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地方創生をめぐる状況について/内閣府地方創生推進事務局長 淡野博久氏

◆内閣府地方創生政策最前線

あわの ひろひさ/昭和39年生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業、同大学院修了、博士(工学)。平成元年旧建設省入省、平成28年国土交通省住宅局市街地建築課長、29年同建築指導課長、令和元年大臣官房審議官(住宅局担当)、3年住宅局長、4年6月より現職。
あわの ひろひさ/昭和39年生まれ、東京都出身。東京大学工学部卒業、同大学院修了、博士(工学)。平成元年旧建設省入省、平成28年国土交通省住宅局市街地建築課長、29年同建築指導課長、令和元年大臣官房審議官(住宅局担当)、3年住宅局長、4年6月より現職。

約3年にわたるコロナ禍の間、DXの推進や地方創生臨時交付金の活用など、地方創生をめぐる取り組みは新たな展開を迎えた。着実に進む少子人口減の中、さらにコロナの制約を受けながらも、地方は各種制度を活用し、独自の活性化推進にまい進している。今回、淡野事務局長よりこれら地方創生をめぐる最新の状況と、各地の取り組み内容について解説してもらった。

内閣府地方創生推進事務局長 内閣審議官
淡野 博久氏

新しい時代の流れを力にする

2002年~06年にかけて、小泉政権下の「聖域なき構造改革」として都市再生特別措置法や構造改革特別区域法、地域再生法、改正中心市街地活性化法が相次いで施行されました。地域活性化統合本部――現在の地方創生推進事務局はこれらの法律の運用や見直しなど、地方創生に関する法律予算制度の実際の運用を担う組織として設立されました。「まち・ひと・しごと創生法」が14年に施行されたことに伴い内閣官房に設置され、企画・立案・総合調整を担うまち・ひと・しごと創生本部事務局と密接に連携しながら地方創生に取り組んでいます。

 豊かな生活を安心して営める持続可能なまちづくりや、多様な人材の確保に向けた寛容性の高いまちづくり、多様な就業機会の創出に向けた地域資源を生かした事業の振興といった「まち・ひと・しごと」の創生を計画的に実施することを通じて、東京圏への過度な集中を是正し、各地域で住みよい環境を確保し、将来にわたって活力ある社会を維持していくことが「まち・ひと・しごと創生法」の基本的な考え方です。

 同法に基づく総合戦略で掲げてきた横断的な目標は「新しい時代の流れを力にする」です。この目標の実現に向け、1)都市のDXによる地域課題の解決、2)地方創生SDGsなど持続可能なまちづくり、3)多様な人材が活躍する開かれた地域社会づくりの3点に関する各地域の取り組みを推進しています。

 昨年末に閣議決定したデジタル田園都市国家構想総合戦略では、一つ目のデジタル実装による地域課題解決の推進に係る取り組みに焦点を当て、デジタル基盤の整備、デジタル人材育成と確保、誰一人取り残されないための取り組みを通じて、地域の社会課題の解決を図ることとし、関連するKPIとして、2024年度までに1000団体がデジタル実装に取り組み、25年までに100地域をスマートシティに選定し、700の地方公共団体で新たなモビリティサービスを実施することなどを掲げています。

DXによる地域課題解決の二つの段階

 デジタル実装による地域課題の解決には二つの段階があると考えています。第1段階ではDXによるサービス向上で住民が利便性を実感でき、自治体側は業務効率化によりリソースをコア業務に振り向けることが可能となります。利便性の向上を実感した各主体がデータ提供に協力することにより、集まったデータを活用した渋滞混雑の緩和や新たな移動サービスの普及など、都市レベルでDXによる社会課題の解決が図られます。これが第2段階です。

 第1段階の典型的な例が、北見市が導入した「書かないワンストップ窓口」です。来庁者の同意を得て、職員が要件を聞き取りながら書類を作成し、内容を確認して最後にサインするだけで手続きが完了するサービスです。必要な行政サービスをシステムが自動判定し、手続きを漏れなく行うため窓口を幾つも回る必要がなくなり、申請者側と行政双方の負担が軽減される結果となっています。

 同様の取り組みの例として、渋谷区では住民票の請求から決済までLINEで対応でき、宮城県では災害時に避難所関連情報が住民に通知され、避難所ごとの利用住民名簿が自動的に作成されるアプリの活用を推進し、秋田県横手市ではICタグと蔵書巡回点検ロボットを活用し図書館の本の収蔵・所在検索の効率化と市内の全図書館の蔵書を各図書館で借りることができるシステムを導入する予定です。

 行政の業務のうち、職員の知識・経験に基づく判断が必要なコア業務は、実は全体の3分の1程度にすぎません。システムへの入力や照合などのノンコア業務を電子化し、コア業務にリソースを振り分けることにより、業務の大幅な効率化と住民サービスの向上が図られることになります。

 第2段階の都市レベルでのDXによるサービス・マネジメントの高度化を通じ社会課題の解決を図るためには、住民の所在場所などの各種データを集約する必要があります。データの提供・活用について地域住民の理解を得るためにも、情報提供に伴うリスクよりも利便性が上回ると実感できるようなサービスの充実が重要となります。

 また、都市のDXを社会課題解決に結び付けるためには、分散・独立して保有・管理されているデータの存在を見える化し、必要なデータを翻訳して送達するための仲介機能(ブローカー)が組み込まれたデータ連携基盤を整備する必要があります。その際には住民の不安解消や的確なサービスの実装に向け、管理の徹底とデータの正確性・最新性の確保を図る必要があります。

 各地域における一元的・効率的なデータ連携基盤の構築を推進するため、政府は昨年7月から、デジタル庁で開発したブローカーを自治体に無償提供し、デジテル田園都市国家構想推進交付金のTYPE2・3として支援する際にはオープンAPIによるデータ連携や標準的なブローカー機能の採用、データ形式は標準的モデルに準拠することなどを求めています。

 昨年度は交通系ICカードとマイナカードの連携による割引サービスを実施している群馬県前橋市や、オープンデジタルマップの提供や、防災面でもデータ連携基盤を活用している香川県高松市など、先導的なサービスの実装に早期から取り組む主体をTYPE3として支援しました。

 データ連携基盤に関しては互換性の確保に加え、今後は先端的サービス実装を進めていく上でデータ安全性や信頼性などの品質確保が重要となります。例えば自動搬送ロボットサービスの場合、ルート上の段差や工事などの正確かつ最新の情報提供が重要です。このような情報の品質確保に向けた国の援助規定を充実させる国家戦略特区法の改正法が4月26日に可決成立しました。

 2021年度の補正予算ではデータ連携基盤整備等を支援するデジタル実装タイプとして200億円、22年度は倍増の400億円を計上しています。底上げの観点から、デジタル実装に向けた計画策定から取り組むケースについても支援する措置を新たに設けています。

(資料提供:内閣府)
(資料提供:内閣府)