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新たな国土形成計画について/国土交通省 倉石誠司氏

「デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成」

 では、③国土の刷新に向けた重点テーマについて。この重点テーマは「デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成」「グリーン国土の創造」「持続可能な産業への構造転換」「人口減少下への国土利用・管理」という四つの項目で成り立ち、かつそれぞれ関連しあっていますが、今回は他の三つを包含する「デジタルとリアルが融合した地域生活圏の形成」についてお話ししたいと思います。

 2023年7月にこの新たな国土形成計画の計画案答申を岸田総理に報告した際、総理から「デジタルとリアルが融合した地域生活圏が各地域で実装されるよう、デジタル田園都市国家構想総合戦略の取り組みとも一体となって各種のプロジェクトを進めていただきたい」とのご指示がありました。

 このご指示の下、各省庁連携で地域生活圏実現に向けた各種実装を進めていきます。圏域の規模に応じて「中枢中核都市等を核とした広域圏」、生活圏人口10万人程度以上を目安とした「地方の中心都市を核とした地域生活圏」、おおむね小学校区単位での基礎的生活エリアを対象とする「小さな拠点を核とした集落生活圏」の三層構造の中でも、地域生活圏は、市町村界にとらわれず、〝地域の日常生活に必要なサービスが持続可能となる圏域〟を捉えている点が大きな特色だと思います。A市、B町、C村が隣接している場合、生活者にとってはそれら行政界の違いに関係なく、それは一つの生活圏を形成する地域である、という自然な発想に基づくものです。

 さらに、地域生活圏の形成に向けては、同計画において、1)官民パートナーシップによる「主体の連携」、2)分野の垣根を超えた「事業の連携」、3)市町村界にとらわれない「地域の連携」、を重視した取り組みに重点を置くことが重要、と明示されています。この三点の「連携」を軸とした生活者目線での地域のプロジェクトの実装を、政府全体で予算面、制度面も含めて応援していこうと取り組んでいきます。

 この地域生活圏の形成で地域の姿はどう変わるのか。例としては、自動運転や、地域の関係者で共創(ともにつくる)地域公共交通の「リ・デザイン」、デジタル・ガバメントの推進や、遠隔医療、多世代交流まちづくり、移住・二地域居住等の促進などが構想されています。これらの地域公共交通やドローン物流、オンライン教育などは個別の自治体内で完結するものではもちろんなく、各市町村にまたがって生活者が利用しているため、A市、B町、C村を一体として捉えた圏域の中で核となる大小の拠点を作りつつ、地域生活圏という一つの圏域の中で生活持続サービスを提供する、こういう取り組みを国としてもしっかりと応援していきたいと考えています

先行モデル~香川県三豊市の例

 このような、デジタルとリアルが融合した地域生活圏形成に向けて、すでに先行するモデル事例があります。

 例えば香川県にある人口6・1万人の三豊市。実践例として注目されているのが、2022年からスタートしたAIオンデマンド交通です。これは分野・業種の垣根を超えて連携した地元企業等13社が、共同出資してプラットフォームを立ち上げ、広い意味での乗り合いバスを走らせるもので、デジタル上に仮想バス停を200カ所近く設定し、乗車予約した人がバスに乗るまで自宅からそれほど歩かなくても済むようにしているほか、乗客の目的地まで最短コースを通る、しかも料金はいわゆるサブスクリプションで、1人あたり月額6000円で何度でも乗り放題とするなど、既存のバス運行とは全く異なる利用システムになっています。民間のプラットフォーム主導による運営です。

 また「暮らしの大学」という名で学びの場の提供や人材育成を進めています。こちらも地元企業等から成る18社がプラットフォームをつくり、そこがリスキリングや趣味・実益、年齢や職業を問わず、多様な講座を設けています。こちらもサブスク制を導入していて、月1万2000円で全ての講座を受講し放題です。

 三豊市では他にも、民間主導の共同出資プラットフォームによる新たなサービスが続々と登場しています。市は、あくまでこうした民間主導の新たな事業を側面支援するということに徹し、その観点から市民に対する周知・広報活動の発信のほか、各事業者が持つデータを相互活用するなどのデータ連携基盤システムを整備しており、デジタル田園都市国家構想推進交付金を活用しています。

 将来的には食料やエネルギーなど、(この地域のプロジェクトデザイナー曰くの)〝ベーシックインフラ〟に関するサービスもサブスクによって導入され、極論すれば一つの家族が一定の月額定額制であらゆる基本的な生活サービスを受けられる、という状態になるかもしれません。やがては瀬戸内エリアに面する他の地域・自治体にも横展開されていくことが期待され、国土交通省としても、こうした地域生活圏が他地域にも広がっていくよう支援しています。

二地域居住促進の課題と対応

 地域生活圏にかかわる構想としてもう一つ、二地域居住等の促進があります。地方への人の流れを創出することが基本的理念の一つだと前述しましたが、その有力な政策の一つして捉えられているのが、この二地域居住・あるいは多拠点居住です。大まかなイメージとしては、例えば東京と他の地方の地域という具合に2カ所あるいは複数の生活拠点を設け、1年のうちの1、2カ月、あるいは毎週末のみなど、生活パターンはさまざまですが、複数の拠点で生活する、という構図になります。移住となると、生活拠点を全部移してしまうことからハードルが高くなる一方で、二地域居住は将来的には移住にもつながり得る、お試し的な居住も含めてその一歩、二歩少し手前の暮らし方・生き方だと言えるでしょう。現実として、若い世代を中心にニーズが高まってきています。

 国土交通省としてはこの流れを促進すべく、国土審議会に専門委員会を設け、政策的手当てや課題と対応などの議論を急ピッチで進めており、2024年初に中間とりまとめを行い、住まい、なりわい(仕事)、コミュニティの3点において、実践へのハードルとなる課題とその対応策を抽出しました。まず、住まいについては、地方部で特に増加が顕著な空き家をリノベーションし、例えば若年世代に人気の高く、比較的低コストで暮らせるシェアハウス仕様に仕立て直す等も有力な一案です。続いてなりわい(仕事)に関しては、やはりテレワーク環境への対応や、地方で副業・兼業したいというニーズに応えるための各種の方策などを考えています。

 また地域住民とのコミュニケーション不足や、二地域居住者と地域住民をつなぐコンシェルジュ的な人材の不足等がコミュニティに関する課題として指摘されました。例えばお祭りや観光イベントのときは一緒に盛り上がれるけれど、いざ地元の自治会など日常の暮らしに関する意思決定の場となると、二地域居住者はなかなか入っていきにくい、などの事例が挙げられており、この点は、小学校の廃校を利用した交流カフェなど、地域のあらゆる年代の人たちと触れ合う機会や場所を設ける等の方法論や、受け入れる側の自治体からのきめ細かな情報発信が不可欠、等々の点が議論されてきました。

 ほかにも、子供の学びの問題や地域の移動まわりのことなど、対応すべき課題やハードルは少なくありませんが、一つ一つクリアしてできるだけ早期に制度化し、長期的にみて、地方と交流する人が増えていき、地方への人の流れの創出のための機運醸成づくりにも取り組んでいきたいと考えています。同委員会では、中間とりまとめにおいて、新たな制度設計が必要との観点から、いくつかの具体的な施策を提言しています。まず、市町村が中心となり二地域居住に対するビジョンである促進計画を作成すること、その計画・ビジョンづくりにおいては、どういうエリアにどういう人たちが入ってきてほしい、そして地域とどう関わって欲しいかなどについて、地域の暮らしに携わる民間プレーヤーを含めた官民協議会を設置して話し合いを進めて意志決定すること、また、二地域居住者の支援活動を行う民間事業者やNPO法人等の指定制度を創設し自治体がこれを指定して当該法人等が活動しやすくすること等です。

 この中間とりまとめを受け、二地域居住等の促進に向けた制度設計、予算措置の調整を鋭意進めているところですが、同時に、このテーマは暮らしに関わるかなり広範な政策領域であり、霞が関全府省庁に関わるものと言っても過言ではなく、省庁間の連携が期待される事業も多々ありますので、こうしたことも進めていきます。

 新たな国土形成計画における全国計画の中には、ほかにも多様な国土づくりのイメージが盛り込まれていますが、今回は特にメインテーマである「新時代に地域力をつなぐ国土」にフォーカスしてみました。その実装の第一弾として、二地域居住等の促進の新しい制度がいち早く具体化するよう、全力を尽くしていく所存です。
                         
                                               (月刊『時評』2024年3月号掲載)

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