
2026/08/14
本年4月21日、高市政権は防衛装備移転における「5類型」(救難・輸送・警戒・監視・掃海)の制約を撤廃した。これにより戦闘機・護衛艦などの装備品を、原則として輸出可能となり、日本の防衛装備品輸出政策は極めて大きな転換を迎えたこととなる。その意義と政策の概要、残る課題、そして今後の展望などを洲桃紗矢子国際装備課長に解説してもらった。
装備政策部国際装備課長 洲桃 紗矢子氏
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脅威認識の高まりを背景として
2025年、防衛装備庁は発足10周年を迎えました。この10年、同庁において防衛装備協力と装備移転を所掌する国際装備課の役割は、大きく拡がったように感じています。防衛装備協力も、米国のような同盟国だけではなく、パートナー国など幅広く対象としており、一つの課で世界全体に対応しているのは霞が関でもおそらく当庁当課のみではないかと思います。
4月21日、防衛装備移転三原則と運用指針の見直しが行われました。これまで国産の防衛装備品を海外に移転するときは分野を限定していたのですが、今回この規制が取り払われるという、非常に大きな転換点を迎えました。ここ数年でいろいろな制度設計が為されましたが、特にこの見直しについては、私自身ようやくここまで来たな、と感慨深いものがあります。
というのも、わが国は現在、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面しているからです。私は以前、防衛担当参事官として米国以外のパートナー国を広げるべく英国に赴任していましたが、その当時、欧州における脅威認識が萌芽しつつあると実感しました。ロシアだけではなく中国も〝システミックチャレンジ〟、すなわち軍事面だけでなく社会・経済面において既存の優位性を揺るがす可能性のある国、という認識を有し始めたのです。
この、パートナー国として対象となり得る要件は三つ、まず技術力が相互互恵的な水準であること、次いで経済状況の信頼感に基づく予算的裏付け、最後が安保環境に対する脅威認識が共有できること、です。欧州におけるこうした認識の変化が、日本がGCAP(Global Combat Air Programme =グローバル戦闘航空プログラム)に踏み切った大きな要因の一つだと捉えています。戦闘機を設計する際、どのような状況を事前想定するかが非常に重要ですが、その仮想対象にロシアだけでなく中国も加わったということになります。GCAPも多少の曲折はありましたが、この春無事、三国間の契約に至りました。
三つの防衛目標と戦略三文書
わが国の防衛の基本方針は、「三つの防衛目標を達成するための、三つのアプローチと手段により、あらゆる努力を統合することで、国民の命と平和な暮らし、そしてわが国の領土・領空・領海を断固として守り抜く」ことにあります。
そして三つの防衛目標とは、①力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境を創出、②力による一方的な現状変更やその試みを、同盟国・同志国等と協力・連携して抑止・対処し、早期に事態を収拾、③万が一、わが国への侵攻が生起した場合、わが国が主たる責任を持って対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除、の三点です。この目標は2022年末に策定された戦略三文書、すなわち「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」において明確化されました。つまり、万が一の事態が起こった時、脅威を排除するだけの防衛力をわが国自身も持たねばならない、ということです。
これに基づき、過去数年で2倍近い防衛予算の増強が叶いました。それでもGDP比では2%にとどまります。一方、米国トランプ政権はNATO加盟国等に対して、GDP比5%、純粋に防衛だけで3・5%の水準まで目指すよう言及しています。こうした動きに対し日本はどう対応するか、本年末に予定より一年前倒しで行う三文書改定時に、一定の方針を打ち出すことになると想定されます。
また戦略三文書では、「防衛力の抜本的強化の7つの柱」として、①スタンド・オフ防衛能力、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力・国民保護、⑦持続性・強靱性、の各点を掲げています。これらの柱を、次の三文書改定時にどれだけ達成し得るのか、検証していく必要があります。
そして防衛省では別途、防衛産業の中長期的に望ましい方向性を戦略として示すべく、検討を行っているところです。国際的には独自の防衛産業戦略をつくっている国が多く、米国も2年前に同戦略を初めて策定しました。日本も、三文書を踏まえて産業分野における戦略をしっかり打ち出していくつもりです。さらに、経済産業省の「成長戦略17分野」において、初めて防衛産業が対象に入りました。これらをもって、私は個人的に〝戦略五文書〟と捉え、いずれも本年内を目途に、良い内容の文書にしていければと考えています。
増産要請と生産キャパシティ
その際、継戦能力の確保と技術革新へのキャッチアップという、二つのポイントをテーマに議論を進めていくべきだと認識しています。継戦能力に関しては、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ各紛争の現場で新しい戦闘方式が導入されているのを受け、仮にわが国で戦争状態が発生し、それが長期化した場合にどれだけ持ちこたえられるかが非常に大きな課題となります。
特に防衛産業分野に関して言えば、日本全体の装備品が有事に伴う増産要請に対応できるよう、いかに平時から生産キャパシティを向上させておくか、これが防衛省において議論を尽くすべきポイントとなります。産業界から見ると、平時において自衛隊以上のキャパシティを有するためには、その分事業としての裏付けが必要ですから、その点こそまさに海外装備移転を平時から積極的に展開することで増産能力の伸長を図りつつ、万一のときには防衛に充てるという、ある種の強靱性ある生産基盤の構築を模索することが、われわれの問題意識の要諦となります。
その生産費用を担保するために国がどこまで財政措置できるのか等の議論も現在行っているところです。端的に申せば、より政府が主体となって民間の増産に必要な措置を行う、企業が進出できない国・地域に政府が主体となって移転を図る等の仕組みを作れるかどうか、多様な意見をもらいながら本年中に議論を見極めたいと思っています。
では防衛装備の移転先、すなわち各地域によって状況が異なるためそれぞれどの国にどのような装備の移転を図るべきか、いわば装備協力の地域戦略が問われています。例えば先般、日本からの移転が決定した、豪州へのフリゲートに代表されるように、国がしっかりと方向性を示しながら進めるべき装備移転もあれば、サプライチェーンに関わる備品など産業界が自由度をもって展開する移転もあり、それらを自由に組み合わせていくのが、今後の方向性として考えられます。