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【時事評論】人材枯渇が進む霞が関への処方箋

変わらない絶望?

 今年4月末、「カラフルな公務を目指して―誰もが貢献できる持続的な職場へ―」と題した提言が「〝人人若手〟未来の公務の在り方を考える若手チーム」から提出された。

 同チームは、令和3年9月、河野太郎国家公務員制度担当大臣(当時)と川本裕子人事院総裁の発意の下、「今後の公務、働き方がどうあるべきか」を自由に議論するために設けられたもので、内閣人事局から3名、人事院から5名の若手職員(課長補佐級・係長級)が参画したという。

 あらためて、提言の内容を見ると、次のような項目が並んでおり、それぞれ、掬きくすべき内容となっている。

①自律と多様性が育むカラフルなキャリアパス
・人事異動を「年功序列」から「手挙げ」へ
・多様な人材をいかす戦略づくり
・戦略的な人事のための体制・システムの整備

②経験をシェアして成長する行政
・みずから学べるコンテンツとコミュニティづくり
・知恵を出し合う「全府省版20%ルール」
・公務の外から学ぶ出向・副業機会の充実

③フェアな評価と処遇
・「360度評価」と成長につながるフィードバック
・「ポストに応じた給与」への見直し

④無理なく働ける組織デザイン
・マネジメント能力に着目した登用
・業務量に見合った適切な人員の配置
・誰もが貢献できるジョブシェアリング

⑤令和スタンダードの仕事の仕方
・伝統的な仕事の進め方のアップデート
・国会にお願いしたいこと

 しかし、マスコミは、この提言を「変わらない絶望」という「自虐的」フレーズに代表させて報道し、あまつさえ「若手『変わらぬ絶望』訴え」という見出しをつけた新聞報道まであった。

 この「変わらない絶望」というフレーズは確かに同提言の中で出てくるが、それは離職者へのインタビューで語られた「『将来が良くなる』という希望があれば辛い状況でも頑張れるが、変わる見込みがなければ、黙って組織から離脱するしかない」という回答を踏まえて、こうした「変わらない絶望」を乗り越えるために関係者の支援と協力を求めるという前向きな議論の中で使われたものだ。

 それを「若手『変わらぬ絶望』訴え」と言うのは、おそらく違う。同チームは絶望してはいないのである。

 それでは、若手のこうした健気で真摯な提言を受けて、具体的にどのような改革が打ち出されるのであろうかと期待していたところ、今年6月10日になって、人事院から国家公務員採用試験を見直すための具体策を盛り込んだ年次報告書が国会と内閣に提出された。

 優秀な人材確保に向け、民間企業の採用面接の解禁時期に合わせ、春に実施する総合職の試験を1カ月程度前倒しすることを検討するという。

 現在、国会公務員を志望する者は、4月下旬から6月上旬に筆記試験や面接を受け、合格者は6月下旬に「官庁訪問」と呼ばれる採用面接に臨む。

 一方、民間企業の採用面接の解禁日は6月1日のため、それに合わせるために試験を1カ月程度前倒しする必要があるという。

 また、試験に合格しながら民間企業などにいったん就職したとしても、官庁訪問ができるように試験の合格有効期限を現在の3年からさらに延長することも視野に入れるという。

 人事院の川本裕子総裁は記者会見において「人材の確保は危機的状況で、何とかしないといけないという強い思いがある。スピード感をもって取り組み、公務員志望者の増加につなげていきたい」と述べたというが、今回の試験時期の前倒しと合格有効期間の延長が、その答えであろうか。

 もちろん、こうした取り組みにも意味はあるだろうが、「これだけか」と思われてしまっては逆効果ではないか。

 本当に霞が関の人材確保をしたいのであれば、「いや、これだけではない」というメッセージを早く、強く、具体的に打ち出すことが肝要だ。

 その際には、若手チームが遠慮がちに述べた「業務量に見合った適切な人員の配置」が出発点となるべきだ。

 人事院が公表している人口千人当たりの公務員数を国際比較すると、フランス89・5人(うち中央政府24・6)、英国69・2人(うち中央政府5・1人)、米国64・1人(うち中央政府4・4人)などとなっている中、日本は、実に36・7人(うち中央政府2・7人)である(2016年、ただし米国のみ2013年)。

 多くの問題がこのような過少な職員数と過酷な業務量という単純な事実から発生していることは明らかだ。現場の疲弊状況は、おそらく多くの人々の想像を超えている。

 民間企業との就職活動時期がどうこうよりも、この根本課題にメスを入れることなくして有為な人材の「霞が関離れ」は終わるはずがない。

 一刻も早く、「変わらない絶望」を「変わる希望」とすべく、まずは公務員の増員と処遇改善を図ることが処方箋であるはずだ。
                                               (月刊『時評』2022年8月号掲載)