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森田 実の「国の実力、地方に存(あ)り」⑫

情熱と社会的責任感を燃やして地方創生に努力する明電舎の未来への挑戦

明電舎の三井田健社長。
明電舎の三井田健社長。

「実におそろしいものは人間の努力である」(マルコーニ イタリアの電気技術者、1909年ノーベル賞受賞)

新たな社会課題に挑戦

 ㈱明電舎は、1897年に創業した重電機器のメーカーであり、社会インフラにかかわる電気設備を中心に、さまざまな技術やサービスを世に送り出し、社会の持続的な発展に貢献してきている。創業者の重宗芳水は、「電気の力で世の中を豊かにする」という志を持ち、明電舎を立ち上げたという。この会社の歩みは、電気機器の修理業から始まったというが、当時は海外からの輸入に頼らざるを得なかったモーターの開発に成功し、国産化を実現したところから大きな広がりを見せていく。

 120年余の年月を重ねた現在、明電舎は鉄道などの交通基盤や再生エネルギー関連を含む電力システム、あるいは水処理施設などにおける電気設備などを通じて、目立たないところから人々の生活を支えている。また、創業者が開発に心血を注いだモーター技術は、何世代にもわたるエンジニアたちの創意工夫と社会貢献への思いが積み重なり、現在では電気自動車の駆動モーターなどの先端製品に昇華されている。現政権が目標として掲げている2050年のカーボンニュートラルにも資する企業と言えよう。この技術者集団を率いる経営のバトンは今、三井田健社長に引き継がれている。

三井田健社長は新時代のリーダー

 三井田社長を知るものは皆、「気配りの人」と評する。常に相手の心をくみ取り、先方の立場や考えを慮り、その上でコミュニケーションにおける最良の一手を打ち続ける。その姿勢は、相手が社外の人間であろうと、社内の人間であろうと、また当然のことながら老若男女を問わず、一貫している。本人はそのルーツを、幼少より親しんだバイオリンと管弦楽団の経験によるものだと分析する。協奏の価値観を大事にし、競争の時代を勝ち抜こうとする新たなタイプのリーダーと言えるのではないか。

 三井田社長は、チームの連携により、新たな価値や大きな成果を生み出す取り組みを「つながり力を発揮する」という表現をし、経営ポリシーの一つとして社内に浸透させている。会社内部における部門などの組織の枠を超えることで、変革につながる化学反応が起こることを期待するだけでなく、社会の在り方も大きく変化する中、悩みを抱える顧客や独自の技術などを持つ外部の会社と明電舎が積極的につながることで、新たな社会課題の解決に貢献できるはずであるという信念を持つ。

人々の暮らしをよくするために

 現に、わが国の地方自治体は、従前からの少子高齢化による事業収入減、気候変動による度重なる自然災害への対応、さらに昨今のコロナ禍等、多くの社会課題を抱えている。それらの社会課題を解決し、持続可能で地域の人々が住み続けたいと思える地域社会を構築するために、同社が長きに渡り携わってきたインフラ分野(エネルギー・水)において、どのように貢献していくか? 同社が出した解を二つ紹介する。

「マンホールアンテナ」は、リアルタイムの下水道 管内水位情報をクラウドに収集できる。
「マンホールアンテナ」は、リアルタイムの下水道 管内水位情報をクラウドに収集できる。


 その一つが、水インフラ分野での取り組み。マンホールに設置したアンテナからリアルタイムの下水道管内水位情報をクラウドに収集する下水道管きょ用IoTデバイス「マンホールアンテナ」である。下水道管内水位情報と降雨情報などを組み合わせ、AI(人工知能)で1時間先の水位を予測し、自治体などを通じて地域住民や地下街の店舗などに情報を届け、浸水対策に活用することで減災を図ることができる。本システムの最終目的は、市民の行動変容。防災・減災における「自助」「公助」「共助」の考え方に加え、同社は、「産助」(企業のサポート)により、市民一人一人の災害時の行動変化をもたらしたいと考えている。

 そして、二つ目は、エネルギー分野での取り組み。下水道の未利用エネルギー(下水熱)を活用したワサビ栽培プロジェクト。長岡技術科学大学と協力して新潟県で行っている。これは最高のワサビである。私自身食して感動した。今後、特産品化、地域で加工まで行い、6次産業化を目指すなど、地域の人々に寄り添う取り組みをデザインしている。

 自治体と企業、そして市民が一体となって取り組むことこそ、持続可能な地域循環型社会構築には最も重要なことと捉え、エネルギー・上下水道・廃棄物等「インフラ領域間連携」や、自治体の垣根を超えたインフラ設備で共有し合う「地域間連携」など、地方創生につなが る新たなビジネスモデルにも取り組んでいる。すべては、その先の人々の暮らしのために。明電舎は、同社がもたらす製品・技術などの企業活動によって、社会へ貢献することこそが企業としての存在意義であり、同社の企業価値と考える企業である。

 明電舎は科学技術の力で人々を幸せにする、社会に貢献している企業である。努力、努力の真直ぐな大企業である。21世紀の日本は大きな危機に直面しているとともに、飛躍のチャンスをつかむ可能性を持っている。この時代、社会の進化に貢献する明電舎のような努力する企業の役割は大きい。

 明電舎は人々の幸福のために努力する企業人と技術者の集団である。同社には大きな可能性がある。経営者も幹部も社員も真面目で努力家である。世のため、人のために尽くす企業である。明電舎の地方創生への挑戦に私は大いに期待している。(今回の明電舎取材にあたり、同社の社会インフラ事業企画本部ソリューション企画部長の平井和行氏に大変お世話になりました。感謝します。)
(月刊『時評』2021年1月号掲載)