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国土交通省「i-Construction」最前線

i-Constructionのさらなる展開を目指して

国土交通省大臣官房 技術審議官 東川 直正氏
国土交通省大臣官房 技術審議官 東川 直正氏

人口減少社会を迎える中、潜在的な成長力を高めるとともに、新たな需要を掘り起こしていくために、働き手の減少を上回る生産性の向上が求められるとして進められた国土交通省の「生産性革命プロジェクト」。i-Constructionはプロジェクトの柱の一つであり、その目標として「2025 年度までに現場の生産性の2割向上」を謳っている。関係者の思いや新技術の活用などによって目標達成に向けて着実に歩みを進めるi-Constructionの現状について、国土交通省の東川技術審議官に話を聞いた。

――国土交通省の進める生産性革命プロジェクトの柱の一つであった「i-Construction」。生産性革命プロジェクトは、昨年「貫徹」の年を迎えましたが、i-Constructionについては、今後もさらなる展開を図っていくと伺っています。改めて、i-Constructionの概要、そして、これまでの取り組みについてお聞かせください。

東川 建設産業は、社会資本整備を進める中で重要な役割を果たしています。現在、人口減少や高齢化が進み、担い手不足が懸念される中でも、しっかりその役割を果たしていくためには、生産性の向上は不可欠と言えます。このような現状を踏まえ、国土交通省では2016年に生産性革命プロジェクトを開始しました。以降、プロジェクトの中でも大きな施策の一つである「i-Construction」には鋭意取り組んでおり、本年も引き続き、取り組みを進めているところです。

 そもそもi-Constructionについては、生産性革命プロジェクトに先駆け15年12月に委員会を設置し、どのような形で建設現場の生産性を上げていくか議論を進めてきました。建設現場は、一品受注生産、現地屋外生産、労働集約型生産といった特性があり、製造業で取り入れられているライン生産方式などで生産性の向上を図ることが難しいと考えられていました。しかし、この委員会では近年のICT、IoTの進展を踏まえ、i-Constructionを進めるための視点として、①建設現場を最先端の工場へ、②建設現場へ最先端のサプライチェーンマネジメントを導入、③建設現場の二つの「キセイ」の打破と継続的な「カイゼン」の三つの視点が挙げられました。この考え方のもと、16 年から、そのトップランナー施策として、「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「全体最適の導入(コンクリートの規格の標準化)」、「施工時期の平準化」といった取り組みを開始しました。

 このICT施工(ICTの全面的な活用)とは、調査・測量、設計、施工、検査などのあらゆる建設生産プロセスにおいてICTを全面的に活用する取り組みであり、その推進の鍵である必要な積算基準や技術基準などの整備を進めてきました。19年度における取組状況は、同年12月末時点において、直轄工事におけるICT活用工事の公告件数2043件のうち1105件で実施しています。また、都道府県・政令市における18年度のICT土工は、公告件数2428件、実施件数523件といずれも前年度より増加していますが、さらなる普及拡大に向けて取り組んでいるところです。

 全体最適の導入については、設計、発注、調達、加工、組立などの一連の生産工程や維持管理を含めたプロセス全体の最適化が図られるよう、流動性を高めたコンクリートやプレキャスト製品の活用、プレハブ鉄筋などの工場製作化を進めるために必要なガイドラインなどの策定に取り組んできました。これまでの取り組みの結果、プレキャスト製品は、現場打ちに比べ2~5倍の効率性があることが判明しています。しかしながら、セメント量のうちプレキャストに使われたセメント量は18年度で全販売量の約14%とまだまだであり、今後はプレキャスト(ハーフ・サイト・大型化)の進化を図っていきます。

 施工時期の平準化については、公共工事においては第1四半期(4~6月)に工事量が少なく、工事稼働時期の偏りが激しかったため、人材・資機材の効率的な配置や休暇の確保、収入の安定などが図られてきませんでした。この点を踏まえ、国庫債務負担行為の積極的な活用や地域単位での発注見通しの統合・公表の拡大、地方公共団体への取組要請を行ってきました。その結果、施工時期の平準化の取り組みは浸透しつつあります。しかし、18年度の平準化率(年度の平均と4~6月期の工事の平均の稼働状況の比率)は、国が0・85であるのに対し、市町村は0・55にとどまっています。こうした状況を踏まえ、地域発注者協議会を通じて平準化率の目標を設定して地方公共団体に働きかけるなど、地方公共団体の平準化率向上を目指して取り組みを進めているところです。

 また、3次元データなどの利活用についても取り組みを進めています。3次元設計(BIM/CIM)の導入によって、建設生産・管理システム全体を見通した施工計画、管理などのコンカレントエンジニアリング、フロントローディングの考え方を実施していくことが可能となります。12年度から橋梁やダムなどを対象に導入し、今年度は大規模構造物における予備設計においてBIM/CIMを原則適用とするなど、適用拡大を図っています。23年度までに小規模を除くすべての公共工事へのBIM/CIMの原則適用に向けて、引き続きBIM/CIMなどの活用拡大を図っていきます。

データプラットフォームの構築とデジタル・トランスフォーメーションの推進

――「i-Construction 推進に向けたロードマップ」には、インフラ・データプラットフォームの構築といった項目がございます。本プラットフォーム整備の進捗についてお聞かせくさだい。

東川 前述したように調査・測量、設計、施工、維持管理にわたってi-Construction で3次元データを使っていく中で、それをアーカイブ化することによってデータは積み重なっていきます。国土交通省では、その他、ボーリング調査の地盤データ、国土地理院の3次元の地形データを保有していますが、地方公共団体や民間などのデータを集約し、サイバー空間上に国土を再現する「インフラ・データプラットフォーム」の構築を考えています。また、国土に関するデータに、どのように人が移動するのかなどの経済活動に関するデータ、気象などの自然現象に関するデータを連携させ、さらに大きくした「国土交通データプラットフォーム」の構築を進めています。

 整備に先立ち、有識者らの意見やパブリックコメントを踏まえ、国土交通データプラットフォーム(仮称)整備計画を2019年5月 30日に策定しました。整備計画においては、インフラなど分野内のデータ連携基盤を20年度までに構築し、その後各分野のデータを連携させる分野間データ連携基盤を22年度までに構築することを目指しており、本整備計画に基づき、取り組みを進めています。

 国土交通データプラットフォームの実現により、業務の効率化や3次元データを活用したスマートシティなどの国の施策の高度化、産学官連携によるイノベーションの創出を目指すとともに、各種データを組み合わせた高度な分析によって、都市におけるヒートアイランド対策や災害時の避難シミュレーションなどによる社会課題の解決を推進することが期待されます。

 しかし、もっと他に大きな利活用があるのではとも考えています。そのためには構築の段階から産学官の連携が重要になりますので、「国土交通データ協議会」を設置し、プラットフォームの利活用やデータ提供などの活動をしていただける方の公募を19年10月から開始しました。協議会へは国土交通省のHPからいつでも入会可能であり、会員の方々には、国土交通データプラットフォームの検討状況をお伝えすることや整備にあたっての改善提案を募集するなど、整備に協力いただいています。

 20年4月に、国土交通データプラットフォーム1・0の一般公開を行いました。国土交通データプラットフォーム1・0においては、国・地方自治体の保有する橋梁やトンネル、ダムや水門などの社会インフラ(施設)の諸元や点検結果に関するデータ約8万件と全国のボーリ ング結果などの地盤データ約14万件の計22万件を地図上に表示しました。これらの情報はプラットフォーム上で検索・閲覧が可能であり、また必要なデータをダウンロードすることも可能です。さらに、これらのデータを活用してオープンデータチャレンジを開催することなど によりユースケースの具体化にも取り組んでいきます。
( 国土交通データプラットフォームHP) https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000066.html