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「デジタル田園都市国家構想総合戦略」のポイント/市川篤志氏

デジタルはもはや実装のステージへ

――総合戦略では目標(KPI)と工程表(ロードマップ)が示されていますが、主なKPIと目標達成に向け、どのような戦略で取り組んでいくのでしょうか。

市川 最も基本的なKPIとして「2030年度までに全ての地方公共団体がデジタル実装に取り組むことを見据え、デジタル実装に取り組む地方公共団体を24年度までに1000団体、27年度までに1500団体とする」という目標を掲げています。数だけ見ると遠大な目標のように見えますが、デジタル実装のための交付金が令和3年度補正予算から措置され、4年度補正予算では予算額が倍増しています。この活用もあって、デジタルを活用した取り組みを実践している団体数は、既に1000を超えました。今後は、規模の小さな自治体を中心に、デジタル実装にどう取り組んでいただけるかが大きな課題です。

 国が中心的な役割を果たすべきデジタル実装の基礎条件整備に関するKPIとしては、5Gの人口カバー率を25年度に97%、日本周回の海底ケーブル(デジタル田園都市スーパーハイウェイ)を25 年度までに完成、また、デジタル推進人材を22~26年度までに累計で230万人育成するなどの各種KPIを位置付けています。加えて、高齢者を中心にデジタルの活用が難しい世代の方々などをサポートする地域の「デジタル推進委員」の人たちも現在2万人強のところ、自治会や農協や青年会議所の皆さまなどにも協力してもらいながら、27年までに5万人に増やすこととしています。

――他方、各自治体におけるKPIはいかがでしょう。

市川 例えば、コロナ禍の間、企業のサテライトオフィスの整備を行う自治体が増えましたが、この流れを維持して27年までに1200団体を、企業版ふるさと納税を活用したことのある自治体を27年までに1500団体へ増やす目標を掲げました。また、デジタル技術も活用して相談援助等を行うこども家庭センターの設置を、全国1741の市区町村全てにおいて目指します。さらに、1人1台端末を授業でほぼ毎日活用している学校の割合を100%にします。他にも、AIオンデマンド交通など新たなモビリティサービスに取り組む自治体を25年までに700団体、地域限定型の無人自動運転サービスを27年度までに100カ所以上で実演するといったKPIを設定しています(図表参照)。

(資料:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局)
(資料:内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局)

――先ほど触れられた、「Digi田甲子園」のあらましをお願いできましたら。〝甲子園〟と名が付くと、どうも夏を連想しがちなのですが、冬も実施されているそうですね。

市川 夏のデジ田甲子園は地方自治体の取り組みを、冬のデジ田甲子園は企業・大学等の取り組みを対象としています。それぞれ、実践内容を応募していただき、有識者の先生による選考とインターネット投票による得票をもって優秀な取り組み事例をベスト8、ベスト4、準優勝、優勝といった形で総理表彰するものです。

 3月9日に表彰された冬の事例を挙げると、北海道の酪農牧場で最新の生産設備とIoT、クラウドの活用で高い生産性を上げるなど〝酪農DX〟を実践し、これを全国の酪農生産者の生産性向上と働き方改革につなげていく企業の取り組みが注目を集めています。他にも、近年、過重業務が問題視される学校の先生の働き方改革を通じた教育DXの取り組みや、複数の介護施設の利用者が乗り合う共同送迎サービスなど、社会課題の解決に向き合う各企業の事例が表彰されています。

 このように、既にいろいろな分野でのデジタル活用によるサービス向上、生産性向上の取り組みが広がりを見せています。われわれはそうした先行事例を社会に広く発信し、ならば自分たちの地域も、うちの会社もやってみよう、そんな機運を高めて行ければと思っています。

RESASの活用を期待

――自治体は規模の大小や抱える課題の差異もあり一様ではありませんが、総合的な観点から次長が寄せる期待などはいかがでしょう。

市川 デジ田総合戦略はこの4月からスタートしました。この国の総合戦略を参考に、これから各自治体において、地方版の総合戦略を策定していただくことになります。これまでのまち・ひと・しごと総合戦略をベースとしながらも、コロナ禍を経験して住民の意識や生活環境も大きく変化した中で、改めて自らの地域の状況や課題を見つめ直し、主体的に議論していただく機会にしてもらえることを期待しております。

 自治体職員の方々は多忙を極めておられると思いますが、内閣府のリーサス(RESAS:地域経済分析システム)の活用をお勧めしたいですね。地域の人口動態、消費動向、地域内外のおカネの流れ等々、自治体が置かれた状況を分析、可視化できるツールが多々あります。今では多くの学校の授業で使ってもらったりしています。活用された方々の意見も取り入れながら使い勝手が良くなっていますので、まず自分たちの地域がどのような状況にあるのか知り、住民の方々との意見交換や政策の立案の際に、ぜひこのリーサスを活用してみてください。

総合戦略はローリングプラン

――総合戦略について、今後の見通しについてはいかがでしょうか。

市川 先ほど触れましたが、令和3年度補正予算において新たに措置したデジタル実装タイプの交付金は、4年度補正において200億から400億円に倍増されました。これを含めた従来の地方創生関係交付金は、全体として制度改善を加えながら、新たに「デジタル田園都市国家構想交付金」として再編、令和4年度補正と令和5年度当初予算あわせて総額1800億円が計上されました。総合戦略を実りのあるものとするためにも効果的に執行して行きたいと考えています。

 デジタル活用による取り組みについては、この間、興味深い事例が全国各地で誕生しており、過去2年間の実績によってその類型化も可能となりつつあります。そのカテゴライズに基づき、住民サービス、地域交通、子ども政策、防災・インフラなどの分野ごとに所管省庁とデジタル庁で議論を進めるなどし、自治体と連携しながらより伸長させていく方向にもっていければと考えています。オール政府で臨むべき大きなテーマであると捉えています。

 こうした自治体の取り組みの基盤ともなるデジタルインフラの整備に関しても、高速道路を活用した自動運転支援道やドローン航路の設定などの具体的な取り組みに早期に着手できるよう、デジタル実装を進めるのに必要なハード・ソフトのインフラやルールの整備のための「デジタルライフライン全国総合整備計画」を令和5年度中に策定することとされています。

 5カ年計画であるデジ田総合戦略は、毎年検証し、改善を図り深化させていくことが大切です。総合戦略に示された構想をいかに具体化していくか、新規挑戦すべき分野は何かなど、毎夏に重点検討課題を整理し、その後の予算編成過程で具体化して年末の総合戦略の改訂に反映させていく、このサイクルによって、常に少しずつ良いものにして行きたいですね。

 以上のことは、3月31日に開催した岸田総理を議長とするデジタル田園都市国家構想実現会議でお示ししています。

――最後に、誌面を通じて次長からメッセージなどございましたら是非お願いします。

市川 冒頭で述べました移住志向や企業の地方貢献意識の高まり、また国も関係省庁連携して地方活性化にまい進している、そういう意味で地方にとって今はまさに絶好の好機なのです。ぜひデジタル技術を活用して社会課題の解決を図り地域の利便性・快適性を向上させ、その地域ならではの魅力と特色を前面に打ち出してもらいたい。エネルギーも食料も地方から都市部へ供給されています。都市と地方は何時の時代も常に一体不可分で、従来から標榜されてきた〝地方の元気は日本の元気〟というフレーズは確かに本質を表わしています。

 デジタル技術は確かに有効ですが、しかしあくまで一つの手段ですから、少子高齢化、人口の急減が進む中で地域の持続可能性をどう維持し高めていくか、この〝デジ田〟構想を進める過程で、しっかり議論していくべきだと思います。〝デジ田〟構想とは、〝デジタル×田園都市国家〟デジタル技術と田園都市国家構想の相乗によって意味を成すものなのです。

――本日はありがとうございました。
                                             (月刊『時評』2023年5月号掲載)