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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」①

「広島県立叡智学園」創設――「平和の広島」から「平和と教育の広島」へ

せとうちの美しい島々が子供たちを育む。
せとうちの美しい島々が子供たちを育む。

「自然を見よ。そして自然が教える道をたどっていけ。自然は絶えず子供を鍛える」(ルソー)

 2019年4月全寮制中高一貫教育の広島県立叡智学園が、瀬戸内海の美島「大崎上島」に開校する。広島は「平和」県から「平和教育」県に進化する。
 広島県教育委員会は「私たちの想い」を次のような熱い言葉で述べている。
 《私たちは、この学校を、子供たちにとって「世界で一番、楽しい学校」、「世界で一番、子供たちが輝いている学校」にしたいと思っている。(中略)「世界で一番、子供たちが輝いている学校」をみんなで作りましょう。それが、私たちの想いです》
 叡智学園設立を推進してきたのは湯﨑英彦知事である。私は5月24日、知事室に湯﨑知事を訪ねた。湯﨑知事は高い見識の持ち主であるとともに、教育に非常に熱心なロマンチストである。
 湯﨑知事を補佐している教育委員会「学びの変革推進課」の寺田拓真課長には、前日の5月23日に会ったが、教育に対する強い信念の持ち主である。30代の寺田氏は文部科学省にいたが叡智学園に取り組むため文部科学省をやめて広島県に再就職した情熱の士である。
 教育において最も大切なものは教育者の子供への深い愛情と情熱である。叡智学園に関わっている教育者の心は「私たちの想い」の言葉以上に燃えていると私は感じた。
 叡智学園教育において県教育委員会は次の六つの特色を出そうとしている――①高校生の3分の1は海外からの留学生、②国際経験豊富な教師陣、③高校生の授業は原則英語、④国際バカロレア・ディプロマ・プログラム、⑤国際協働型プロジェクト学習、⑥全寮制での学習・生活。
 初代校長に就任する林史氏(46)は5月4日の記者会見でこう述べた――「この学校に対する情熱だけは誰よりも強いと自負している。世界で一番子供たちが輝いている学校を作るプロジェクトにまい進していきたい」。
 力強い言葉である。高い見識と強い情熱をもった40代の女性の初代校長への期待は大きい。


大崎上島の全寮制学園


 大崎上島は広島県竹原市の沖合い約6キロにある島である。私は以前から離島が好きで主な離島のほとんどを訪問してきたが、大崎上島はいまだ訪問していない。来年4月開校した時、この島を訪問したいと考えている。
 広島県には有名な「江田島」がある。今は海上自衛隊幹部候補生学校になっているが、昔は旧海軍兵学校の代名詞だった。海軍兵学校は創立時には東京の築地にあったが、学生がよく遊んだため当時の政府高官の逆鱗に触れ、瀬戸内海の離島に移転した。この環境の変化が優秀な人材を生む要因となった。離島は教育の場としては非常にすぐれたところである。自然が豊かであり、ストイックな生活をするのに適している。自然の中で子供たちは鍛えられ、生きることのきびしさとともに楽しさを学び成長する。
 中学と高校の6年間を島に建設された全寮制の学校で生活することは、子供にとっても親にとっても魅力的である。定員は中学40名、高校60名だが、既に説明会への申し込みが多数あるとのことだ。全国各地から秀才が集まるのは確実である。
 県立高校の全授業を英語で行うというのは、今までほとんど例はないが、大いに意義のある挑戦であり、支持したい。
 昨年(2017年)11月7日、「世界津波の日・高校生サミット」が沖縄で開催されたが、日本の高校生を含めてすべて英語で行われた。今後は、あらゆる分野で高校生の国際交流が拡大する。高校ですべての授業を英語で行うことは時代の流れである。


「戦後」を越えて「教育立国」へ


 第二次世界大戦後73年経った。この間日本国民は経済力を高めることに重点をおいて生きてきた。この反面で教育面での努力は弱かったことを認めざるをえないと思う。
 また現実を重視するあまり遠い将来のことへの取り組みは不十分であった。われわれ日本国民は、今、このことを反省し「教育」と「未来」へ目を向けなければならない。
 今、世界は大変動期に入った。日本も新たな時代に入りつつある。われわれは新しい時代をどう生きるべきかを今こそ真剣に考え、国民的な議論を興さなければならない。新しい時代の日本の最重要課題は、教育への従来の努力不足を反省し、特に将来の世界と日本を担う優れた人材を育てるための教育に取り組むことである。
 広島県の湯﨑知事、寺田課長、林初代校長らが、これから挑戦をする教育変革の実践は、日本がこれから進もうとする方向への先駆的役割を担っている。
 広島県大崎上島に灯った新たな教育変革の灯火に刺激されて、全国各地で新たな教育変革の動きが生み出されるであろう。大切なのは、子供への無限の愛と教育への強い情熱である。


(扉写真:KatieKatiko氏/写真ACから)

森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。
森田 実(もりた・みのる)評論家。1932年、静岡県伊東市生まれ。