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主幹が問う「この國のかたち2024」内閣総理大臣 岸田文雄氏

経済産業省、環境省を中心とした「サーキュラーエコノミー」政策にも注力

――岸田総理は、地方創生と社会課題解決を両立させる循環経済の取り組みも進めると提唱されています。「時評」の読者には、地方自治体の首長も多数おられますので、循環経済について、もう少し詳しく教えて下さい。

岸田 実は、私は昨年8月に富山に出張し、循環経済、いわゆる「サーキュラーエコノミー」の先進事例を視察しました。10月には、有識者を交えた車座のタウンミーティングも実施し、地域にお住まい皆さんの生の声をお伺いしました。

 高い技術を生かした「地域に密着した資源循環の取り組み」は、まさにわが国が強みを持つ分野であり、「サーキュラーエコノミー」は、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」や「デジタル田園都市国家構想」を進める上でも重要な政策だと位置付けています。と言いますのも、「サーキュラーエコノミー」は、持続可能な経済モデルとして国全体、さらにはアジアの国々にも広がっていく、大きなポテンシャルを有していると言えるからです。

――どうやら「サーキュラーエコノミー」は、今後の重要なキーワードになりそうですね。

岸田 はい。総合経済対策にも、「サーキュラーエコノミー」の推進を重要な政策として位置付け、地方創生と社会課題解決の両立に向けた、産官学連携プロジェクトを加速するための施策を盛り込みました。今年の夏に取りまとめる予定の「循環型社会形成推進基本計画」においても、「サーキュラーエコノミー」政策が中長期的かつ重要な柱として位置付けられることなるでしょう。政府としても、「サーキュラーエコノミーが、地方創生の起爆剤となるよう、経済産業省、環境省を中心に、全力を挙げて取り組んでいきたいと思います。

――キーワードと言えば、最近、「ライドシェア」が話題に上ることが多くなっています。「ライドシェア」についても、岸田総理のお考えをぜひお伺いしたいのですが……。

岸田 「ライドシェア」は、各国の事情によって状況はさまざまですが、多くの国で、先進的にデジタル技術を活用しながら自家用車の有償利用を進めています。

 一方、わが国では、これまで、かなり限定された地域と厳しい条件で自家用車の有償利用を認めてきましたが、地域交通の担い手や移動の足の不足といった深刻な社会問題が、現実に、各地で生じており、地方部、都市部、観光地など、地域によって生じている要因や問題もさまざまです。

 こうした現実の課題に向き合い、解決していくため、観光地や都市部を排除することなく、また、デジタル技術を活用した新たな交通サービスという観点も排除せず、どのように「ライドシェア」を適切に推進していけるかを考えていくべきでしょう。

激甚化・頻発化する災害から国民の生命、暮らしを守る

――総合経済対策にも、「国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心の確保」が挙げられていますが、国土強靱化の観点で災害対策について、岸田総理のお考えを伺えますか。

岸田 昨年も、5月に石川県能登地方を震源とする地震がありましたし、6月以降も相次ぐ大雨・台風により、各地で大きな被害が発生しました。私自身、豪雨災害の被災地を訪れ、被災者の方々からお話を伺いましたが、激甚化・頻発化する災害から国民の生命、暮らしを守ることは、私の内閣の重要な使命です。

 被災自治体との意見交換では、過去の治水対策により浸水被害を軽減できた事例についても紹介を受け、事前防災・減災対策の重要性を改めて実感しました。災害の多いわが国だからこそ、防災・減災、国土強靱化の取り組みを着実に進めることが重要です。2023年度補正予算においても、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」関連で1・5兆円を確保しました。引き続き、流域治水対策、インフラ老朽化対策、線状降水帯の予測精度向上など、ハード・ソフトの両面から各種対策に取り組んでまいります。また、5か年対策後も取り組みが着実に推進されるよう、改正国土強靱化基本法に基づき、「実施中期計画」の策定に向けた検討を進めます。

――防災対策の高度化・効率化のためには、先ほど話題に上ったデジタル技術の活用が極めて重要なのではありませんか。

岸田 おっしゃる通りです。政府では、マイナンバーカードを活用した避難所などにおける被災者情報の早期把握および被災者支援の効率化など、防災DXの加速化に取り組みます。このほか、南海トラフ巨大地震や首都直下地震についても、最悪の事態を想定して対策の見直しを進めます。国民、あるいは地方自治体の皆さまにおかれましても、ハザードマップの確認や食料の備蓄など、防災への日々の心がけをぜひお願いいたします。

「人間の尊厳」を中心に多様性や包摂性を重視する「岸田外交」を実施

――第212回所信表明演説において、岸田総理は「外交・安全保障も大きな変化を迎えている」との認識を示されています。特に、ウクライナ地域や中東情勢をはじめ、高まるアジア周辺諸国との緊張など、外交政策をどのように進めていかれるのか、岸田総理のお考えをご説明下さい。

岸田 現在、世界は、ロシアによるウクライナ侵略やイスラエル・パレスチナ情勢、さらには気候変動や食糧危機など、複合的な危機に直面し、国際社会はそれらをめぐって分断を深めつつあります。こうした中、世界を対立ではなく協調に導くため、人間の命、尊厳が最も重要であるという、誰もが疑いようのない、人類共通の原点に立ち返るべく、「人間の尊厳」を中心に据えた外交を訴え、各国に対し働きかけてきています。

――昨年は、岸田総理のリーダーシップのもと、G7広島サミット(第49回先進国首脳会議)をはじめ、各地でG7関係閣僚会合が開催され、わが国にとって大きな成果がもたらされたと思います。

岸田 法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化すべく、G7や日米豪印といった同盟国・同志国との連携を推進しつつ、いわゆる「グローバル・サウス」との国々を含む、国際社会の幅広い支持と関与を得るため、多様性や包摂性を重視する外交を通じて、経済活動の深化を含む、多角的な外交を推進していくことが日本にますます求められるようになるはずです。

――こうした多角的な外交推進のためには、「強く実効的な国連」外交も軸になるのではありませんか。

岸田 その通りですね。「強く実効的な国連」とは、ダグ・ハマーショールド第2代事務総長が目指した国連の理想ですが、わが国も強く実効的な多国間主義を推し進めるとともに、安保理改革を含む国連機能の強化にも積極的に取り組み、「協調のための国連の実現」に向けて貢献していきたいと考えています。グローバルな危機により甚大な影響を受けているぜい弱な国・人々に寄り添った、きめの細かい協力を行うため、人間の安全保障の理念に基づき、「人間中心の国際協力」を着実に進めていきます。

――日本を取り巻く現状について、岸田総理はどのように捉えておられますか。

岸田 わが国を取り巻く安全保障環境の現状は、戦後最も厳しいものだと認識しています。しかし、いかなる状況になろうとも、私には日本国民の安全と繁栄を守り抜く責任があります。わが国防衛力の抜本強化とともに、日米同盟などによる抑止力・対処力を高めながら、日本にとって好ましい国際環境を維持・強化するための取り組みを推進していきます。

――こうした現状のもと、わが国の防衛政策への対応も求められていると思いますが、岸田総理のお考えを改めて教えて下さい。

岸田 わが国に望ましい国際環境を生み出すためには、まず外交努力が欠かせません。その上で、力強い外交に説得力と迫力を持たせるものこそ、わが国自身の防衛努力です。このため、現在の厳しい安全保障環境を踏まえて、従来の延長ではなく、わが国を守り抜くための防衛力を積み上げ、必要な予算水準を確保して、防衛力を抜本的に強化することにしました。

――詳しく、ご説明下さい。

岸田 具体的には、相手に攻撃を思いとどまらせるための反撃能力の保有や、サイバー・宇宙など新領域への対応、装備の維持や弾薬の充実などを進めることにしています。また、スタンド・オフ・ミサイル取得の早期化や、防衛生産・技術基盤の強化を推進するなど、防衛力を早期に強化すべく不断に取り組んでいるところです。国民の命と平和な暮らし、そして、わが国の領土・領海・領空を断固として守り抜くため、防衛力の抜本的強化を速やかに実現してまいります。

「公」の志をもった優秀な人材を確保し、全ての公務員が意欲と能力を最大限に発揮できる職場を

――最後に、「時評」の主要読者である霞が関をはじめとする公務員の皆さんへのメッセージをぜひお願いいたします。

岸田 現在、われわれは、国内外で大きな時代の変化の流れが起こる歴史的な転換点を迎えています。時代の変化に応じた先送りできない課題に一つ一つ挑戦し、答えを見出して、変化の流れをつかみ取ることが、内閣総理大臣としての私の使命だと考えています。

 この使命を果たすためには、さまざまな議論を通じて検討した上で決断し、それを予算案や法案として形にし、実行に移していく必要があります。これらは、当然、私一人では成し得ないことであり、国家公務員の皆さんと共に政府一丸となって取り組むことで初めて可能になります。ぜひ国家公務員の皆さんには、仕事に誇りを持って、各々の職務に取り組んでいただき、さまざまな課題に立ち向かい、変化を力に変えて、ともにこの国の未来を切り拓いてまいりましょう。

 チームの力を引き出すのはリーダーにとって最も大切なことです。「公」の志をもった最優秀な人材を確保し、全ての公務員の皆さんが意欲と能力を最大限に発揮できる職場を目指して、業務の効率化やデジタル化、マネジメント改革、テレワークやフレックスタイム制を活用した多様で柔軟な働き方の推進など、働き方改革にも強力に取り組んでいくことをお約束したいと思います。

――2024年の干支(かんし)は、「甲辰(きのえたつ)」です。十干(じっかん)の始まりである「甲」と、力強く天に昇る「辰」が合わさる年となります。私からも日本の明るい変化の兆しを確かなものにしていただけることを岸田総理をはじめ政府の皆さんにはぜひお願いしたいと思います。このたびはありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2024年1月号掲載)

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