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【本の紹介】東京事務所の政治学

                  勁草書房 定価:本体4,000円+税
                  勁草書房 定価:本体4,000円+税

 国会議事堂を中心として霞が関・永田町の地理を簡単に説明すると、北西の高台には首相官邸に衆参議員会館、自民党や国民民主党といった主要な党本部など〝政〟が鎮座し、南東には霞が関官庁街が対峙する。ちなみに北東には皇居があり、南西はアメリカ大使館だ。
 この地理的関係がニッポンの姿を暗示しているとするならば、〝政〟の傍らに身を寄せるように地方自治体の〝東京事務所〟が集まっているのにも理由があるのだろう。永田町の都道府県会館には、広島、高知、長崎を除く44都道府県の事務所がひしめく。徳川時代の「江戸屋敷」よろしく、地方自治体が都に置く「東京事務所」に社会科学の光を当てたのが本書だ。
 著者は、行政学、地方自治を専門とする気鋭の研究者・大谷基道氏。大学で教鞭を執る以前は、茨城県庁で働く公務員だったという経歴を持つ。
 著者が1993年に入庁した頃は、東京事務所の役割は、「官僚と酒席を共にして情報を取ってくる」ことだと先輩から教わったそうだ。しかし、その後に官官接待が社会問題化し、廃止されて以降も依然として47都道府県が一糸乱れず東京事務所を構え続けている。一体「東京事務所って、何をやっているの?」という疑問がこの研究の原点だという。
 第1章では各都道府県東京事務所の設置状況や所掌事務、組織・人員体制といった概要と、設置の経緯・背景、第2章では東京事務所の活動実態とその変遷、地元出身政治家との関係、第3章では、中央省庁の県人会の運営における東京事務所の関与や、官僚からみた県人会との関係、そして第4章では東京事務所間の連携組織など、知られざるネットワークの存在も詳述される。
 著者は、文献調査や各東京事務所へのアンケート、インタビューといった手法で東京事務所の姿を明らかにするとともに、中央と地方の関係の変遷をていねいにひも解いていく。
 根拠として時折挟まれる元東京事務所勤務職員の「回顧録」やルポルタージュ的文献では、東京事務所職員が目当ての官僚に会うために、その秘書に地元のゆるキャラのぬいぐるみを渡したり、分刻みの陳情スケジュールの組み立てに苦心したり……本格派研究書でありながら、そんなペーソスあふれる描写もあって面白く読める。