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金融庁・国際金融センター構想最前線/高田 英樹氏

世界に開かれた国際金融センターを目指して

たかだ ひでき/東京都出身。東京大学法学部卒業。平成7年大蔵省入省、27年経済協力開発機構上級政策分析官、令和2年財務省主計局給与共済課長、3年内閣官房気候変動対策推進室参事官、財務省主計局主計官(総務、地方財政、財務係担当)、本年1月より現職。
たかだ ひでき/東京都出身。東京大学法学部卒業。平成7年大蔵省入省、27年経済協力開発機構上級政策分析官、令和2年財務省主計局給与共済課長、3年内閣官房気候変動対策推進室参事官、財務省主計局主計官(総務、地方財政、財務係担当)、本年1月より現職。

 政府は現在、世界に開かれた「国際金融センター」の実現に向け、さまざまな支援措置等を講じている。取り組みの柱の一つである、海外金融事業者の日本への参入促進については、既に一定の成果を生みつつある。同時に、国際社会の最重要課題の一つであるカーボンニュートラル実現に資する、サステナブルファイナンスの拡大にも注力している。これらの最新動向を高田課長に語ってもらった。

金融庁総合政策局総合政策課長
高田 英樹

資産運用業者の日本への参入を

 現在、金融庁は「国際金融センター」構想の一環として、グリーン国際金融センターの推進に取り組んでおります。

 世界に開かれた「国際金融センター」としての日本の強みとは、安定した政治体制が存在する民主主義国家であることです。治安が良く、平均的に高い生活環境が整い、豊富な個人金融資産があります。今、家計の金融資産は約2000兆円あり、その過半が預貯金ですが、逆に言えばそれらが投資に向かう可能性があります。この経済規模、個人金融資産の規模は日本の大きなポテンシャルなのです。

 この強みを生かすべく政府全体で実現を目指しているのが「国際金融センター」構想です。金融庁では、金融規制面における利便性の向上を図るだけでなく、税、在留資格、創業・生活支援、情報発信などの幅広い側面から海外の金融機関、特に資産運用業者の日本への参入を促す取り組みを行っています。

(資料:金融庁)
(資料:金融庁)

 まず税制は、ビジネスの立地戦略を考える上で非常に大きな要素です。香港やシンガポールなどでは金融所得にほとんど税金がかからないという特殊な税環境があり、税率そのもので対抗することは難しいのですが、日本で可能な、さまざまな措置を施しております。例えば法人税では、一定の資産運用業者について役員業績連動給与の損金算入を認める税制改正を行いました。また、相続税では、10年超日本に居住する外国人であっても国外財産を課税対象外としました。さらに、所得税では、ファンドマネージャーのファンド持ち分に対し、運用成果を反映して分配される利益(キャリードインタレスト)は総合課税ではなく金融所得として低い税率で課税されるという扱いを明確化しています。

 次に在留資格に関しては、資産運用に関わる金融人材が高度専門職として日本に入国しやすい環境を整備するための特例措置を施行しました。特に高度人材ポイント制について、海外の資産運用業の従事者向けのポイント加算項目を追加する等の優遇措置を拡充し、配偶者の日本での就労や家事使用人の雇用に係る要件についても対応しています。

相次ぐ各種支援措置、特例の数々

 昨年1月には海外の新規参入金融事業者を対象に、事前の相談から金融商品取引法上の登録手続き、その後の金融監督に至るまでをワンストップかつ英語で対応できる「拠点開設サポートオフィス」を設置しました。日本橋兜町の東京証券取引所近くに拠点を構えています。1年強で新たに7件の業者が英語で登録し、コロナ禍の渦中にあることを思えば非常に順調な進捗です。昨年11月には一定の海外資産運用業者については届出のみで参入できる特例も設けたほか、本年3月には、英語対応の対象業種を一定の外国証券会社にも拡大しています。

 加えて、災害等で海外での業務継続が困難になった資産運用業者の日本での一時的業務を特例的に承認するBCP特例承認制度を創設しました。本年3月には香港の資産運用業者の日本への一時的な移転を承認しています。

 金融庁が進めている「トータルな金融創業支援ネットワーク」は、日本に拠点を開設する海外事業者に対し、官民一体となって一元的にサポートする事業です。業登録だけではなく、従業員の住居探しをはじめ医療手続きや教育関係の施設を探すなど、従業員の身の回りに関する事柄を含めた支援事業です。

 また、国際金融センター専用ウェブサイトを金融庁のサイト内に設けました。すべての情報が日英2カ国語で表示されます。本年からは海外のビジネスコミュニティで広く使われているSNS『LinkedIn』のアカウントを新規に立ち上げ、対象とする層により訴求力の高いプロモーションを始めています。

 その他、金融庁の職員が積極的なプロモーション活動を行っており、2020年7月以降、約40回のセミナーを開催し、延べ約4400名が参加しました。コロナ禍のため大半はオンライン開催でしたが、今後は制限緩和の様子を見て、対面での活動も考えています。

 さらに金融庁は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と共同で、金融に特化したAI翻訳ソフトを開発しました。日本語と英語がセットとなった金融分野の大量の翻訳例をAIに学習させたプログラムで、本年3月から実装しています。金融庁でも使っていますが「驚くほど高性能」と評価が高く、パワーポイントのプレゼン資料をそのままのフォーマットで英訳できる機能も備えています。

 持続可能な経済成長をけん引する魅力あるマーケットの構築は、岸田政権が掲げる新しい資本主義の課題にも合致します。日本のマーケット高度化のため、サステナブルファイナンスを推進し、日本の金融市場の国際化を図ることは極めて重要です。ポスト・コロナを見据え、これらの取り組みをさらに本格稼働していく考えです。

炭素中立型の社会へ、投資を倍増

 サステナブルファイナンスは気候変動の他に人権、ダイバーシティ等の社会的課題をも広く含みうる概念ですが、世界でも日本でも喫緊の重要課題は気候変動対策であるという認識で一致しています。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムは毎年「グローバルリスク報告書」を公表し、発生可能性が高いリスクをランキングしていますが、この10年で環境関連のリスクの割合が増え、2020年には上位5位すべてが環境関連でした。今年のトップテンでも環境関連がトップ3を占め、1位は気候変動です。

 気候変動リスクに対応するため、15年のCOP21でパリ協定が採択されました。それまでの京都議定書は義務の対象が先進国のみで、米国が脱退したという非常に不完全な協定でしたが、パリ協定は歴史上初めて、ほぼすべての国が参加する公平な合意となりました。米国はトランプ政権下で一時脱退しましたが、バイデン政権で復帰しています。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して2℃を十分下回ることを世界の共通目標とし、2℃でもまだリスクがあるため1・5℃に抑えることを努力目標とすることを法的文書で初めて定め、非常に大きな意義がありました。

 昨年グラスゴーで行われたCOP26ではさらに議論が進化し、1・5℃をメインの目標とすべきという認識がほぼ共通となっています。このためパリ協定の段階では2050年から2100年の間に温室効果ガスの排出をネットゼロにすることを目指していましたが、日本を含む多くの国が2050年までの実現を掲げています。わが国は一昨年、当時の菅総理が初めて2050年カーボンニュートラルを表明し、昨年4月には30年度の削減目標を13年度と比較し46%減に引き上げ、さらに50%減に向けて挑戦を続けるという新たな目標を立てました。

 現在の岸田政権においても気候変動対策は重要課題と位置付けられています。今年1月の施政方針演説では2050年カーボンニュートラル実現には世界で投資を4倍に増やすことが必要との試算を紹介した上で、わが国においても炭素中立型の経済社会に向けて投資を少なくとも倍増させ、脱炭素の実現と新しい時代の成長を生み出すエンジンとしていくと述べました。

 以前は環境と経済はトレードオフの関係だと捉えられていましたが、最近では気候変動対策、脱炭素のための投資は経済成長にもつながるという考え方が主流です。政府も「環境と経済の好循環」としてトレードオフではなくて両立する、相乗効果を発揮しうるものだという認識です。カーボンニュートラル実現に向け、日本企業の取り組みや強みが適切に評価され、内外の投資資金が円滑に供給されるための環境整備が必要であり、世界の資金の流れを気候変動対策と整合的なものにすることがサステナブルファイナンスの課題です。