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AIに関する政策について/内閣府科学技術・イノベーション推進事務局審議官 恒藤 晃氏

◆特集:国際競争力強化に向けたAI戦略の展望

つねとう あきら/昭和41年7月生まれ、京都府出身。京都大学工学部卒業、東京工業大学総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。平成6年通産省入省、31年経済産業省電力・ガス取引監視等委員会事務局総務課長、令和3年内閣府宇宙開発戦略推進事務局参事官、4年経済産業省大臣官房審議官(製造産業局担当)、5年国立研究開発法人産業技術総合研究所理事、7年7月より現職。
つねとう あきら/昭和41年7月生まれ、京都府出身。京都大学工学部卒業、東京工業大学総合理工学研究科博士課程修了。博士(理学)。平成6年通産省入省、31年経済産業省電力・ガス取引監視等委員会事務局総務課長、令和3年内閣府宇宙開発戦略推進事務局参事官、4年経済産業省大臣官房審議官(製造産業局担当)、5年国立研究開発法人産業技術総合研究所理事、7年7月より現職。

 2025年9月、「AI法」こと「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が施行され、同12月には「AI基本計画」が策定された。これによりAIに関する政策を関係府省が一体となって推進する基盤が構築され、急速に進歩するAI技術をめぐる状況に、適切に対応できる体制が整ったことになる。では日本のAI政策はどのような特色を持ち、何を目指そうとしているのか。恒藤晃審議官に、AI法と基本計画の概要について解説してもらった。



AIをめぐる動きとわが国の課題

 ChatGPTをはじめとする生成AIは急速に進化し、近年では言葉や文章だけではなく、画像や動画も生成AIによって簡単に作れるようになりました。

 さらに昨年2025年からAIエージェントも実用化が進んでいます。これまでの生成AIが人の質問や指示に従って質問への回答や文章を作成するのに対し、AIエージェントは人が大きなゴールを設定すると、その到達に向けてAIが自律的にタスクを組み立て、ネット上あるいはサイバー空間にて実行するというものです。例えば、「アートが楽しめる旅行に行きたい」といったように目的を決めると、AIエージェントが自ら手順を考えて必要なサイト等を活用し、お薦めの場所と道中の計画を作成してくれ、そして要望すれば予約もしてくれるという、目的達成へのプロセスを自らこなしてくれるAIです。このように生成AIを軸として、AIの市場は今後も拡大が続くと予想されています。

 その中で日本は、開発力の低迷、利活用の遅滞、人材不足等、AIに関してはマイナス要素がよく指摘されるところです。とはいえ、直近25年末に財務省が実施した特別調査によれば、対象となった企業1100社については、全体の約7割、製造業で約8割、大企業で約9割が、文書作成や情報収集等にAIを活用しているという回答が得られています。これらの企業においては、業務時間の削減等に確かな効果が表れているとのことで、ようやくわが国の企業においてもAIの活用が進んできているようです。

 では、使う方ではなくAIをつくる方はどうか。AIのバリューチェーンは、主にはアプリ、AI基盤モデル、データセンターやクラウドといった計算インフラ、そしてそれを構成する半導体等の演算装置といった、四つのレイヤーによって構成されており、各要素それぞれに専門の事業者があるという産業構造になっています。こうした産業構造全体を、「AIエコシステム」あるいは、「AIスタック」と呼ばれたりもします。

 残念ながら、このAIバリューチェーンにおいて、現状、日本企業の存在感は希薄です。また、民間の調査機関が論文数などから評価している国別のAI研究力についても、過去5年ほど日本は世界10位前後にとどまっていますし、新たに資金調達を受けたAI企業の数も日本は世界の中で8位で、スタートアップの数も多いとは言えません。このように、これからさらにAI市場が拡大すると予想される中で、わが国のAI関連産業は開発力の強化が求められています。

 一方、AIが急速に発展することによって新たなリスクも顕在化するようになりました。例えば、生成AIが事実に基づかない誤った情報をもっともらしく生成することがあるという、いわゆるハルシネーションといった技術的リスクもありますし、より懸念されるのは、AIを用いた、偽・誤情報等の流通・拡散、知的財産の侵害が増えることや、犯罪への悪用など、社会的リスクです。

諸外国の政策の動向

 こうしたAIをめぐる動きのなかで、各国とも、研究開発を支援するなどイノベーション促進しつつ、同時にリスクへの対応を進めています。

 国際的には、23年の広島サミットにおいて日本主導の下、「全てのAI関係者向けの広島プロセス国際指針」がG7として採択されました。あくまで指針ですので、この内容についてどう対応するかは各国、各企業に委ねられていますが、G7としてAIのリスク対応に関する指針を取りまとめた意義は大きく、世界におけるAIリスクへの対応の土台となっています。

 EUは、イノベーションの促進とリスク対応を両方進めています。AI産業への支援としては、「AI大陸行動計画」を策定し、大規模なAI計算インフラの整備や高品質なデータへのアクセス促進等を推進しています。リスクへの対応としては、AIシステムを提供・導入する事業者に対して、そのAIシステムのリスクの大きさに応じた対策を求めるという規制法(AI法)を策定し、段階的に施行しています。なお、EU内でも、このAI法がイノベーションを阻害するのではないかという議論があり、昨年11月に、その施行を一部延期する方針が発表されました。

 中国は、25年8月に「「AI+」行動のさらなる実施に関する見解」というのを打ち出し、企業の研究開発を強力に支援するなどの政策を講じています。

 他方、米国は第2次トランプ政権発足後、AIの安全性確保に関する前政権時の大統領令を撤回するなど、イノベーションの促進に軸足を置いています。25年7月に打ち出した「AI行動計画」ではAIイノベーション加速、AIインフラ構築、国際的なAI外交と安全保障の主導などを掲げる一方、技術革新を妨げる規制は撤廃するとしています。

 そして米国は25年11月、新たに政府主導の「ジェネシスミッション」という研究開発プロジェクトを立ち上げました。「科学的発見のためのAI加速を目指す」というもので、米国エネルギー省や国立研究所が中心となって、「AIを活用した世界最強のAIプラットフォーム」を構築し、材料やエネルギー分野の科学技術の飛躍的発展をAIによって実現することを目指しています。続いて同12月には、「国家のAI政策の枠組みを確保」するための新しい大統領令を発布しました。州ごとにAIに関する規制が乱立していることから、連邦政府の方針と対立する州を特定し、そうした州を訴訟するチームを結成する、とのことです。

日本のAI法の特徴

 では、日本はどのような政策を進めているのか。

 2022年にChatGPTが公開されて以降、生成AIのイノベーション促進とリスクに関する対応が急務となり、まずは各省で対応を進めてきましたが、その後、やはりAIに特化した法律が必要との声が高まり、25年5月に「AI法」が成立しました。

 AIは、さまざまな分野に広く関係し、研究開発から活用に至るまで一体的・横断的に政策を講じることが必要であると考えられることから、総理をヘッドとする「AI戦略本部」を設置するとともに、政府のAI政策の基本方針を明記した「AI基本計画」を策定することとしました。これにより、各省が連携して、政府全体でAIに関する政策を総合的・効果的に推進する枠組みがつくられました。

 リスク対応としては、AIの研究開発および活用の適正性確保に関する「AI指針」を策定して関係事業者などに周知して自主的な対応を求めるとともに、実態把握を行い、国民の権利利益を侵害する恐れのある事案があれば分析して対策を検討し、必要に応じて、事業者への指導・助言・情報提供を実施するという仕組みが導入されました。

 なお、AI法には罰則がありません。つまり、政府は指導・助言はしますが、事業者がそれに従わずとも何らかの罰則を科せられることはありません。なぜこうした立て付けにしたのか。大きな理由は、そもそも、AIを用いているかどうかにかかわらず、違反事案については既存の法律で対処されるということです。さらに、仮にそれで対応できないケースがあったとしても、AIは発展過程にあるので、今後どのようなケースが生じ得るのかあまねく予見するのは困難であり、現時点で詳細な制度を構築するのは適切ではないと考えられるからです。このように、わが国のAI法は、既存の法律とガイドラインをもってリスクに対応することにしています。