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霞が関防災政策最前線/前 消防庁長官 前田一浩氏

消防防災体制を強化し、災害被害を最小限に防ぐ重責を担う

まえだ かずひろ/昭和38年3月11日、広島県出身。東京大学法学部卒業。62年自治省入省、平成23年総務省自治税務局固定資産税課長、25年自治財政局交付税課長、29年内閣府大臣官房審議官(経済社会システム担当)、(併)内閣府本府休眠預金等活用担当室長、令和元年総務省大臣官房審議官(財政制度・財務担当)、同総括審議官(マイナンバー情報連携、政策企画担当)、3年自治財政局長、4年消防庁長官、本年7月退官。
まえだ かずひろ/昭和38年3月11日、広島県出身。東京大学法学部卒業。62年自治省入省、平成23年総務省自治税務局固定資産税課長、25年自治財政局交付税課長、29年内閣府大臣官房審議官(経済社会システム担当)、(併)内閣府本府休眠預金等活用担当室長、令和元年総務省大臣官房審議官(財政制度・財務担当)、同総括審議官(マイナンバー情報連携、政策企画担当)、3年自治財政局長、4年消防庁長官、本年7月退官。

災害をはじめ火災や事故の発生時、常に国民の生命・安全・財産を守るため尽力する消防庁。中でも大規模自然災害発生時には緊急消防援助隊が出動し、現場の最前線で救援活動を展開、その高度なオペレーション体制と機動的な活動は国際社会からも高く注目されている。DX等も推進しながら日々進化する消防活動の最新動向を前田一浩長官に解説してもらった。


被災地で尽力する緊急消防援助隊

――現在、自然災害が各地で頻発していますが、被害が大規模な範囲に及ぶ災害や特殊な災害が発生した場合、消防庁としてはどのような体制を取り、どのような活動をするのか教えてください。

前田 今年は関東大震災の発災から100年の節目にあります。この間、わが国を取り巻く自然災害の環境は大きく変わりました。近年では気候変動の影響により自然災害の激甚化・頻発化のリスクが年々高まってきています。

 消防庁では、こうした頻発する自然災害や地震に対して、迅速かつ的確に全国的な支援を行うことができるよう、都道府県や消防本部等の関係機関と連携して、被害の状況等について迅速に情報収集に当たることとしています。

 災害対応に係る具体的な体制についてですが、災害の規模に応じて応急体制を組み、所定の要員を招集して対応にあたることになります。例えば、関東大震災規模の大地震が発生した場合には、消防庁災害対策本部を設置し、全職員が消防庁内にある消防防災・危機管理センターに参集し一体となって対応に当たることになります。その後、災害対応が長期化する場合には、順次ローテーションを組みながら対応に当たります。

 消防庁の主な活動としましては、危機管理センターで総理官邸や内閣府と連携しながら、都道府県や消防本部等の関係機関から被害情報や避難指示等の発令状況などの情報を収集・整理し、被害の取りまとめを行うほか、大規模災害発生時においては、緊急消防援助隊のオペレーションなども行います。引き続き、消防庁として被災地域に寄り添った対応を心掛けていきたいと考えています。

――緊急消防援助隊について、詳しく教えていただけましたら。

前田 緊急消防援助隊は1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、国内で発生した地震等の大規模災害時における人命救助活動等を、より効果的かつ迅速に実施できるように、全国の消防本部の協力を得て同年6月に創設され、2003年には消防組織法改正により、緊急消防援助隊の法律上への明確な位置付けを行いました。

 先ほども申しましたが、近年の気候変動の影響により激甚化・頻発化する風水害や、切迫する南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害に備えるため、発足当初は1267隊であった部隊数は、2023年4月時点で6629隊まで登録いただき、増強を行っているところです。併せて消防組織法の規定による国有財産等の無償使用制度を活用し、これまで緊急消防援助隊の車両・資機材の充実や整備を図ったところですが、近年は大規模風水害などに対応するため津波・大規模風水害対策車の配備や、後方支援体制を確立するため拠点機能形成車の配備、迅速な情報収集・共有体制の強化を図るためハイスペックドローンなど部隊活動に必要な装備等を消防本部に配備しています。

 今後も引き続き、効率的な活動を実施するため計画的な車両・資機材の充実強化を進め、東日本大震災をはじめさまざまな災害における部隊展開の経験等を貴重な教訓とし、地域ブロック合同訓練などを通じて緊急消防援助隊の機能強化を図ります。

(資料:消防庁)
(資料:消防庁)

世界に高く評価されるわが国救助技術

――日本は地震や台風など世界的に見ても災害の多い国だと思いますが、日本の消防の救助技術という点では世界的にはどのような位置付けなのでしょうか。

前田 わが国の消防の救助隊は、自然災害から車両事故、水難事故まで、幅広く対応しており、その年間活動件数は、直近の2021年中で、約6万3000件に達しています。訓練のみならず、日々、実戦的な経験を積み重ねているのが消防の救助隊の特長でもあり、その技術力や応用力は世界でも高く評価されていると認識しています。

 と申しますのも、消防庁では、毎年度JICAと連携し、消防本部の協力を得ながら、開発途上国の救助隊員等を対象に、捜索救助技術等を指導する研修を行っておりますが、こちらへの参加希望は30年以上にわたり続いており、これまでに104カ国から591名が研修に参加し、そこで得た技術、知見を自国に普及させています。研修参加者の中には、自国の消防防災関係機関の幹部になられている方もいます。

――実際に日本の消防隊員が世界で活躍されている事例を教えてください。

前田 はい、高い救助技術を有した消防の隊員は、既に国際緊急援助の分野でも長年にわたり活躍しています。国際消防救助隊(International RescueTeam of Japan Fire-Service=IRT)は、現在、国際緊急援助隊(Japan Disaster ReliefTeam =JDR)・救助チームの一員として海外における大規模災害発生時に被災国政府等の要請に応じて捜索救助活動を実施していますが、JDR発足以前にも、消防の救助隊員は1986年にエルサルバトルで発生した地震で捜索救助活動を行っており、わが国の国際緊急援助に最も長く関与してきた経験などを生かして、現在、JDR・救助チームの活動をリードしています。

 その国際的な捜索救助活動については、国連の一機関であるINSARAG(国際捜索救助諮問グループ)という組織が約170の項目について能力評価を定期的に実施し、Heavy、MediumおよびLightの3段階で国際救助チームを分類しており、JDR・救助チームは、2015年の受検に引き続き、昨年11月に最高分類であるHeavyの再認証を得て、世界的にも最高水準のチームに位置付けられています。

 本年2月に発生したトルコ地震災害においても、先方政府の要請を受け、JDR・救助チームは被災地で捜索救助を行い、残念ながらお亡くなりになられてはいましたが、合計6名を倒壊建物より救出し、ご家族等に引き渡しています。