お問い合わせはこちら

【森信茂樹・霞が関の核心】其田真理氏

個人情報もマイナンバーも同じ安全管理を

 森信 所得問題に関してさらに踏み込むと、欧州では所得は公共財という捉え方があります。マイナンバー活用の先進国と言われるエストニアを視察した時、政府の主税局長がその場で自分の所得、内訳までわれわれに見せてくれました。所得情報は知られても、そもそもプライバシーではない、という考え方なのです。これはスウェーデンなどでも同様です。

 こちら個人情報保護委員会では個人情報を所管しつつ、付番との関係はどのようにお考えでしょうか。

 其田 われわれ委員会では、マイナンバー法を所管しておりませんし、政策にも関わっていないので、現実的にはマイナンバーの取り扱いがきちんとしているかどうか、という点しかミッションがないのです。ただ、平素から皆さんに申し上げているのは、先生のご指摘の通り番号だけ他人が見ても個人の情報は何もわからない、ということです。求める安全管理措置も個人情報保護法上に求められている安全管理措置と、マイナンバー法上求められている安全管理措置とはほとんど変わりません。むしろ口座そのものの情報やクレジットカードの番号の方が流出した場合はるかに危険で、マイナンバーの番号がそれより危ないということはありませんから、私たちとしては個人情報もマイナンバーも同じ安全管理しか求めていません。

 ただ、異なるのはマイナンバーの番号は法律で利用できる場合が限られているということです。逆に個人情報は用途制限がありませんので、そこがマイナンバーと個人情報が大きく異なる部分だと言えるでしょう。

 森信 今後、銀行口座にも付番を広げていこうという議論になっていますが、個人情報がしっかり保護されるのかという点が一つの論点だと思います。それと政府の説明責任、つまり国民からの信頼に足る政府かどうか、といういつもの抽象的な議論になるのではと想定されます。あとは口座付番後にマイナンバーから個人情報が漏洩した場合、個人情報保護委員会の対応が問われるところかと。その点、委員会としては法に則ってしっかり対応していくということですね。

 其田 はい、そういうことになると思います。ご指摘の通り常に抽象的な議論ではありますが、漏れたらすごく大変な情報というのは、まさに先述の口座情報、クレカ情報、医療情報など日常に多々あります。私たちはその監督を行っており、監督される企業もそれなりに自分たちが扱う個人情報が漏洩しないよう、気を付けながら事業活動を行っているということです。

 これら重要な情報が毎日至る所で使われているのに比べると、マイナンバーというのはまだまだ使われる場面が極めて限られていて、それに対し政府は特別なネットワークを使って厳密に利用管理しているわけですので先生に先ほどご指摘いただいたように、政府が国民の信頼に足り得るかという要素がきっと大きいのではないかと思います。

トレーシングアプリの活用

 森信 コロナ問題の関連で、感染者の位置情報をグーグル・マップ等で追尾するアプリが導入されていますが、これについての個人情報保護委員会の見解はどのようなものでしょう。

 其田 はい、5月1日に「新型コロナウイルス感染症対策としてコンタクトトレーシングアプリを活用するための個人情報保護委員会の考え方について」を公表しました。委員会のサイト内にコロナの特設ページをつくりましたので、そこで詳しい内容をご覧になれます(https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/covid-19/)。

 森信 一言でいえば、こうしたトレーシングアプリの活用は、本人が同意すればよい、ということでしょうか。

 其田 そのような点を含めて留意事項を記載しています。

 森信 このトレーシングアプリというものを提供する場合、法律の改正は必要となるのでしょうか。

 其田 一応、法律の枠内でできることについて現在、政府も考えておりますし、私達も留意事項については現行の法律の枠内での運用について説明しております。

 森信 その場合の法律とは、個人情報保護法でしょうか。

 其田 私たちに関しては個人情報保護法の内容に沿ってアプリ活用の考え方を発したのですが、その他にも感染症法など各種関連法が関わってくると思います。

 森信 欧米には巨大な個人情報保護委員会の組織などはあるのでしょうか。

 其田 人口対比でみると、欧州に数多い小国よりは私たち日本の委員会の方が大きな組織ですね。ただ、英国とフランスは私たちより大きな機関を整えています。

 森信 そうすると、日本の個人情報保護委員会は世界に冠たる組織、ということができますね。

 其田 冠たる、かどうかは分かりませんが、まあそれなりというところではないかと思います(笑)。

 森信 其田さんは、週末の過ごし方はどのようにされているのでしょう。

 其田 私は基本的に、週末のうち、1日は映画鑑賞、もう1日は料理と決めていたのですが、今春のコロナ禍によって映画鑑賞はやむなく一時お休みし、代わりに料理に力を入れたので、だいぶレパートリーが増えました。

 森信 映画は主にどのようなものを?

 其田 ジャンルを問わず、いろいろな分野を観ます。直近では、今年のアカデミー賞作品を争った二作品『パラサイト 半地下の家族』と『1917 命をかけた伝令』は、いずれも甲乙つけがたい出来栄えでした。また、エルトン・ジョンの半生を描いた『ロケットマン』では主演の俳優の歌唱力が素晴らしく、これもアカデミー音楽賞を取ったので、結果には大いに満足しています。

 あと、読書としてはコロナ禍の影響で、カミュの『ペスト』が今、ベストセラーで、私も読んでいますが、今日に置き換えても考えさせられる大変すばらしい作品です。

 森信 大変参考になりました。日常が戻ることを期待したいですね。本日はありがとうございました。
(月刊『時評』2020年7月号掲載)