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【森信茂樹・霞が関の核心】伊藤明子(消費者庁長官)

デジプラ法成立が象徴する消費者動向の多様化

島根県出身。京都大学工学部卒業。昭和59年建設省入省、28年国土交通省大臣官房審議官(住宅局)、29年国土交通省住宅局長、30年内閣官房内閣審議官、令和元年7月より現職。
島根県出身。京都大学工学部卒業。昭和59年建設省入省、28年国土交通省大臣官房審議官(住宅局)、29年国土交通省住宅局長、30年内閣官房内閣審議官、令和元年7月より現職。

今年の通常国会で、新法の〝デジプラ法〟や特定商取引法・預託法等の改正がされ、各方面の注目を集めた。新法は健全な事業推進と消費活動の向上に向け、幅広くデジタルプラットフォーマー(DPF)に対し、一定の社会的役割を担うことを要請する内容だ。複雑化するデジタル上での購買、商取引に一定の透明性が確保されることを期待する声が多い。他方、SDGsの浸透は消費者意識の変容にもつながり、これに関わる消費者庁の仕事も多様化しつつある。伊藤明子長官に、消費生活行政の最新動向を詳細に語ってもらった。

消費者庁長官
伊藤 明子

消費者保護のためDPFも一定の役割を

森信 今年の通常国会で、デジタルプラットフォームに関する、新しい法律が成立したそうですね。

伊藤 いわゆる〝デジプラ法〟こと、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」です。近年、オンラインモールなどの取引DPFにおいて、危険商品等の流通や販売業者が特定できず紛争解決が困難となるなどの問題が相次いで発生したため、これに対応して消費者利益の保護を図るための同新法が成立しました。これは巨大DPFだけでなく、幅広く商品や役務を提供するDPFを対象としています。

森信 DPFによって、どのような消費者問題が発生しているのでしょう?

伊藤 DPFは小さな事業者も容易に事業が始められ、消費者も多様な選択ができるメリットがあります。一方で、悪質な事業者も参入する面も否めず、トラブルが生じた場合、消費者が不利益を受ける確率が高くなります。実店舗を構えている場合は苦情の申出先も明確なのですが、DPF取引においては、事業者と連絡が取れなくなったりする例もみられます。

 であれば消費者保護の観点から、DPFも消費者取引において一定の役割を果たしていただけませんか、というのが新法の主旨となります。

森信 私はちょうど、Uberとその配達員についての議論をしてきたところなので、似た構造に思えます。法律成立後は、消費者が、責任や所在が曖昧な事業者との間しかやり取りできなかったものが、事業者を束ねるDPFと消費者がやり取りできるようになったと。

伊藤 取引DPF上で販売業者の所在が分からないようなときなどは、危険商品等が流通している場合、DPFの方に削除要請することができるようになりました。また、DPFに販売業者の情報開示を求めることができる規定も用意しました。

森信 DPFそのものに対して責任は問うてないのですね。

伊藤 大小さまざまなDPFを対象としており、DPFに対し強い規制をかける法律ではありません。基本的な構図としてはDPFに対し、社会的な役割を鑑みて協力してくれるよう要請する、また、官民協議会を通じて対応していくということになります。

〝隠れB〟の増加など事業者の変容

森信 法律成立に向けた議論の時、どのような点が論点となりましたか。

伊藤 今回の法律はBtoCを扱うDPFを対象としています。事業者に対して消費者は、情報力、交渉力において弱い立場にある、これに対し消費者行政はCを保護する役割を担っています。一方で、IT化が進む現在は個人事業主が増加するなど、従来の圧倒的に強いBではなくなってきています。Cの顔をしながら、いわゆる〝隠れB〟といわれる事例も出てきています。

 また、消費者行政においては、販売業者たるBと購入者たるCとの間では明確な法律の定めがありますが、消費者保護に対し不十分な対応をする事業者が多い中で、DPF取引の場合は、DPFと取引しているか販売業者と取引しているのか十分に認識していない消費者も多くいます。

 こうした状況に対し、今回新たに消費者保護の観点からの規律を整えるべく、DPFとCとの間に新法を設けた、これが〝デジプラ法〟導入の背景なのです。

 また、あわせて、販売業者とCとの間についても、詐欺的な定期購入商法がみられるようになっていましたので、特定商取引法を改正して、通販規制を強化しています。

森信 Uberの配達員は現在個人事業主という位置付けですが、実態はフリーターのような非常に不安定で、現行の労働法制も適用されない、最も保護されていない立場にあります。米国などでは、特殊な形の労働者というカテゴリーを新たに設けるべきではないかという議論もあります。また、税に関してもUberの配達員に支払われる報酬についての源泉徴収もDPFが行うべき、また、社会保険料もUberが一定割合を負担し、配達員が事故に遭った時の補償など労働法制並みの一定の保障を与えるべきだという議論もあります。

伊藤 個人事業主が活躍できる場が増えるのは非常に良いことなのですが、従来の考え方で十分対応しきれない場面が出てきているということでしょうか。消費者法制の海外状況としては、中国、韓国の場合、Bにあたる販売業者などがCに対して不十分な対応をしたらDPFも連帯して責任を負う場合があるときいています。日本に比べてかなり厳しい考え方ですね。また、EUにおいては、EU指令に基づき、DPFから消費者への情報提供等の強化等について加盟国が国内法を整備中であるなど新たな規制の導入の動きがあります。

森信 先般、GAFAなど巨大DPFの超過利益に対して課税する国際課税の合意がG20でなされました。こうしたDPFは課税の根拠となる物理的拠点(PE=恒久的施設)を置かなくても国境を越えたビジネスができる点に大きな特長があります。

伊藤 そうですね、GAFAに限らずDPF取引は越境取引を多く可能にします。消費者行政では、越境消費者取引の相談窓口を設けていますが、各国での連携を強化するなど、取り組むべきことが多いと思います(……続きはログイン後)

(聞き手)森信茂樹氏
(聞き手)森信茂樹氏

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