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【末松広行・トップの決断】ミュージックセキュリティーズ株式会社 小松真実氏

社会的リターンの〝見える化〟

末松 御社のような事業の場合、新型コロナウイルス感染拡大はどのような影響を?

小松 飲食店のファンドもたくさんありましたので、深刻な打撃を受けました。拡大当初はコロナ対象の融資や補助金等の施策が相次ぎ、ファンドを介さず金融機関から飲食店に直接融資するケースが増えたため、当社からの紹介案件が大幅に落ちたのです。現在は緩和が進み、閉店していたお店が営業を再開し始めたのに併せて、紹介案件数も急速に回復してきました。

末松 コロナ以前と現在とで、投資に対する観点や将来展望その他に変化など生じましたか。

小松 インパクト投資のありよう、それに連動する社会的リターンの〝見える化〟についてじっくり作り込みしてみました。その過程で実現した一例として、長野県のしなの鉄道を対象とした〝しな鉄ファンド〟があります。古い車両を新しく交換すると電力使用量を大幅に低減できCO2排出量を減らせるため、そのファンドを個人向け、法人向け双方に立ち上げたところ、今般のESG投資の波に乗って多くの投資家から投資が相次ぎました。グローバルなESGファンドは世の中に多々ありますが、地域やテーマに特化したESG投資はまだ希少だと思われます。〝しな鉄ファンド〟は、そのレアケースへの先例として位置付けられるのではないかと自負しています。

末松 そして脱炭素した分を、地域クレジットとして活用できればさらに理想的ですね。ご指摘の通り投資によってESGやSDGs の効果が見えること、これが何より重要な点だと思います。

小松 はい、〝見える化〟できることで、これまで動いてこなかった資金が動くようになり、これまで必要な資金が届かなかった会社、事業者さんのもとに届きやすくなると思います。

末松 社会リターンという点では、脱炭素に限らず、地域における文化・スポーツ振興など、さまざまな分野が範疇に入りますから、ファンドの対象も多岐にわたり投資機会も増えてくることが期待されますね。

〝待てるおカネ〟の提供が必要

末松 しなの鉄道の沿線エリアは最近ワインの産地でも知られていますね。日本酒だけでなくワインのファンドはいかがですか。

小松 実は日本ワインのファンドもかなり増えてきています。最初は2013年に北海道三笠市のTAKIZAWA WINERYさんで取り組んだのですが、ここで実感したのは、ワインそのものはもちろん、畑を作るファイナンスが重要なのだ、という点です。土地作りのための肥料や苗の段階からファンドを集めなければなりません。

 そして、約1カ月で400人超の方から満額3200万円を調達していただきました。ファンド期間を7年間に設定したのですが、スタートしてから5年間は売り上げがほぼ立ちません。これが難しいところです。

末松 そもそもブドウが育ってワインとして熟成されるまで待たねばなりませんからね。

小松 まさしくワイナリーを始めよう、という生産者さんには、ご指摘されたような〝待てるおカネ〟の提供が必要なのです。

末松 近年、日本ワインの評価は国際的にも高まっていますから、〝待てるおカネ〟の調達が普及すると、生産者さんには大いに励みになるでしょうね。一昔前はワイナリーと言うと一定の広さの土地が必要でしたが、規制緩和で小規模でもワイナリー経営が可能になりましたから、資金面での心配が解消されれば別の業種から新規参入を志す生産者も増えると思います。

小松 確かに北海道のワイナリーも、経営に乗り出したのはもともと札幌でカフェを経営していたシニアの方でした。投資した人に、生産したワインをお届けするのはもちろん、それ以上に喜ばれたのが、ブドウの収穫をお手伝いできるという特典です。投資家の90%は北海道以外にお住まいの方々でしたが、全国の投資家の方が北海道まで収穫に参集しました。そしてワイナリーでは収穫のバイトを雇う費用が節約できてWin-Win です。これも〝待ちながら楽しむ投資〟があればこそ、です。この事例をもっと広げていきたいと考えています。

資金と社会貢献をクロスボーダーに

末松 子会社もいくつか設立されていますが、その事業内容などをお願いします。そちらもユニークな活動内容だそうですね。

小松 例えば来春、北海道北広島市で日本ハムファイターズさんの新球場がオープンするのに合わせて、その名も㈱ボールパークシティという会社を立ち上げ、同市役所と包括連携協定を結びました。まさにボールパークのあるまち、というコンセプトで地元市民が球場内外に事業を立ち上げる際の資金調達など、活性化を図るお手伝いが出来れば、と考えています。市役所さんからも是非やってくれ、と歓迎されました。あと、音楽関係は現在、別会社として活動しています。

 また合弁会社も何社か設けており、例えば九州フィナンシャルグループさんと合弁を組みグローカルクラウドファンディングという会社を作っています。つい最近では岐阜県の十六銀行さんとも共同で会社を作りました。

末松 金融機関サイドから見ると、融資と投資は別の活動ですので、合弁会社を作ることで積極的に投資を図る、ということでしょうか。

小松 はい、これら金融機関の方々は当社の仕組みを非常によくご理解くださっており、高く評価していただいています。この合弁会社設立の流れは、信用金庫さんにおいても同様です。

末松 むしろ、地銀をはじめ金融機関が積極的に地域の事業に投資するよう変わっていくことが望まれますね。

小松 投資も含めて地域の金融機能を強化していきたい、というときに当社がお役に立てれば何よりです。

末松 投資したいと言う人がいて、対象もたくさんある。御社はその目利きの役を担うわけですが、その目利きのコツはどのあたりでしょう。

小松 まず、財務面など金融商品としての確かさを当社で念入りに審査します。一方、商品や事業そのものが投資家の共感を呼ぶような内容なのかどうか、いたずらに利益追求するのではなく明確な理念やこだわりの目的意識があるか、等々が重要なポイントになります。事業や商品が形となった時、何らかの社会的共感を得られるような魅力、役割、メッセージ、有意味性を発露できるかが問われますので、そうした定性的な事業の評価をわれわれは重視しています。こうした観点は事業の初期段階に、私自身が神亀酒造さんから徹底的に教えていただいたことでもあります。今度はその理念をもとに、全国の酒蔵さんをはじめ各事業者さんに恩返ししていきたいですね。

末松 将来的な展望などはどのように?

小松 私は、ある種のクロスボーダーは非常に重要だと捉えています。おカネの地産地消はもちろんですが、同時に国内から海外へ資金調達が図られることもまた大切です。日本の個人投資家は約2000兆円にものぼる金融資産を有していますので、これを海外に向けてどんどん投資していく、当然その逆も然りで、その橋渡しをするのが当社の役割だと認識しています。既にペルーにおいて米州開発銀行と連携しながら、地元農家の方に日本の個人投資家さんから資金を調達するファンドを立ち上げました。これは資金にとどまらず農業技術支援という側面を色濃く有しています。農協など日本ではごく一般的な仕組みを現地流にアレンジして創設し、農家の経営基盤を強化するという取り組みです。

 また当社はアジア開発銀行やJICAなど国際機関と連携しており、JICAさんから出向してくれている人材もおります。ぜひ、地域金融機関さんからもどんどん出向していただきたいですね。基本的に当社はオープンで、ノウハウも積極的に提供していきたいと考えていますので。

末松 ちなみに、小松社長ご自身は現在も音楽活動を?

小松 いえ、今はもうなかなか(笑)。それこそ音楽などは、息長く継続しないとダメですね、やりたいとは思っているんですけど。

末松 本日はありがとうございました。

インタビューの後で

  文中、大手行と地域金融とで融資の性質が違い、案件ベースに対しては柔軟な資金調達が有効であるとのご指摘がありました。これは今後の投資の様態について一つのヒント、すなわち対象によって融資・投資の使い分けを図り、資金の循環を円滑化する前例になろうかと思われます。小松社長はまさにその先鞭をつけた経営者であると言えるでしょう。

 と同時に、ワインにしてもボールパークにしても、小松社長がいかに国内、しかも地方・地域内で資金を循環させることに努力されているか、対談からお分かりいただけると思います。

 とくに脱炭素の流れの中で新たな事業、そして資金需要が相次いで生じつつあるので、小松社長の取り組みは地域経済活性化に加え、社会課題解決という複合的な効果をもたらしていると言えるでしょう。小松社長は、社会貢献につながるリスクマネーであれば投資したいという法人、企業は数多くいるはず、と確信されていました。魅力的な事業があれば資金循環の可能性は必ず広がると思います。

 一方、地域に寄り添う姿勢を貫徹されていながら、同時に国内外の資金と人材の交流に向けて気宇壮大な構想を抱いている点なども、非常に将来性豊かであると感じました。海外においても社会貢献によるリターンという構図は必ず受け入れられると思います。
                                            (月刊『時評』2022年12月号掲載)





すえまつ・ひろゆき 昭和34年5月28日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。58年農林水産省入省、平成21年大臣官房政策課長、22年林野庁林政部長、23年筑波大学客員教授、26年関東農政局長、神戸大学客員教授、27年農村振興局長、28年経済産業省産業技術環境局長、30年農林水産事務次官。現在、東京農業大学教授、三井住友海上火災保険株式会社顧問、等。