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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑦

吉住健一新宿区長の「暮らしやすい福祉防災国際都市」への前進

新宿駅の1日平均乗降者数は365万人以上、世界一を誇る。(写真ACより)
新宿駅の1日平均乗降者数は365万人以上、世界一を誇る。(写真ACより)

「都市の健康の基本条件は自由であることだ」
(ル・コルビジェ)

吉住健一区長の国際都市・新宿への努力
 吉住健一新宿区長は非常にハンサムで魅力的な紳士である。礼儀正しく品格があり、謙虚である。頭脳明晰な政治家である。新宿区選出の東京都議会議員・古城将夫氏(公明党新宿総支部長)に紹介していただいて、面談した。吉住健一区長からいただいた名刺の裏面に、新宿区の概要がわかりやすく記されている。引用する。

 「新宿は、江戸時代に宿場町の『内藤新宿』として繁栄しました。明治以降は文学者や画家など芸術家が集まり、戦後は大衆文化の発信地、商業都市として発展しました。

・人口34万5931人(平成31年3月1日現在)

・地場産業 染色業、印刷・製本関連業

・新宿駅の乗降客数365万2339人/日(世界第1位)

・都内の外国人観光客訪問率57・7%(都内第1位)(順位は平成29年度のもの)」

吉住健一区長の名刺裏に記されたプロフィール。

 「昭和47年4月新宿区大久保出身

 伸びる会幼稚園、区立大久保小、区立戸山中、都立広尾高校、日本大学法学部卒業

 衆議院議員与謝野馨秘書、新宿消防団員(H14~26)

 平成15年新宿区議会議員(2期)

 平成21年東京都議会議員(2期)

 平成26年新宿区長(現在に至る)」

 新宿区は衆議院議員与謝野馨氏(故人)の選挙区だった。吉住氏の師だった与謝野氏は自由民主党内で最もすぐれた政治家だった。吉住区長は新宿区を隅から隅まで知り尽くしている、文字通り「新宿の子」である。人格的にも知性の面でもすぐれた人物であり、常に区民と共にあり、安定感がある。

 新宿区は国際化が最も進んだ国際都市である。新宿区の人口約35万の約10%が外国人である。勉強や仕事、結婚など、さまざまな目的をもって、130を超える国の人々が集まっている。区役所にはテレビ通訳システムがある。英語、中国語、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、タイ語、ロシア語、フランス語、タガログ語、ベトナム語、ミャンマー語、ネパール語、ヒンディー語に対応できる。新宿区は近未来の日本の姿であり、国際都市日本のモデルである。新宿区が国際都市として安定するか否かに日本の未来がかかっている。


体験的新宿論

 私が初めて新宿駅と周辺を見たのは77年前の1943(昭和18)年の夏だった。当時は「新宿駅」はあったがまだ「新宿区」は生まれていなかった。「新宿区」が生まれたのは、その4年後の1947年だった。私は大塚の東京女高師寮にいた長姉に両親から託された物資を届けに行くため山手線で新宿駅を通った。長兄もいた東京を知りたい一心で、両親に請願した結果、初めて東京に足を踏み入れた。小学校5年生だった。私が見たのは戦災前の東京だった。この一年半後、東京は米軍機の爆撃で焼野原にされた。次に私が新宿を見たのは1947(昭和22)年だった。惨憺たる焼野原とバラック小屋の風景だった。

 東京の住人になったのは68年前の1952(昭和27)年だった。以後、目黒、中野、杉並、世田谷、新宿、港に住んだ。60年前の2月に結婚した時に住んだのは新宿区高田馬場だった。その後、港区に移ったが今はまた新宿区の住人になった。住所が他区に移った時も新宿が仕事の拠点だった。勤めた出版社は新宿にあったし、友人と付き合うのもほとんど新宿だった。1952年以後の68年間、私は新宿とともに生きてきた。新宿は私に合った。新宿は一歩一歩着実に進化している。

 新宿の最大の特徴は多様性である。新宿には都市に必要なものはすべてある。伝統も新しさも、大企業も中小企業も、製造業も商店も、大学も大病院も、巨大な国際的宗教団体も東京都庁もある。混然としているようでバランスよく調和している。そして最も大切な自由がある。

 犯罪は徐々に減少し、安全社会になっている。吉住区長は犯罪を減らすのに熱心である。

 新宿区は個性ある5つのエリアからなっている。新宿駅周辺、四谷、高田馬場・早稲田・大久保、神楽坂、落合の5エリアである。新宿駅周辺は繁華街・ビジネス街。四谷は歴史と文化の街。高田馬場・早稲田・大久保は国際色ある若者の街。神楽坂には由緒ある坂道や史跡が多い。落合は閑静な住宅街で豊かな緑がある。それぞれのエリアに「新宿力」というべき活力がある。そして「愛」がある。


基礎自治体としての新宿区

 私が「国の実力、地方に存り」と言う場合の「地方」は「中央」に対する「地方」であり、「基礎自治体」を意味している。基礎自治体(市町村)が栄えなければ国は衰退すると考えている。

 戦後75年間、日本は経済面で大きな発展を遂げたが、反省すべきことも多々ある。第一は、国の発展が地方を犠牲にして行われたことである。敗戦直後の経済成長に、地方の若年労働力を根こそぎ大都市に集め、農村から若者が消えた。高度成長後の市町村合併は、基礎自治体の活力を奪った。国の実力の源泉である地方を犠牲にし続けた結果、地方が人口減少社会と化した。

 東京においては、基礎自治体である「特別区」を自律的基礎自治体として育成する努力は不十分だった。

 しかし、いくつかの特別区は自らの力で自立への道を進んでいる。最近では、優秀な特別区の区長が登場し、自立自尊の努力を積み、特別区を自立的な基礎自治体に成長させている。新宿区の吉住区長は東京都特別区の自立を推進している有力な区長である。

 新宿区の最大の資産は、交通の一大要衝の新宿駅である。吉住区長のもとで新宿駅周辺の大改造計画が検討されている。この計画が実施されれば、新宿駅周辺地域は日本最大の繁華街になる。20年後、新宿は日本の真の中心に成長する可能性がある。

 吉住新宿区政は今、「防災減災」に重点的に取り組んでいる。大地震と頻発する自然災害に耐える都市社会を築かなければならない。いかなる災害が起きようとも一人の犠牲者も出さないための対策をとるためには、新宿区と区民が、自助、共助、公助の有機的体制をつくり上げなければならない。吉住区政の最大の課題がここにある(新宿区政の取材にあたり、古城将夫東京都議会議員のお世話になりました。感謝します)。吉住区長のすぐれた手腕に期待したい。


(月刊『時評』2020年3月号掲載)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。