだ。

 旧総務庁は長屋聡総務審議官(59年、旧行政管理庁、東大教養)が勇退し、後任には内閣人事局人事政策統括官の山下哲夫氏(60年、旧総理府、東大法)か堀江宏之氏(61年、旧総務庁、東大法)が起用されるとみられる。

法務省

今夏の人事が混乱収束後の指標に 中堅幹部の処遇に関心

 黒川弘務元東京高検検事長(35期、東大法)の定年延長から始まった法務検察をめぐる混乱は、林眞琴検事総長(35期、東大法)が昨夏に就任したことで、一応の収まりをみた。法務検察は今夏に大型の人事異動を控えており、その顔ぶれが、組織の正常化や、今後の総長レースの指標になるとの見方もある。

 今夏の勇退が見込まれるのは、堺徹東京高検検事長(36期、東大法)、榊原一夫大阪高検検事長(36期、東大法)、中川清明名古屋高検検事長(36期、東大法)。いずれも検察の上位ポストで、玉突きで起きる幹部人事に注目が集まる。

 次の検事長候補として名前が挙がるのが、辻裕教事務次官(38期、東大法)や山上秀明東京地検検事正(39期、中大法)だ。辻氏は、人事課長、官房長、刑事局長を歴任した「赤レンガ派」。一方の山上氏は、特捜部勤務が長く、福島県知事汚職事件では主任検事を務めた「現場派」。ただ、その通りに実現するのか、誰が、どのポストに収まるのかについては、見解が割れる。

 法務検察内部では、定年延長問題の余波が今も残る。黒川氏の定年延長が決まったのは2020年1月。黒川氏は翌月には定年退職するはずだったため、同年夏に勇退予定だった稲田伸夫前検事総長(33期、東大法)の後継に据えるための措置との観測が広がった。もともと、法務検察は稲田氏の後任に林氏を充てる構想を描いていたため、混乱につながった。黒川氏が賭けマージャン事件を起こして辞職し、結果的に人事は構想通りとなったものの、しこりは残ったとされる。

 法務検察は2代、3代先の検事総長を見据えた人事をしており、林氏の後は、甲斐行夫福岡高検検事長(36期、東大法)から、辻氏にバトンをつなぐのが最有力の選択肢とされてきた。ただ、辻氏は、事務次官として官邸側と調整しながら、黒川氏の定年延長を進めてきた経緯もあり、複雑だ。林氏の任期は来夏までとみられ、残り1年余り。法務検察内部や、官邸とのぎくしゃくした関係を正常化し、自身の考える組織改革と、それを支える人事構想を実現できるかに、全国の検察関係者が注目している。

 一方、中堅幹部では、20年7月に東京地検特捜部長から転任した森本宏津地検検事正(44期、名大法)の処遇に関心が集まる。特捜部長として、政財官界の腐敗に切り込んできた実績は言わずもがな。また、刑事課長や刑事局総務課長を務め、法務官僚としての評価も高く、エースとしての評価を不動のものとしている。多くの検事総長経験者が務めてきた官房長に抜てきされるともささやかれるが、現場に近い東京地検次席検事を推す声が聞かれる。過去には、松尾邦弘元検事総長(20期、東大法)が、東京地検次席検事から、刑事局長、事務次官と駆け上がり、その後に検察トップに就任した例もあり、同様のコースを歩むのではないかとの観測もある。

外務省

長期就任の次官に枢要ポスト用意か 北米局長の動向も注目点の一つ

 安倍晋三前首相は自ら「官邸主導外交」を展開してきたが、昨年9月就任の菅義偉首相は内政畑で、外務省による伝統的な積み上げ型外交を重視している。菅政権初の大型人事となる夏の定期異動では、こうした力学変化がどのような影響を及ぼすかが注目点だ。

 焦点は2018年に事務次官に就任した秋葉剛男氏(57年、東大法)の去就だ。首相に対し忌憚なく持論をぶつけつつ選択肢を複数提示し、最終判断に忠実に従う秋葉氏は、首相から厚い信頼を得ている。

 秋葉氏は4月に次官在任期間が牛場信彦氏(1967年4月~70年7月)を超え、戦後最長記録を更新した。米中対立など緊迫した外交環境が続くことから続投を望む声が根強いが、首相は節目を迎えた秋葉氏に、首相官邸の枢要ポスト、国家安全保障局長職を用意するのではとの観測も出ている。

 ただし首相は東京オリンピック・パラリンピックの開催に万全を期したい考え。オリ・パラ後には衆院選や自民党総裁選も控えるため、官邸に移る場合でも、一連のイベントが終わる秋以降となる可能性がある。

 次官が交代する場合、後任の有力候補となりそうなのが外務審議官(政務)を18年から務める森健良氏(58年、東大法)だ。調整、事務処理能力に定評があり、次官に就けば穏当人事。ただし森氏は安倍政権時に日露平和条約交渉の実務を担うなど豊富なロシア人脈を誇るだけに、在任6年となる上月豊久氏(56年、東大教養)に代わって駐ロシア大使に起用する案も取り沙汰される。

 駐インド大使として「クワッド」と呼ばれる日米豪印の枠組み固めに貢献した鈴木哲氏(59年、東京外大外国語)、外務審議官(経済)として数々の国際会議をまとめてきた鈴木浩氏(60年、東大法)らも次官候補となりそうだ。

 北米局長の市川恵一氏(平成元年、東大法)の異動があるかも注目点だ。市川氏は首相にとって官房長官時代の秘書官で、その能力は評価されている。4月には首相と共に渡米し、バイデン米大統領にとって初の外国首脳との対面会談を成功させた。その論功行賞からさらなる要職への起用案があるとされるが、北米局長に就任したのが20年7月とまだ日が浅い上に、当時も飛び級人事だっただけに、首相や茂木敏充外相が省内全体の人事バランスをどう考えるかに左右される。

 将来の次官候補、国際法局長の岡野正敬氏(62年、東大法)、総合外交政策局長の山田重夫氏(61年、慶大法)は在任期間が2年近くなり、異動がありそう。一方、領事局長として新型コロナウイルスの水際対策の陣頭指揮に立つ森美樹夫氏(60年、東大法)、駐米大使の冨田浩司氏(56年、東大法)、駐英国大使の林肇氏(57年、東大法)、駐韓国大使の相星孝一氏(58年、東大教養)は、昨年12月以降の着任で、続投が既定路線となっている。

財務省

同期二人のレースが最大の焦点 政治との距離感は影響するのか

 財務省人事は昨年、大きなサプライズがあった。主計局長就任が確実視されていた前理財局長の可部哲生氏(60年、東大法)が国税庁長官にまわり、主計局長ポストには可部氏と同期の矢野康治前主税局長(60年、一橋大経)が就いたことだ。もし太田充事務次官(58年、東大法)が退任する場合は、この同期2人による次官レースが最大の注目点となる。

 矢野氏は主に主税局畑を歩いた。官房長など省内の主要ポストもこなしたが、主計局経験は浅く、花形ポストの主計官も経験していない。出身校も財務省事務次官の牙城だった東大ではなく、一橋大と異例づくめとも言える経歴を持つ。そんな矢野氏を主計局長に押し上げたのは官邸の意向と言われている。矢野氏は安倍政権下で2年半にわたり、当時官房長官だった菅義偉首相の秘書官を務めた。この官邸とのパイプの太さが買われたといわれる。

 矢野氏は省内きっての財政再建論者。主税局のほか、内閣官房社会保障改革担当室に出向するなど長年、消費税率引き上げに携わってきた。ばらまき型の予算編成にも強い嫌悪感を隠そうとしない。主計局長としては終始、新型コロナウイルス対策に振り回され、巨額の財政拡大を余儀なくされたが、菅首相に直言できる財務省内でも数少ない1人といわれ、ブレーキ役として一定の役割を果たしたとの評価もある。

 ライバルの可部氏は対照的に早くから事務次官候補として嘱望され、主計局総務課長、総合政策課長、主計局次長など「王道」とされるコースを歩んできた。太田氏から引き継いだ理財局長職も無難にこなし、行政手腕の高さは衆目の一致するところだ。

 可部氏の夫人は昨年9月の自民党総裁選で菅氏と首相の座を争った岸田文雄衆院議員の親族。財務省では主計局長から事務次官に昇格するのは通例。官邸の意向も踏まえれば、矢野氏のリードは揺るがないと予想する向きが強い。

 後任の主計局長は茶谷栄治官房長(61年、東大法)が最有力。主計官、主計局次長など可部氏と並ぶ王道コースを歴任してきたエースだ。

 茶谷氏が動けば、官房長は新川浩嗣総括審議官(62年、東大経)か。財務省ではここ数年、政権中枢を担う人物が秘書官経験者をはじめ政治と近い人物が重用されるとうがった見方をする声もある。新川氏は安倍政権で首相秘書官を務めており、今後も財務省を担う人物として主要ポストを歩むことになるだろう。

 国際金融部門を率いるのは岡村健司財務官(60年、東大法)。コロナ禍の中でリモート開催を強いられたG7、G20など国際会議を取り仕切り、新興国の財政支援などを主導。麻生太郎大臣肝いりのデジタル課税にも道筋を付けた。このまま続投との見方が強いが、神田眞人国際局長(62年、東大法)の財務官昇格をささやく声も一部にある。

文部科学省

ノンキャリア文科審の処遇注目 未だ尾を引く不祥事の後遺症

 東京五輪・パラリンピックの開催に伴い、政府の推進本部や組織委員会などに出向している職員の人事異動は、大会終了後の秋に行われる見込み。ただ、例年通り夏にも一定の規模の異動を行う可能性もあり流動的だ。省内では、組織的な天下り問題と贈収賄事件など、相次いだ不祥事で多くの幹部が処分を受けた後遺症があり、人事を見通しにくい状況が続く。

 藤原誠事務次官(57年、旧文部、東大法)は2018年10月の就任から2年半が経過し、今年7月に64歳となるため、去就が注目される。旧文部、旧科学技術の出身者がほぼ交互に次官に就任してきたが、二つのポストがある事務方ナンバー2の文部科学審議官のうち、旧科技の松尾泰樹氏(62年、東大院理)は58歳と比較的若いため、将来の次官候補として留任するとの見方が強い。次官交代がある場合、丸山洋司文科審(57年、旧文部、法政大院)や義本博司総合教育政策局長(59年、旧文部、京大法)が候補となりそうだ。

 丸山氏は、初等中等教育局長や文科審にノンキャリアとして初めて就任。昨年の新型コロナウイルス感染拡大に伴う一斉休校では、小中高校を所管する初中局長として対応に奔走したことが評価された。義本氏も今年1月、大学入試センター理事から異例の本省復帰を果たした。総合教育政策局が所管する教員の働き方改革やわいせつ教員対策は今国会の目玉施策であり、これらの成果が義本氏への評価を左右するカギとなりそうだ。いずれの場合も、両氏が次官、文科審の両ポストを占めることが考えられる。

 義本氏が異動する場合は、後任の総合教育政策局長に藤原章夫内閣審議官(62年、旧文部、東大法)、藤江陽子スポーツ庁次長(63年、旧文部、早大院)ら五輪に携わる幹部の名前が挙がる。旧文部出身者が次官に就けば、官房長は「たすき掛け」の慣例により、増子宏氏(63年、旧科技、早大院理)の続投が取り沙汰されている。

 この他、瀧本寛初中局長(61年、旧文部、早大政経)には留任、交代の両説が浮上している。昨年度末、小学校全体で学級人数を約40年ぶりに引き下げる改正義務教育標準法が成立した一方、新型コロナ禍におけるオンライン学習の在り方など課題は山積している。交代する場合は、串田俊巳大臣官房総括審議官(京大文)、矢野和彦文化庁次長(青山学院大法)ら旧文部、平成元年入省組の起用を予想する向きがある。

 大学入試改革を担う伯井美徳高等教育局長(60年、旧文部、神戸大法)は就任から2年が経過し交代がささやかれる一方、大学入学共通テストでの記述式問題の導入議論など改革は道半ばであることから、続投を望む声がある。仮に代わる場合は、大学施策に精通する森晃憲私学部長(61年、旧文部、東大法)が後任候補と目される。