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森田浩之「日本から世界を見る、世界から日本を見る」⑭

内政と外交の激突

(写真:pixabayより)
(写真:pixabayより)

 イランは1979年に国王を追放して、亡命中のホメイニ師が帰国して以来、厳格なシーア派イスラム教国として、西側と対立してきた。特に同年の米国大使館人質事件以来、アメリカとイランは敵対関係にあり、2002年のブッシュ演説でイランはイラク・北朝鮮とともに「悪の枢軸国」に加えられ、イランでは「アメリカに死を」が礼拝の決まり文句となってきた。
 1989年にホメイニ師は死去するが、最高指導者を引き継いだハメネイ師も対米強硬を貫く。しかし他の中東各国が石油の輸出で外貨を稼ぎ、経済発展を遂げている中、イランだけが豊富な資源を活用できず、それが国内の権力闘争を促していく。
 聖職側の最高指導者と、政界の大統領との綱引きであり、西側は大統領くらいは柔軟路線であって欲しいと願ってきた。それを覆したのが2005年、アフマディーネジャードが2期目を目指す穏健派のラフサンジャニを破った時のことであった。
 アフマディーネジャードはハメネイ師の庇護を受けており、任期中、ホルムズ海峡封鎖の脅しをかけるなど、アメリカを煽ってきた。その代表が核開発である。
 イランは既に2002年に核開発を始めていたが、アフマディーネジャードは大統領に就任すると、核の平和利用を宣言し、2006年には核燃料サイクル技術の成功を発表する。
 この間、ヨーロッパは核兵器の保有を阻止するため、イランとの交渉に入るが、次々に暴言を吐くアフマディーネジャード政権の下では進まなかった(ちなみに、トランプ大統領は一部で「アメリカ版アフマディーネジャード」と言われていた)。
 2013年に穏健派のロウハニが大統領に選出されると、交渉が一気に進む(イランでは大統領の3選が禁止されている)。そして2015年、アメリカではオバマ政権時に、イラン核合意が締結される。
 今度は地球儀を回転させて、アメリカに焦点を当ててみよう。
 われわれ外部者が権力中枢の決定者の人物像を把握するには、公文書が開示される数十年後まで待たなければならない。とはいえ数十年も経つと、現場にいた当事者がいないから、完全な像を描くことはできない。
 だからトランプが本当のところ、どういう人間なのかは、取材した人や実際に会った人の証言から想像するしかない。トランプが次々と繰り出す政策や大統領令が、長期的計算の上でなされたのか、それとも場当たり的なのかは、いまのところは計り知れない。
 しかしそれでも少しずつ暴露されるエピソードから推測すると、われわれはトランプの判断力を当てにしてはならないだろう。これほど人事が交代する政権はアメリカでは稀であるし、信頼できそうな人たちが切られているのを見ると、不安だけが増幅される。
 当初、ティラーソンという石油会社の経営者に国務長官が務まるのかという懸念があったが、トランプに更迭されたのを見て、「実はしっかりした人だった」と思った人は多かっただろう。ティラーソンは昨秋には、大統領を「お馬鹿さん(moron)」と呼んだとして、クビになるのではないかと噂されていた。
 また安全保障担当の大統領補佐官だが、既に政権発足の数カ月後には、初代のフリンが辞めているが、2代目は軍人のマクマスターだった。以後、大統領を抑制する穏健派三人衆がティラーソン、マクマスター、そして国防長官のマティスとなった。
 この中でマティスだけが生き残っているが、なぜかと言えば、彼が何もしなくなったからである。アメリカの報道でこの半年くらい、マティスが現われたのを見たことがない。マティスは自らを目立たなくすることで、地位を維持しようと決意したようである。
 マクマスターは、結局この春に職を退くことになったが、後任はブッシュ政権下でイラク戦争に突入したボルトンである(侵攻時は国務次官で、2005年から国連大使)。
 一方、ティラーソンの後任はCIA長官だったポンペイオだが、その前職は共和党右派の下院議員だった。
 2009年にオバマ政権下で、金融危機からの回復策として銀行と自動車メーカーが救済され、同時期に医療保険制度改革(オバマケア)が進められたが、それらへの反対から、共和党支持者の中から「ティーパーティー」(茶会)と呼ばれる保守派ポピュリズム運動が始まる(1773年のボストン茶会事件に由来)。ポンペイオは茶会候補として2010年に初当選するが、共和党が穏健派と茶会派で分裂し、前下院議長のベイナーは統制が取れないことを理由に辞任し(議員も辞職)、現議長のライアンも内部をまとめられずに今期をもって退任すると宣言している。
 要するに、トランプ政権は決断の安定性という面でも、極端な右寄りイデオロギーという面でも、完璧に均衡を失した。
 このように外交は内政の反映である。イランのパワーバランスが崩れれば、核開発は進み、それがアメリカの右傾化を加速させるだろう。一国の権力闘争は跳ね返って、世界の秩序を揺るがしていく。(月刊『時評』2018年6月号掲載)

森田浩之(もりた・ひろゆき) 1966年生。東日本国際大学客員教授。
森田浩之(もりた・ひろゆき) 1966年生。東日本国際大学客員教授。