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コロナパンデミックから医療は何を学ぶのか/厚生労働省 迫井正深氏

◆感染症対策・防止政策最前線

さこい まさみ/昭和37年生まれ、広島県出身。平成元年東京大学医学部卒、外科臨床医を経て、平成4年厚生省入省。24年以降、厚生労働省老人保健課長、地域医療計画課長、保険局医療課長を歴任。令和2年医政局長、3年内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長・内閣審議官、令和5年厚生労働省医務技監、同9月より内閣感染症危機管理統括庁内閣感染症危機管理対策官を兼務。
さこい まさみ/昭和37年生まれ、広島県出身。平成元年東京大学医学部卒、外科臨床医を経て、平成4年厚生省入省。24年以降、厚生労働省老人保健課長、地域医療計画課長、保険局医療課長を歴任。令和2年医政局長、3年内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長・内閣審議官、令和5年厚生労働省医務技監、同9月より内閣感染症危機管理統括庁内閣感染症危機管理対策官を兼務。


 2020年初頭から拡大した新型コロナウイルスは、日本はもとより全世界に大きな、そして多様な観点の教訓を残した。23年9月に発足した内閣感染症危機管理統括庁の設立はその象徴的な事例と言える。われわれはこの経験をもとに、社会インフラとしての医療の未来をどう考えるべきか。迫井医務技監の広範な解説の下、3年余りにわたるパンデミックを振り返り、日本の医療の在り方を考えてみたい。

厚生労働省医務技監・内閣感染症危機管理統括庁対策官
迫井 正深氏

司令塔機能の強化と一元的な指揮を

 2020年の年初から約3年半、日本は新型コロナウイルス感染拡大、コロナパンデミックに見舞われました。感染の波が襲来するたびに、感染者数の数値が山を成すように変化しました。パンデミック初期から2年近く経った21年秋以後は、オミクロン株へと置き換わり、感染者数が大きく増加しても、それに比して重症者数はそれほど大きく増大しない、このような経過をたどり新型コロナが5類に移行していったと捉えています。

 オミクロン株に置き換わって、このような状況が把握できはじめた、ちょうどそのころに有識者会議を設置、その時点までに明らかになった課題を踏まえて、今後に生かしていくことを目的に議論・検討がなされました。

 会議ではまず、初動のつまずきが指摘されました。例えば政府の司令塔機能について。政府は専門家等の意見をもとに対策や方針を決定し、その内容を関係省庁や地方自治体を経由して現場に周知・徹底することが求められていました。しかし、実際にはいま一つ、迅速・的確に実施できなかったのではないか、と。国家的な感染症危機においては、やはり一元的に感染症対策を指揮する司令塔組織が必要だろう、総理の指示の下に系統だった組織を設けるべきだ、との見解がまとめられ、その後の内閣感染症危機管理統括庁の発足へとつながっていきます。

 また、2009年に新型インフルエンザが発生したときの経験が生かされていない、との指摘もありました。現実問題として、事前準備が全くない状態でコロナ対応に突入したのは事実でしたので、次のパンデミックこそは、事前準備も含めて今回の経験をしっかり生かせるよう改善していくことが求められました。この視点で重要なのが、感染症パンデミックの特性です。自然災害と違い、ウイルスの種類や特性によって、どのような対応方法が適切なのか、専門家の知見を生かさざるを得ません。さらに、それを実施するためには全国民の理解を得て、人々の行動に反映させる必要があります。それ故、専門家の意見を活用しつつ、それをもとにした、社会・国民とのコミュニケーションが特に重要だと指摘されました。

 付言しますと、危機対応という点では企業においても政府とほぼ同様の構図だと思われます。自然災害、感染症の拡大等の危機は必ずまた発生します。企業もまた、トップの方針を組織にあまねく周知し、全社一体となって対応する体制が求められるであろう、と申し上げておきたいと思います。

内閣感染症危機管理統括庁の新設へ

 有識者会議の報告を受けて、必要な対策を整理、直ちに閣議決定し実行に移していきました。その中には法改正を要した事項もあり、対策の強化と体制の強化の両面で国会審議を経て改正法が成立しています。

 具体的な対策強化の制度改正事項は、「次の感染症危機に備えた感染症法等の改正」「新型インフルエンザ等対策特別措置法の効果的な実施」が挙げられます。パンデミック対応には私権制限をはじめ社会全体にご協力をいただく必要がありますが、今回のコロナ禍初期において、どの範囲まで私権を制限するのか、が常に大きな問題となりました。例えば〝デパ地下〟ことデパートなど大規模商業施設の地下にある食品売り場や理髪店の営業をどう考えるか。これらは地域や周辺住民の買い物事情・利用実態に応じてサービスの必要性や依存性が大きく異なるため、自治体首長さんたちと協議しても、それぞれ置かれている状況が異なり、一致した見解を得ることが非常に難しい。協議に大変な労力と時間がかかってしまい、迅速な対応を困難にする側面がありました。対話や調整の努力は当然としても迅速な意思決定が求められる。そのためには、あらかじめ一定の手続きやルールの共有が不可欠であり、そのような視点から必要な対策の強化が図られました。

 政府の体制も強化されました。「次の感染症危機に対する政府の司令塔機能の強化」「感染症対応能力を強化するための厚労省組織の見直し」です。前述した政府の司令塔機能の強化とともに厚労省内部組織を改め、さらに既存の国立国際医療研究センターと国立感染症研究所を統合し、2025年4月以降に「国立健康危機管理研究機構」として新たにスタートすることとなりました。

 「政府の司令塔機能の強化」を具現化したのが、内閣法の改正に基づく内閣感染症危機管理統括庁という新たな組織の設立であり、今後の感染症危機については同庁を中心に司令塔機能の強化を図ります。すなわち、同庁に平時は約40人の職員が常駐し、有事には関係各省庁の部局長級等も参集して対応する、という体制です。内閣には内閣危機管理監という危機管理の枢要ポストがあるのですが、前述のように、こと感染症は通常の災害や武力事態などの危機管理とは異なる扱いをすべき、との観点から、同庁には新たに感染症危機管理監を設け、内閣官房副長官がその任に当たります。

 また、対策の太宗は厚労省が担当しているため、有事の対策も厚労省と一体的に運用し、かつ厚労省医務技監であり内閣感染症危機管理対策官である私が結節点の任を担いつつ、あらかじめ選定されている感染症対策部局を中心とした相当数のスタッフが総理大臣・官房長官直属の同庁職員として任用され、専門的知見を政策に反映させる等々の対策にあたります。

(資料:令和4 年9 月2 日 政府対策本部決定より関係部分を抜粋)
(資料:令和4 年9 月2 日 政府対策本部決定より関係部分を抜粋)
(資料:令和5 年9 月4 日 内閣官房新型インフルエンザ等対策推進会議第1 回資料3 をもとに演者加筆)
(資料:令和5 年9 月4 日 内閣官房新型インフルエンザ等対策推進会議第1 回資料3 をもとに演者加筆)