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時評座談会:大学院の戦略的活用が急務。

今こそ求められる“知の高度化”戦略

左から/平松浩樹氏、有村治子氏、蓮井 智哉氏
左から/平松浩樹氏、有村治子氏、蓮井 智哉氏

参議院議員
有村 治子

経済産業省大臣官房審議官
蓮井 智哉

富士通株式会社執行役員EVP CHRO
平松 浩樹

 2000年代初頭まで、日本は、海外諸国の産業よりも比較優位にあったにも関わらず、この20年間で立場が逆転し、むしろ大きく水をあけられてしまったという実態をこれまで時評では数多く取材してきた。この根源的な理由は、わが国最大の武器である「人」にあるのではないか――。すなわち海外先進国では00年代以降“知の高度化”が急速に進み、大学院の博士課程(ドクター)取得者の登用が多くなっているにも関わらず、日本では博士課程取得者の数そのものが減少しているという事実から、わが国の未来戦略を問い直すシリーズ「わが国産業政策における大学院の戦略的活用を考える」を連載していくことにした。  シリーズ第1回には、この問題を国会質問で取り上げた参議院議員・有村治子氏をはじめ、経済産業省大臣官房審議官・蓮井智哉氏、富士通株式会社執行役員EVP CHRO・平松浩樹氏を招いて、わが国の現状と課題、展望について議論を展開してもらった。 (本誌・中村 幸之進)
※座談会は感染予防のため、万全の体制で行われた。

有村 参議院議員の有村治子です。今回、「時評」の企画によって、経済産業省の蓮井審議官と積極的な人材戦略を展開されている富士通株式会社の平松執行役員(CHRO)と、本来、日本の貴重な人材であるべき博士人材をどのように日本の活力に生かしていくのか、鼎談(ていだん)する機会が実現しました。私が今年春に行った国会質問での問題提起が、大学関係者や研究職、公務員人事関係者や省庁をまたいだ霞が関で静かに話題となっているようです(笑)。
 私が質問したのは、「世界各国が〝知の高度化〟を進め、明確な国家的意図を持って自国の科学技術を加速させている中、わが国においてはなぜ博士号取得者が、活躍できていないのか? 残念ながら日本においては学術界以外で博士号に敬意を向ける土壌が乏しく、そもそも日本には博士人材が持つ知力を、いかに日本の未来に活用するかという国家戦略がない。科学技術立国日本は本当に大丈夫か」という内容でした。

主要国の博士人材の育成・活用状況(出典:経済産業省):主要国において、博士号取得者数が減少傾向にあるのは、日本のみ。日本の理系博士課程修了者は58%が大学に就職するのに対し、民間企業に就職したのは、36%にとどまる。一方、アメリカの博士課程修了者の雇用先は、民間企業が56%で日本とは対照的だ。
主要国の博士人材の育成・活用状況(出典:経済産業省):主要国において、博士号取得者数が減少傾向にあるのは、日本のみ。日本の理系博士課程修了者は58%が大学に就職するのに対し、民間企業に就職したのは、36%にとどまる。一方、アメリカの博士課程修了者の雇用先は、民間企業が56%で日本とは対照的だ。
ありむら・はるこ:昭和45年生まれ。平成13年、参議院選挙 比例代表(全国区)にて初当選、現在4期目。文部科学大臣政務官、自民党女性局長を経て、参議院環境委員会委員長、自民党政調会長代理などを歴任。平成26年、安倍内閣にて初代女性活躍担当大臣、国務大臣(少子化対策・行政改革・国家公務員制度・規制改革・男女共同参画・消費者及び食品安全担当)参議院自民党政策審議会長、政治倫理審査会会長、裁判官弾劾裁判所 裁判長、自民党広報本部長などを務め、現在、憲法改正実現本部副本部長、参議院自民党副会長などを務める。
ありむら・はるこ:昭和45年生まれ。平成13年、参議院選挙 比例代表(全国区)にて初当選、現在4期目。文部科学大臣政務官、自民党女性局長を経て、参議院環境委員会委員長、自民党政調会長代理などを歴任。平成26年、安倍内閣にて初代女性活躍担当大臣、国務大臣(少子化対策・行政改革・国家公務員制度・規制改革・男女共同参画・消費者及び食品安全担当)参議院自民党政策審議会長、政治倫理審査会会長、裁判官弾劾裁判所 裁判長、自民党広報本部長などを務め、現在、憲法改正実現本部副本部長、参議院自民党副会長などを務める。

 私は、日本の未来を慈しむがゆえに、わが国科学技術力の現状にただならぬ危機感を抱いており、この分野に社会の関心を向けたいと動いています。米、英、独、仏、日、中、韓において、人口100万人当たりの博士号取得者の数を比較すると、この20年間で残りの6か国は、皆博士号取得者を増加させているにもかかわらず、日本だけが明らかに下降傾向にあります。国ごとの博士号取得者数(絶対数)を見ても、米国と中国が博士号取得者をこの20年間で倍増させ世界ツートップの勢いを見せ、独、英、仏、韓も取得者数を増加させているのに、日本だけが博士号取得者を減らしています。年を経るほどに、他国は博士号取得者を増加させる一方、日本だけが「知のリーダー」を減らしています。
近年、世界的に引用され影響力のある論文数が減り、わが国研究力の凋落が激しいと指摘されますが、これは単に論文数だけの問題ではなく、そもそも博士課程に在籍する大学院生数がこの15年間で半減したという現状を鑑みても、日本においては博士号取得者が、他の先進国ほど敬意を持たれる対象になっていません。

蓮井 有村議員が指摘された〝知の高度化〟が世界的に起きているというのは、まさにその通りで、例えば、アメリカの企業の経営者は、今や3分の2以上、7割近くが大学院卒で占められていると言われています。残念ながら日本の場合、大学院卒は15%以下にすぎません。すなわち、85%近くが大学卒で、取得は学士にとどまっています。最近は「低学歴国家日本」と指摘される状況に陥っています。

有村 「低学歴国家日本」とは、随分手厳しい表現ですね。ショックですが、私たちは今こそ、この現実を直視すべきです。
 わが国で長年言われてきた「学歴社会」は、実は高校卒業時点すなわち大学などへの進学時点での偏差値という一時期の数値に偏りすぎているからではないでしょうか。18歳前後の偏差値が高いか低いかによって進学先が事実上決まり、そのランキングに沿って、生涯賃金のパターンが分類化されていく。戦後も一貫して続いた学歴社会が、18歳前後の限られた定点における「物差し」だけで評価されるのであれば、大学院修士号や博士号を評価する土壌は生まれてきません……。

主要国における博士号取得者数(出典:有村治子事務所)
主要国における博士号取得者数(出典:有村治子事務所):2002 年米国、韓国、フランス、日本の人口100 万人当たりにおける博士号取得者数は150 人前後とほぼ同水準だったが、この20 年間で他の諸国は増加傾向となり、日本だけが下降傾向となってしまっている。一方、米国および中国における博士号取得者数(絶対数)は、2000 年代初頭から約2倍に急増している。
日米経営者の最終学歴の内訳(出典:経済産業省)
日米経営者の最終学歴の内訳(出典:経済産業省):アメリカの企業経営者は約7 割が大学院卒だが、日本企業経営者の大学院卒は2 割にも満たない。