お問い合わせはこちら

主幹が問う「この國のかたち2024」内閣総理大臣 岸田文雄氏

デフレからの完全脱却を目指し、経済に重点を置く

きしだ ふみお/1957年生まれ、東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、82年日本長期信用銀行入行。87年岸田文武衆議院議員秘書を経て、93年第40回衆議院議員総選挙に広島1区から出馬し初当選。以後当選10期。2007年沖縄・北方・再チャレンジ担当大臣、08年消費者行政推進担当、宇宙開発担当大臣を兼任。12年外務大臣(以降連続5期務める)、17年7月防衛大臣兼務、8月自民党政務調査会長兼日本経済再生本部長、21年9月自民党総裁、同年10月より現職 (ただし、同年11月4日~10日は外務大臣を兼ねる)。
きしだ ふみお/1957年生まれ、東京都出身。早稲田大学法学部卒業後、82年日本長期信用銀行入行。87年岸田文武衆議院議員秘書を経て、93年第40回衆議院議員総選挙に広島1区から出馬し初当選。以後当選10期。2007年沖縄・北方・再チャレンジ担当大臣、08年消費者行政推進担当、宇宙開発担当大臣を兼任。12年外務大臣(以降連続5期務める)、17年7月防衛大臣兼務、8月自民党政務調査会長兼日本経済再生本部長、21年9月自民党総裁、同年10月より現職 (ただし、同年11月4日~10日は外務大臣を兼ねる)。

 昨年のG7広島サミットは世界の注目を集めた一方で、中国との関係や中東・ウクライナなどの緊迫した情勢が勃発。さらに急速な物価高の原因となった食糧や資源エネルギー問題はじめ、国民経済全体に深刻な課題が突き付けられた一年だった。そうした中で岸田政権は、何より「経済」の成長を〝一丁目一番地〟と捉え、新たなステージに乗り出すためのさまざまな方策を打ち出している。急速に進行する人口減少問題とどう向き合うか、また国内外で進行する地域や社会の分断化現象に解決の糸口は見い出せるのか、わが国トップの岸田首相に今年一年を大所高所の観点から語ってもらった。
                       (聞き手・米盛康正(本誌主幹)撮影:児玉大輔)


――岸田総理は、昨年10月、第212回国会における所信表明で「変化の流れをつかみ取る」と強い決意を示されました。特に経済については、「最初につかまなければならない」と強調されたのが印象的でしたが、〝一丁目一番地〟である総合経済政策について詳しく教えて下さい

岸田 私は、所信表明演説において「何よりも経済に重点を置いていく」と申し上げました。わが国経済は、デフレ脱却の千載一遇のチャンスを迎えています。しかし、現時点では、賃金上昇が物価高に追いついておらず、これを放置すれば再びデフレに戻りかねません。この千載一遇のチャンスを逃すことなく、デフレから完全に脱却するため、昨年11月に「デフレ完全脱却のための総合経済対策~日本経済の新たなステージにむけて」をとりまとめました。

 この総合経済対策では、①足元の急激な物価高から国民生活を守るための対策②地方・中堅中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長の実現③成長力の強化・高度化に対する国内投資促進④人口減少を乗り越え変化を力にする社会変革の起動・推進⑤国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心の確保――の5本を柱にしていますが、特に私は、賃上げの原資となる企業の稼ぐ力を強化する「供給力の強化」が最も重要だと位置付けています。

――企業の稼ぐ力を強化する「供給力の強化」はどのように進めていかれるのでしょうか。

岸田 具体的には、半導体や脱炭素の大型投資に対する集中的な支援、賃上げ税制を強化するための減税措置、戦略物資についての過去に例のない投資減税、イノベーションをけん引するスタートアップの成長を促すための規制・制度改革など抜本的な強化策を講じていきます。

――岸田総理は、政権誕生時から「新しい資本主義」を掲げられ、所信表明演説でも「30年続いたコストカット経済から」絶好の脱却の好機だと力説されています。岸田総理が目指そうとされている「日本経済の新たな経済ステージ」とは、デフレ完全脱却を前提とされているとの理解でよいですか。

岸田 その通りです。日本経済は、賃金も上がらない、物価も上がらない、投資も伸びないデフレの悪循環に長年にわたり、苦しんできました。しかし、ようやく明るい〝兆し〟が出てきました。30年で最も高い水準の思い切った賃上げ、30年ぶりの株価水準、過去最大規模の名目100兆円の設備投資など、明らかに経済の潮目が変わってきています。安倍政権以来取り組んできた「デフレからの脱却」、さらにこの2年間、「新しい資本主義」を掲げ、賃上げと成長の好循環を回そうとした結果だと言えるでしょう。

 この〝兆し〟を確かなものとするべく、あらゆる政策を総動員し、国民の可処分所得を拡大するとともに、わが国の「稼ぐ力」を強くしていくために全力を挙げています。これにより、賃金が上がり、家計の購買力が上がることで消費が増え、その結果、モノの値段が適度に上がる、それが企業の売り上げ、業績向上につながり、新たな投資を呼び込み、企業が次の成長段階に入る。その結果、さらに賃金が上がるという「持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済」が、「新たな経済ステージ」です。

――では、先般とりまとめられた「デフレ完全脱却のための総合経済対策」は、「新たな経済ステージ」への移行を実現するための施策とも言えますね。

岸田 ご指摘の通りです。今回の総合経済対策をスタートダッシュとして、今後3年程度の「変革期間」において、「人への投資」の拡大を図るとともに、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)などの攻めの投資や新技術、新市場などのフロンティアの開拓、デジタル技術の社会実装、供給力の強化に向けて思い切った施策を、集中的に講じたいと考えています。

――「総合経済対策」の効果が国民に目に見えるかたちで、実感できることも重要なのではありませんか。

岸田 そうですね。特に私は、デフレに後戻りしないための一時的な措置として、国民の可処分所得を下支えすることが非常に重要だと考え、「国民への還元」という言葉を使って説明してまいりました。

 今年の春闘に向けては、私が先頭に立って経済界に対して賃上げを働きかけていきます。その上で、給付金の支給を先行させ、所得税・住民税の定額減税を実施します。供給力の強化を図り、賃金の向上とそれに伴う需要の増加による、経済の好循環の実現につなげることが何より重要であり、これにより、「低物価・低賃金・低成長のコストカット型経済」から「持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済」への変革を成し遂げていきます。

今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実行

――先ほど岸田総理は、半導体や脱炭素の大型投資に対する集中的な支援について言及されました。言うまでもなく、半導体に代表されるサプライチェーンや脱炭素などは、国の競争力を左右する戦略分野と言えます。そこで、こうした戦略分野についての集中的な支援について、もう少し詳しく説明していただけますか。

岸田 厳しさを増す国際情勢の中で、特定の国にサプライチェーンを過度に依存することは、わが国にとって大きなリスクになります。従って、可能な限りそのリスクを低減する〝デリスキング〟を進め、サプライチェーンの多角化・自律化の確保に向けた取り組みを進めていくことが極めて重要です。

 まず、半導体や蓄電池といった経済安全保障上重要な物資について、国内投資支援のための予算や、戦略分野で予見可能性を高める投資促進税制の創設といった税制、規制改革などあらゆる手段で、国内生産基盤の強化を図るとともに、同盟国・同志国間でのサプライチェーン強靱化を進めていきます。

 また、世界の主要国で進む、経済成長と脱炭素の「二兎を追う」政策競争に負けないよう、本年成立した「GX推進法」に基づき、世界初となる「GX経済移行債」を発行し、国として20兆円規模の先行投資支援を行うことで、今後10年間で150兆円を超えるGX投資を官民協調で実行していきます。

――食料分野についてはいかがでしょう。

岸田 食料安全保障の強化という面も非常に重要な分野です。人口減少下でも持続可能な食料供給基盤を確立するため、担い手の育成・確保、スマート技術の導入などによる生産性向上、市場拡大に向けた輸出の取り組みをさらに進めていきます。併せて、輸入依存度の高い肥料・飼料などの国内生産の拡大を進めるとともに、化学肥料や農薬の使用低減など環境と調和を図り、持続可能な農林水産業の実現を図っていきます。

――所信表明には、「認知症基本法」の施行に向けての決意や「レカネマブ」の薬事承認などにも言及されています。新型コロナウイルスによって大きくクローズアップされた医薬品、医療機器の開発についても岸田総理のお考えをお聞かせ願えますか。

岸田 アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の薬事承認を受け、認知症の治療は新たな時代を迎えたと言えるでしょう。ただし「レカネマブ」については、治療対象の患者が限られているなどの課題があります。このため、まずは、新薬へのアクセスや投与後のモニタリングなどが適切に確保されるよう、地域における早期発見・早期介入の「実証プロジェクト」を推進し、必要な検査体制や医療提供体制の整備を進めていきます。具体的には、①地域住民を対象としたバイオマーカーやアプリ・AIを用いたスクリーニング検査の検証②自治体と連携した本人や家族支援のモデルの確立③認知症疾患医療センターなどにおける治療薬を適正に使用するための体制整備――などを進めていくことにしています。

 また、さらなる治療薬の研究開発を推進するため、「認知症・脳神経疾患研究開発イニシアティブ」に早期に着手し、新たな標的の開発など脳科学研究の推進、神経回路の再生・修復を行って、「ムーンショット」型の研究開発にも挑戦したいと考えています。

「デジタル行財政改革」は、「利用者起点」が肝要

――岸田総理は、所信表明演説で「デジタル行財政改革」を起動するとも表明されています。「デジタル行財政改革」をどのようなかたちで進めていかれるのか、ご説明願えますか。

岸田 人口減少が進む中、公共サービスを維持していく、さらには、質を高めていくためには、デジタルの力を活用することが不可欠です。同時に、地域活性化につなげていくには、「利用者起点」でサービスの質を高める、手続きを見直すなどの社会改革を進めていくことが何より重要です。

――つまり、「利用者起点」が「デジタル行財政改革」の基本的な考え方だ、と。

岸田 その通りです。私は、かねてより国民の声、現場の声、地域の声を聞き取り、政策につなげることを心がけてきましたが、「利用者起点」を徹底するため、デジタル行財政改革においても、現場の声を反映させていきます。昨年10月には、その手始めとして、先進的なICT教育に取り組む皆さんから、教育現場でのデジタル活用の課題などについて、お話を伺いました。

 既に、教育・交通・介護などの分野で、予算事業と制度・規制の見直しを一体的に進める総合経済対策を決定しました。規制や制度の徹底した改革、EBPM(証拠に基づく政策立案)を活用した予算事業の見える化に取り組み、目に見える形で、具体的に、社会変革を実現し、それを支える令和版の新たな行財政の構築を進めていきたいと考えています。

――一方、政権発足時から注力されてきた「デジタル田園都市国家構想」の進捗状況についてはいかがでしょうか。

岸田 「デジタル田園都市国家構想」は、「誰一人取り残さない」デジタル化を実現するため、マイナンバーカードの早期普及とともに進めてきた主要施策です。政府は11分野におけるカタログを公表し、ガバメントクラウドでのシステムの標準化に取り組みつつ、「デジタル田園都市国家構想交付金」による財政的支援などにより、地域の個別課題を実際に解決し、住民の皆さんの暮らしの利便性や豊かさの向上、あるいは産業振興などの成功事例が生まれ、優れたサービスやシステムの横展開が促進されようとしています。こうした流れを加速するために、2022年度からは、「Digi田(デジでん)甲子園」も開催され、特に優れたものを内閣総理大臣賞として表彰することを進めています。今後とも、政府一丸で、自治体と連携して、「デジタル田園都市国家構想」に基づく地方のデジタル実装に向けてまい進したいと考えています。

関連記事Related article