
2026/08/14
防衛装備移転三原則は、大きな枠組みとしては従前からの変更はありませんが、防衛装備移転推進を通じた「同盟国・同志国等の抑止力・対処力強化」、「共通の装備品を運用し、生産・維持整備基盤を共有することにより、相互に支援する環境を構築」「有事に必要な継戦能力を支える国内生産能力を確保」、という新たに明確化された意義が、三原則本文に明文化されました。
これまでも三原則は見直されてきましたが、国産完成品の移転を救難、輸送、警戒、監視および掃海の5類型のみ、とする制約については見直しが実現しないまま今日まで至った、という次第です。そして高市政権発足後、今回5類型が「撤廃」されました。私個人としてはこの5類型撤廃は悲願でもありましたが実現にはまだ時間を要すると想定していましたので、今般の速やかな展開には正直驚いています。
今回の5類型撤廃により、今後は戦闘機、護衛艦、潜水艦などすべての完成品と、部品や技術および修理等の役務の提供の移転が原則可能になりました。当然ながら、自衛隊法上の武器については、個別案件を一層厳格に審査するとともに、移転後の適正な管理を確保していきます。しかしこれまで、移転が許容される〝ポジティブリスト〟の範疇内にとどまっていた完成品等が、これからはこの分野は不許可という〝ネガティブリスト〟と個別審査の組み合わせにより移転実施が可能となったわけです。歴史的大転換といっても過言ではない、と個人的には思っています。
とはいえ、「非武器」は移転先に制約を設けておりませんが、殺傷・破壊能力のある「武器」については移転先を、国連憲章に適合した使用を義務付ける国際約束の締結国に限定しています。現在、日本と防衛装備品・技術移転協定を締結している国は17カ国で、この締結は目的外使用とわが国の事前同意無き第三国移転を禁止することを国際約束として結ぶ、閣議決定した拘束力ある文書に基づいています。最近17カ国になりましたが、今後も対象は不断に検討していきます。
また「武力紛争の一環として現に戦闘が行われていると判断される国」へは、原則移転不可となるものの、「我が国の安全保障上の必要性を考慮して、特段の事情がある場合」が例外的に可能となります。「現に戦闘が行われている」国とは、これまでの議論ですとウクライナなどが対象になると考えられますが、そのときの情勢に応じて個別具体的に判断されることとなります。
そして「特段の事情がある場合」とは、例えば同盟国であり、対日防衛義務を負う米国が日本に支援を求めてきた場合には「現に戦闘が行われている」と判断されたとしても日本の安全保障上必要だと認められれば、例外的に武器を移転することができる可能性がありますが、いずれにせよ個別のケースに応じて、国家安全保障会議において厳格に審議することとなります。
厳格な審査と迅速化、合理化
また、移転における〝一層厳格な審査〟においても、国会の関与があってしかるべきというもっともな意見もいただきましたが、各国の状況を検証してみても、事前に国会に承認を取っているケースはありません。事前承認では迅速性の喪失、国会開会期間外の移転事案出来への対応、産業界からすると国会承認が得られなかった場合における予見不確実性等が生じます。こうした問題の発生は避けねばなりません。そこで日本では、国家安全保障会議で移転を認め得ると判断し、これを公表した時は、その後速やかに国会に通知します。これは三原則にも規定を盛り込みました。
また今回、「防衛力整備・自衛隊の運用に与える影響」が審査項目として追加されました。これは、装備品移転を図るときに生産ラインの現状とどう整合を付けるかという問題です。キャパシティを超える過重な生産をかけることで却って防衛力整備に悪影響を及ぼしては本末転倒ですので、大型品の製造が増えるならば、より一層わが国防衛力整備のスケジュールと調整を図る必要があります。
そのほか移転後の管理状況のモニタリング強化が掲げられました。この点、外務省では最近、在外公館に装備移転担当官というポストを置くようになりましたので、在外公館の協力も得ながら個別対応を図りたいと思います。
また、移転は協定締結国を対象とすると前述しましたが、例え完成品であっても技術的機微性の低い「非武器」の場合などは移転協定までは求めないことを明確化しました。これは産業界から強く要請されていた点なので、実現できて本当に良かったと思っています。ほかにも、案件調整段階の技術や、試作用部品であり相手国への貢献度が相当程度小さい場合などは、エンドユーザーつまり相手国の軍ではなく、第一次ユーザーとなる引受元企業を審査の対象とするなど、審査手続きの合理化が明記されました。これらの見直しは、実務的には非常に重要なポイントだと認識しています。加えて、M&Aなどの対外直接投資も認められるようになりました。
DICAS2・0とPIPIR
実は、三文書見直しや5類型撤廃と並行して、日米防衛産業協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)において大きな動きがありました。DICASは米国が民主党政権だった2024年4月、日米防衛産業協力の優先分野を特定するため新たに設立された枠組みで、ミサイルの共同生産、艦船・航空機の維持整備、サプライチェーンの強靱化を日米相互互恵的に実施していくことが主眼となります。
ただ、このDICASは日米の相互互恵が前提となっていたところ、米国ファーストを掲げる現トランプ政権は、米国へのベネフィットのために同盟国は何ができるのか、具体的には米国の生産基盤強化に向けて日本はどう協力するのか、投資をしてくれるのか、という議論に傾きがちです。相対して、日本に生産基盤を設ける等の提案をすると米国から仕事を奪うつもりだと受け取られかねず、非常に慎重な議論を余儀なくされています。つまり同盟関係の強化という理念が、以前と同じロジックでは相手に響かなくなりました。特に、現下の情勢では米国は自国の戦力をいかに増強するかに集中しており、それ故に生産基盤強化や技術協力がどのように互恵的であるか日本が提示し続けること、これは多大な労力を費やす難題だと感じています。
直近では4月14日に第4回協議が開催されたのですが、ここでは取り組みが実行段階に移行している状況を踏まえ、DICAS2・0とすることで一致、協力を一層推進することを確認しました。他方で前述のように国内関連各社の増産対応能力も考慮する観点から、今回の協議を増産対応能力強化に資する一つの契機として捉えるべきではないか、とも思っています。
この生産、維持整備、サプライチェーン等の取り組みは、バイのDICASだけでなく、マルチの枠組みであるインド太平洋における産業基盤強靱化パートナーシップ(PIPIR)においても、同様の展開が求められています。ことに22年のロシアによるウクライナ侵攻を受け、万一の事態に備えることが重要との認識をもとに設立されましたので、この枠組みに対し、今後、仮に米国が消極姿勢を取ることがあったとしても、日本としては地域の安全保障に関わるPIPIRを、引き続き重視したいと考えています。特に、豪州とは非常に密接な協力関係を構築しつつありますので、米国との関係を維持しながらも、他国との関係拡大にも努め、装備協力の交換性を高めていくことが重要です。
23年に、企業各社に一定条件下で財政措置を講じる取り組み等が規定された防衛生産基盤強化法が制定されました。製造工程効率化などでは多くの効率化等の実績もでき、また防衛装備移転円滑化基金も造成されています。まだまだ改善の余地があると考えておりますので、三文書見直しの検討の中で現行の措置についても振り返りつつ、検討を進めていく考えです。今回の三文書見直しを機に、企業の皆さまに同法の各種措置をもっと活用してもらえればと思います。繰り返しになりますが現在、装備移転に関するさまざまな議論がされ、本年末までに一定の答えを出す予定となっています。
ぜひ、産業界からも忌憚のないご意見を頂戴できましたら幸いです。
(月刊『時評』2027年7月号掲載)