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【時事評論】出口が見えかけた今、首長の存在感を

対立を避け、国と地方の連携と協調を求む

pixabayより
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 5月14日、政府は新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言に関し、39の県を対象から解除した。新型コロナウイルスの封じ込めにはまだ長い時間を要すると思われるが、一時の自粛徹底を求めた時期に比べれば、まさに緊急事態を脱し、次のフェーズに移行したと言えるだろう。大型連休明けからメディア等で盛んに使われ始めた〝出口戦略〟が具体性を帯び、新型コロナと付き合いながら可能な範囲で日常への原状回復を図っていくことが当面、社会の基本的スタンスとなる。むろん、これまでの鬱屈を一気に晴らすかのような行動が再びクラスターを生み出しかねないことは、すでに諸外国で先例がある。やはり基本は、〝正しく恐れる〟ことであり、しばらくは〝正しく恐れ続ける〟ほかはない。

 政府においては今後、急速な経済回復と公衆衛生秩序維持のバランスをとることが求められるが、一連の過程では首長のリーダーシップがクローズアップされた。今後より一層、各地方自治体の対応、存在感は増してくるであろう。公立学校の授業、飲食店の営業、平素の外出など、社会のあらゆる分野で、自治体内の状況に基づく独自の判断が求められる。国と地方の判断・連携姿勢に注視が必要だ。感染拡大当初は国の方針に則り、ほぼ一律に対策を講じることが基本的な流れであったが、これからは各自治体の自主自立的判断と決定に対し、理解を得るための説明責任と情報発信の比重が増すことになると想定される。

 しかし状況の変化によって、時には難しい対応に迫られるケースもあるだろう。例えば隣県をはじめ他の自治体の方が自身の地域より、自粛内容が緩やかで経済活動の範囲が広いといった場合、なぜそうした相違が生じるのか市民に納得してもらうのは容易ではない、等々が考えられる。感染の状況が自治体ごとにそれぞれ異なるのであれば、要請する自粛の内容も強弱が生じて当然なのだが、やはり首長が先頭に立って、自治体内の感染状況を他地域と比較考量するなど、データをもとに明確な情報を発信し、必要とされる対策の理由と背景を明らかにしなければならない。各種事業者をはじめ長い抑圧を強いられた市民に対し、自粛は回復へのプロセスに不可欠であることを粘り強く発信していくという、透明性の担保が最善の道だ。同様に、感染が再拡大した場合は、再度の自粛を行わざるを得ない状況も十分起こりえるし、その要請を市民に発するのは、一度解放された気分をまた抑制するという意味で、むしろ最初に自粛を求めた時よりもハードルが高いかもしれない。しかし、明確な意思と方向性をもとに勇気をもって決断する姿勢が重要だ。

 むしろ、この機に知事をはじめ各自治体首長はこれまで以上に、もっと前面に立って自身の言葉で市民に呼び掛けるべきだ。今春以後、多くの知事がメディアに登場することで、図らずも多くの市民が首長の存在、役割にこれまでになく関心を持つようになった感もある。首長と市民が、ともに困難を乗り越えるにはどうあるべきか考える好機として、首長には大いにリーダーシップと決断力を発揮してもらいたい。

 と同時に、これまで以上に国と自治体の強固な連携が望まれるのは言うまでもない。これは感染が広がる国際社会において、国ごとの対立を先鋭化させることなく、情報と技術を相互連携するなど、協調して終息を図るべきであるのと同じ構図だ。5月上旬、吉村洋文・大阪府知事と西村康稔・新型コロナウイルス対策担当相との間で、出口戦略の発信をめぐり批判の応酬があったが、これはそのまま国と地方との対立構図として捉えられ、いたずらに国民を不安にさせるばかりで何ら益はない。国は地方・地域の実情をきめ細かく把握して今後の感染拡大および経済再活性の大局を見定め、自治体も足下の医療や教育の現場をウオッチして、それぞれの立場から積極的かつ建設的な意見を述べ合うべきであるし、議論の機会も数多く設けてもらいたい。官民の有機的な連携はもちろん、専門有識者の意見に耳を傾け、また各種団体・協会、NPOとも幅広く意見交換していくべきであろう。自治体の情報発信を、分野の垣根を超えた新たなネットワーク再構築のツールとすべきである。

 緊急事態宣言の前後、〝3密〟状態が発生しやすい都市部と相対する形で、地方における職住環境が見直されたという指摘がある。長期的な視点に立てば、一極集中のリスクが実感され、都市と地方の人口不均衡が解消される契機となる可能性もある。であれば終息後はまさしく魅力ある地方形成の好機と言えるだろう。まさに、首長のリーダーシップに基づく自治体間の切磋琢磨が望まれる。トンネルの向こうに光が差してきた今、その準備を始めて早過ぎるということはない。

(月刊『時評』2020年6月号掲載)