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CN特集/2050年ネットゼロへ—鍵は水素サプライチェーン

環境省における水素実証事業

――水素の活用、ネットゼロ実現に向けて地域資源を活用した自立分散型の脱炭素社会、持続可能な社会に向けた実証とは具体的にどういった取り組みなのでしょうか。

加藤 実施中の事業を含め、北は北海道から南は九州まで、全国10カ所で取り組みを進めています。それぞれサプライチェーンの構築に向けた実証になりますので「製造(つくる)」「貯蔵・輸送(ためる・はこぶ)」「供給・利用(つかう)」を組み合わせた事業となります。

 では、具体的な事業や取り組み、その概要について触れておきます。

①京浜臨海部での燃料電池フォークリフト導入とクリーン水素活用モデル構築実証(神奈川県横浜市・川崎市)

概要 再生可能エネルギーを活用した「CO2フリー水素の製造」に加え、その「貯蔵」「輸送」および「利用」も含めた水素サプライチェーンの構築を通じて、水素利活用における簡易な統合的システムを実現し、将来の地域展開と地球温暖化対策への貢献を目指し、⑴風力発電(ハマウィング)により水を電気分解して水素を製造するシステム、⑵最適な水素供給を行うための貯蔵と輸送の仕組み、⑶燃料電池フォークリフトの導入利用、⑷水素サプライチェーンの事業可能性調査(水素価格、CO2削減量など)の四つのテーマで取り組んできた。

②家畜ふん尿由来水素を活用した水素サプライチェーン実証事業(北海道河東郡鹿追町)

概要 地域内で発生する家畜ふん尿由来の水素を地域内で利用することで、化石燃料利用量を削減し、災害に強い分散型エネルギー事業を実現する地産地消型モデルを目指す。具体的には、北海道十勝地区(バイオマス産業都市)において、牛舎の家畜ふん尿をメタン発酵することで得られるバイオガスから水素を製造し、燃料電池による電気・熱供給とFCV・FCFLなどへ利用するサプライチェーンモデルを実証する。また2020年度から、簡易型水素充填車の活用を開始し、おびひろ動物園に純水素燃料電池を併設した水素吸蔵合金(MH)タンクを設置し、活用してきた。

③苛性ソーダ由来の未利用な高純度副生水素を活用した地産地消・地域間連携モデルの構築(山口県周南市・下関市)

概要 山口県周南市に立地する苛性ソーダ工場から発生する未利用で高純度な副生水素を回収し、地域で多面的に利用する地産地消の水素需給モデルに加え、まとまった量の水素を液化して広域にも供給するモデルを構築。2020年度から、水素量補完のための再エネ由来水素製造、および純水素を燃料とするボイラーの活用を開始してきた。

④使用済プラスチック由来低炭素水素を活用した地域循環型水素地産地消モデル実証事業(神奈川県川崎市)

概要 使用済プラスチックを原料とした水素を製造し、パイプライン輸送により、業務施設や研究施設の純水素燃料電池や燃料電池自動車で利用するモデルを実証。2020年度には、川崎キングスカイフロント東急REIホテルに植物工場ユニットを設置し、熱電負荷増加による純水素燃料電池稼働率向上の効果検証を開始してきた。

⑤小水力由来の再エネ水素導入拡大と北海道の地域特性の適した水素活用モデルの構築実証(北海道釧路市・白糠町)

概要 小水力による電力を用いて再エネ水素を製造し、地域内で利用する水素サプライチェーンを構築することで賦存量の大きい北海道の再生可能エネルギーの導入拡大を図り、CO2排出量の削減を実現することを目的とする。北海道白糠町にある庶路ダムの維持水量を利用した小水力発電により製造した再エネ水素を地域内の複数の施設に設置した純水素型燃料電池で利用するとともに、燃料電池自動車へ供給する実証を行う。また、地方自治体などと連携し、地域の資源を活用した水素サプライチェーンを構築し、全国への普及モデルを確立し、水素利用の拡大につなげてきた。

⑥富谷市における既存物流網と純水素燃料電池を活用した低炭素サプライチェーン実証(宮城県富谷市)

概要 民生用水素利用実現のため、⑴既存物流ネットワークを利用した低CO2・低コスト輸送、⑵太陽光発電電力が減少する夕方から夜にかけての利用、⑶地産地消型の水素需給体制――といった三つのサプライチェーンに係る実証を行う。また2020年度には、非常時を踏まえたサプライチェーンの強靱化を目的に、水素混焼発電機を新設し、水素製造に必要な補器類へ電力の供給を開始してきた。

⑦再エネ電解水素の製造及び水素混合ガスの供給利用実証事業(秋田県能代市)

概要 風力発電により水素を製造し、秋田県産ガスに模した高熱量の模擬ガスと混合することで、水素混合都市ガスを製造している。同混合ガスをガス配管により隣接地に設置した利用場所へ供給し、市販ガス機器において水素混合都市ガスを実際に使用している。2020年度には、小型ボイラー・マイクロガスエンジン コレモ・家庭用燃料電池エネファームtype Sを新設し、水素混合都市ガス使用を開始してきた。

⑧建物及び街区における水素利用普及を目指した低圧水素配送システム実証事業(北海道室蘭市)

概要 風力発電で水素を製造し、水素吸蔵合金(MH)タンクと水素配送車を用いることで、低圧のまま貯蔵・輸送(水素のみの移送)を行っている。純水素燃料電池を稼働させて、電力と熱を需要側施設へ供給する。また、むろらん温泉ゆららの建物未利用熱や生涯学習センターきらんの燃料電池排熱を水素移送に利用することで、エネルギー効率の向上を目指す。生涯学習センターきらんへの水素供給は2020年度より開始してきた。

⑨北九州市における地域の再エネを有効活用したCO2フリー水素製造・供給実証事業(福岡県北九州市)

概要 太陽光発電や風量発電など再エネの施設が集積する北九州市響灘地区において、多様な再エネの余剰電力を効率的に用いて水素を製造する「水電解活用型エネルギーマネジメントシステム」を開発・導入することでCO2フリー水素の低コストなサプライチェーンモデル構築を目指す。また余剰電力を安価に調達して水素を「つくり」、県内各地に「はこび」、「つかう」一連のサプライチェーンを実際に運用する中で、低コストなCO2フリー水素の製造・供給モデルを構築し、県内におけるCO2フリー水素の製造・供給拠点化とCO2フリー水素の普及を図ってきた。

⑩最適運用管理システムを活用した低コスト再エネ水素サプライチェーン構築・実証(福島県浪江町)

概要 太陽光発電を利用した水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」より出荷されたグリーン水素を福島県浪江町内に設置した燃料電池やFCVなどの水素を利活用できる設備の燃料として利用する。また、これら水素サプライチェーンを最適化する仕組みとして、水素需給量・搬送状況を考慮した最適搬送管理システムを町の水素利用プラットフォームとして構築し、水素サプライチェーンの全体管理・最適化を目指す。構築したシステムは、町全体が停電した場合にも運転できる仕様としておき、BCPに配慮した町のインフラとしても利用してきた。

 実証のうち①と⑤は2021年3月に終了。⑨⑩を除くその他の実証は今年度でいったん終了とし、成果をまとめるとともに、今後の社会実装につなげる予定としています。




ネットゼロ、脱炭素社会実現に向けた国内外での取り組み

――さまざまな場面、状況における水素サプライチェーンの構築が進んでいるわけですね。

加藤 市町村別のエネルギー収支をみると約9割の自治体のエネルギー収支が赤字になっています。日本全体でみると年間約11兆円を化石燃料のために海外に支払っていますし、現状のように原油価格が上昇すれば、当然支出は増えることになります。しかし、再生可能エネルギーをきちんと活用できるようになれば、地域としては⑴経済の域内循環、⑵産業と雇用創出、⑶レジリエンス向上――、日本全体としては⑴エネルギー自給率の向上、⑵化石燃料輸入代金の低減――といったメリットがあり、脱炭素化も進めることができます。

  そのため、地域脱炭素ロードマップに基づき、少なくとも100カ所の脱炭素先行地域で2025年度までに脱炭素に向かう地域特性などに応じた先行的な取組実施の道筋をつけて、2030年度までに実行するとしています。意欲のある自治体に積極的に参加していただけるように、脱炭素先行地域の一次募集を今年1月25日から2月21日に行い、今春には選定・公表することになっています。募集は既に締め切られていますが、今回は複数の自治体で共同で応募頂いたものを含む79件のご応募をいただきました。

――地域の脱炭素化を進めるための施策、そして最後に今後の展望についてお聞かせください。

加藤 地域脱炭素を推進する、あるいは2030年度目標や2050年カーボンニュートラル実現に向けて、意欲的な地域の脱炭素の取り組みを複数年度にわたり、計画的、かつ柔軟に実施することができるように環境省では「脱炭素先行地域づくり事業」、「重点対策加速化事業」への交付金を創設しています。それ以外にも地域共生型の再エネを導入する地方公共団体に対しては、計画等策定支援、設備等導入を一気通貫で支援するために、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金に先立ち「地域共生型再エネ導入加速化支援パッケージ」で意欲的な地域には先行支援も行っていくこととしています。

 また補助金・交付金頼みではなく、ビジネスとして脱炭素を進めていきたいという動きが出てくることが予測されますので、新しく出資を行う官民ファンドをつくり、そこからの出資を可能にすることで地域の脱炭素化を進めていけるような仕組み、脱炭素化支援機構(仮称)を設立するため、今国会に地球温暖化対策推進法の改正案を提出しています。

 地域の脱炭素化に向けては、環境省以外のいろいろな省庁の支援事業も地域の主体が組み合わせて活用していただく必要があると思います。例えば、文部科学省が進めている学校のZEB化などの事業を上手く組み合わせて実施していただくことが重要となります。

 これらの枠組も活用しつつ、まずは、民生部門の電力由来CO2の削減に取り組み、電力以外の部分の脱炭素化を水素および水素ベースの燃料の実証から実装段階に段階的に引き上げていきたいと思います。

 そのほか、脱炭素化に向けた取り組みは国内のみならず、海外でも展開できればと思っていますので、二国間クレジット(Joint Crediting Mechanism:JCM)なども途上国を中心に連携協定などを締結し、技術支援やCO2削減量を日本と分け合うといった取り組みも進めていきたいと考えています。さらに再エネが豊富な第三国(オーストラリアなど)において、再エネ水素を製造し、島嶼国などへの輸送・利活用を促進するといった実証事業も2021年度から実施していますので、本事業により、島嶼国(JCM国)に再エネ水素を供給し、需要を醸成してJCMプロジェクトにつなげるとともに、途上国の脱炭素社会への移行実現にも協力していきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。                                (月刊『時評』2022年4月号掲載)