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【森信茂樹・霞が関の核心】 会計検査院事務総長 宮内和洋氏

自治体はもっとマイナンバーの活用を

森信 こうした給付事業などにおいては、マイナンバーをもっと活用すれば、先ほどの使い残しなどのミスマッチも減らせるのではないかと私は思います。この点、会計検査院におけるデジタル化についてはいかがですか。

宮内 これは両面あると考えています。ご指摘の通り、われわれが検査を行うにあたりデジタルを活用する面、われわれの検査対象である公的機関において、もっとデジタルを活用するよう促すという面の二つです。

 後者に関して、生活保護に関して支給を受けられる方の収入の認定についてはマイナンバーを使えることになっているのですが、実際にはその活用を全くしていない自治体が幾つかあり、まさに今回の検査報告において、その点、指摘しています。マイナンバーを使えば書類よりも簡易に照会できるのに、またそれが可能となるようシステムの改修費用などを支出しているにもかかわらず、それが使われていなかったという事例です。

森信 確かに地方の現場では、フロッピーディスクを使うなど一昔前のアナログな対応がいまだに残っていますからね。

宮内 従来の方法で慣れていて、人も時間も乏しいという行政現場では、システムの導入やデジタル化への移行というより、先ずは既存の方法で、という発想になりがちなのかもしれません。

森信 多額の国費を投入してマイナンバー制度を導入しましたが、実際にそれが行政の現場で活用されているのか、それを検証するのも会計検査における大きなテーマだと思います。

宮内 個人的な事例で恐縮ですが、私も時々マイナポータルを覗いてみて、私の情報がどう活用されているのか確認していますが、実際のところあまり多くは使われていないように思います(笑)。

森信 昨年末の補正でも新たに創設されましたが、ここのところ各種の基金が相次ぎ、合算すると20兆円以上の予算が投入されているとか。これも報道等にもありましたが、基金自体が機能不全に陥っているケースも少なくないようです。こうした基金に対する検査はいかがでしょうか。

宮内 会計検査院としても、基金に対しては従来より度々指摘しております。これまでの指摘で多いのは、基金として大きな金額を積んでいつつも実際にはあまり使われていない、また将来的にも使われる見込みがない、といった基金については、積んだお金を国に返還してください、という内容です。

森信 そうすると、基金が上手く運用されているか否かの判断も為されると?

宮内 基金にもいろいろな性質のものがあると考えています。基金を通して補助金を交付するという性質の基金などは、従来の補助金の交付についてと同様の視点で検査することが可能です。それに対し、最近話題になっている、投融資を行うような基金については、個々の投融資案件を見れば結果として失敗しているケースもありますが、投融資は必ず成功するものではないので、全体として成功していると言えるかどうか正直なかなか判断が難しいところです。

森信 従来はどのような視点で検査していたのでしょう。

宮内 個々の投融資の判断ではなく、ガバナンスと言うか投融資を決定するための体制が十分な状態であるかどうか、というのが一つのポイントとなっていました。また、個々の投融資についても、本来の趣旨から逸脱した、ルール違反のようなケースでしたら指摘の対象になり得ます。それに対し、個々の投融資が成功するか失敗するかの判断自体について、当時、その判断が正しかったのか誤っていたのかの判断を下すのは容易ではありません。成否に関してはその後の外部要因の影響によっても大きく左右されますので、結果的に失敗したからといって、当時の投融資の判断が誤っていたと簡単に決めつけることはできません。

森信 大学にも多くのファンドがありますが、これらは総体的に上手くいってるものでしょうか。中には創設されて10年ほど経過しているファンドもありますが。

宮内 まだ現状では成否を論じる段階に至っていないものが多いのではないかと思います。運用は開始されていますが、大学ファンドの多くがまだ成果の刈り取りに至る過程の途中であると認識しています。

国民が判断するための情報提供を

森信 近年、財政の裏付け無きままに支援金、基金、予算増が相次ぎ、財政規律や統制が事実上喪失されているような感があります。そうした中で厳正に使途をチェックする会計検査院の重要性は、ますまる高まると思われます。この点、事務総長のご所感など。

宮内 財政をどこまで絞るべきか緩和するべきか、この大きな命題については、最終的に国民および国民から負託を受けた国会における決定事項であり、会計検査院がどうすべきだと決めつけることではないと思っておりますが、われわれとしては国民が財政のありようについて正しく判断していただくための情報提供、説明責任を適切に果たしていく必要があると考えています。財政に関する情報、将来についての予測などに関して、国民に正確で十分な情報を提供していく、この点に会計検査院の役割があると認識しています。

森信 会計検査院では以前、プライマリーバランスについてウオッチしておられましたが、それは現在も?

宮内 はい、継続して定点観測的に見ています。財政健全化については政府が目標を設定してそれに取り組んでいますので、それが実現できているかについてわれわれも検証しており、設定された目標が達成されていない場合は、そのことも示しています。財政健全化の取り組みの状況について、特に予算ベースではなく、決算ベースで状況を示しているのは、会計検査院だけかもしれません。

森信 政府内に独立財政機関を設けるべきとの議論があります。その機関を国会内部、あるいは会計検査院の中につくろう、という案もあるようですが、こうしたプランについてはどのように思われますか。

宮内 マクロ経済に関わる将来予測の要素が大きいので、会計検査院が従来行っている業務の内容とは、大きく異質の仕事になります。もし仮に会計検査院にそうした機能を付与するのであれば、新たな職責に対するノウハウを身に付けなければならず、一朝一夕には難しいと想定されます。

森信 霞が関には、予算を作って満足するような文化が今なおありますから、決算を検証する姿勢が重要との事務総長のご指摘は全く同感です。
 
 さて、休日の過ごし方やご趣味などは。

宮内 コロナ禍でしばらく途絶していますが、以前は海外旅行によく行っていました。ルクセンブルクの大使館に一等書記官として赴任していた時期があり、あちらには友人もおりますので、早い段階でまたルクセンブルクに行ければいいな、と思っています。

森信 本日はありがとうございました。

インタビューを終えて



 宮内事務総長からは、大変丁寧に、かつクリアに問題点を指摘していただいた。温厚な中にも芯の通った方だとお見受けした。ルクセンブルクの話に花が咲き、温かい人間性が垣間見られた。わが国の野放図に膨れ上がった予算の使い方を、今後とも厳しくチェックしていただくことを期待したい。
                                (月刊『時評』2023年1月号掲載)

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