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森田浩之「日本から世界を見る、世界から日本を見る」⑬

世界を理解する(懐疑的な精神とともに)

(写真:pixabayより)
(写真:pixabayより)

日々、海外の報道に接していると、定期的に、自分はこのニュースを信じてよいのだろうかという不安に襲われる。小難しい話をすれば、テレビや新聞のレポートは「事実」部分と「説明」部分に分けられる。
 たとえばこの数カ月間に起こった事件の中で、シリアの首都ダマスカス郊外の東グータ地区における激しい空爆が衝撃的だった。「事実」は画像が映し出す瓦礫と化した建物や、爆弾が炸裂した場面であり、「説明」は「犠牲者は東グータ地区の民間人」「ここは反政府勢力の拠点」「ロシア軍による空爆」である。
 既にシリアでは昨年、最大都市アレッポがロシアの援助を得たアサド軍による猛烈な攻撃で陥落している。反政府勢力は小型ビデオカメラで負傷者が搬送された病院の生々しい模様を撮影して、欧米の放送局に送ったり、ユーチューブにアップしてきた。このような反政府勢力の広報活動で、安全地帯にいるわれわれはコンピュータや受像機の前で、爆弾が建物に衝突したところや、破壊されたビルからコンクリートの粉で真っ白になった死体が運び出されるところを見てきた。
 今回の東グータ地区でも同様に、即席救助隊の「ホワイトヘルメット」が爆撃後の街の荒廃した様子や、病院に運ばれたばかりの、ショックで泣くことさえできない子どもたちの映像を西側メディアに提供している。
 ドアも窓も破壊されて骨組みしか残っていない団地や、病院内の混乱ぶりや、戦闘機から投下された爆弾がビルを破壊したところは「事実」として受け取ってよいであろう。もちろん、われわれはそれらも「フェイクニュース」ではないか、つまりだれかが国際社会を騙すために仕組んだフィクションではないかという疑念を失ってはならない。
 しかしとりあえずこれが「事実」であるとするならば、今度はここはどこなのか、負傷者はだれなのか、だれが加害者なのかという「説明」に移る。少なくとも私が頼っている日米英の各報道機関(NHK、NBC、チャンネル4)によると、ここが東グータ地区であり、被害者は反政府の武装勢力が支配する地域の子どもたちで、犯人はアサドとプーチンとなっている。
 ここで問題なのは、シリア政府軍とロシア空軍が悪役にしか見えないということである。この間、東グータ地区で化学兵器が使われたが、これについてロシアは、これは反政府勢力が国際社会からの同情を得るために、自分たちで撒いたものだとの声明を出している。
 NHKとNBCとチャンネル4が似たように伝えているから、いくつかのニュースソースで相互に証明し合っていると見なすこともできるが、映像は反政府勢力が提供したもので、ほかの動画も同一の通信社のものを使っている場合もあり、多くの報道で情報源が共通ということもありうる。
 ただこれら三つのテレビニュースに加えて、日米英の複数の新聞がロシア側の立場も伝えている。それによると、例えば国連安保理で人道的停戦が全会一致で可決された後も空爆が続いたことについて、ロシアは「テロリストに対する攻撃であり、国連決議の適用外」と述べている。
 そもそも東グータ地区への攻撃の最初から、ロシアは「シリア国内のアルカイダ系のテロリスト対策」と説明していた。もし仮にこれが本当ならば、テロ組織を壊滅するための軍事行動ということだから、アサド・プーチン連合軍の行為は正当化される。どの国でも、政府転覆を狙うテロを放置しておくことはありえないからである。そして血だらけの子どもたちは、テロリストが利用した「人間の盾」であり、コラテラル・ダメージ(やむをえない副次的な民間人の犠牲者)であって、致し方ないこととなる。
 実際、2月下旬にチャンネル4の看板キャスターが自らダマスカスに入り、東グータ地区から被害状況をレポートしていたが、その際、背景的な説明として、この地域で活動する反政府の武装勢力はいくつかあり、その一つはアルカイダ系だと述べていた。チャンネル4など欧米のリベラル系メディアは、シリアの反政府勢力に同情的であるため、そのチャンネル4が「アルカイダ系テロ組織」と表現していたことは特筆に値する。
 整理すると、東グータ地区が空爆の標的になっていること、子どもを含む民間人に死傷者がいること、攻撃されているのはシリアの反政府勢力であること、そして爆弾を投下しているのがシリア政府軍とロシア空軍であること、ここまでは「事実」としてよいであろう。なぜなら国連での公式発言でも、ロシアは自国の関与を否定していないし、爆撃の目的がテロの壊滅だと認めているからである。
 しかし問題は、これを「悪のアサド・プーチン」対「暴君に弾圧される気の毒な自由戦士」という構図にしてよいのかということである。私は心底そう思っているから、西側の姿勢が正しいと信じているが、それでも自分がじかに訪れて、この目で確かめられない以上、懐疑的な精神は持ち続けなければならないと自らを戒めている。
(月刊『時評』2018年4月号掲載)

森田浩之(もりた・ひろゆき) 1966年生。東日本国際大学客員教授。
森田浩之(もりた・ひろゆき) 1966年生。東日本国際大学客員教授。