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海洋秩序の維持と強化に向けて/前 海上保安庁長官 奥島高弘

海上保安政策最前線

おくしま たかひろ/昭和34年7月生まれ、北海道出身。海上保安大学校、筑波大学大学院卒業。 平成16年総務部政務課政策評価広報室海上保安報道官、18年第三管区海上保安本部警備救難部企画調整官、19年根室海上保安部長、21年第三管区海上保安本部交通部長、23年海上保安庁警備救難部警備課領海警備対策官、 25年警備救難部管理課長、27年総務部参事官、28年第八管区海上保安本部長、29年海上保安庁警備救難部長、 30年海上保安監、令和2年海上保安庁長官、令和4年6月末退任。
おくしま たかひろ/昭和34年7月生まれ、北海道出身。海上保安大学校、筑波大学大学院卒業。 平成16年総務部政務課政策評価広報室海上保安報道官、18年第三管区海上保安本部警備救難部企画調整官、19年根室海上保安部長、21年第三管区海上保安本部交通部長、23年海上保安庁警備救難部警備課領海警備対策官、 25年警備救難部管理課長、27年総務部参事官、28年第八管区海上保安本部長、29年海上保安庁警備救難部長、 30年海上保安監、令和2年海上保安庁長官、令和4年6月末退任。

 国土面積(約38万㎢)の約12倍の排他的経済水域(約447万㎢)を有し、世界第6位の海洋国家であるわが国。海は生物、非生物を問わず資源の宝庫であり、排他的経済水域では、そうした資源の深査、開発、保存、管理をはじめ、その他の経済的活動における排他的な管轄権が認められている。それだけに近年、周辺諸国との緊張感は一層の高まりをみせている。そのため海洋秩序の維持を担う海上保安庁では、「海上保安体制の強化」をはじめ、国際協調に向けた取り組みを進めているが、その具体的な施策や取り組みの進捗、そして今後の方向性について海上保安庁の奥島(前)長官に話を聞いた。



近年のわが国周辺海域を取り巻く情勢

――わが国は、四方を海に囲まれた世界有数の海洋国家であり、貿易や漁業により「海」から大きな恩恵を受けています。またその一方、海難や密輸・密航といった海上犯罪、領土や海洋資源の帰属について、国家間の主権主張の場となるなど、海上においてはさまざまな事案が発生し、わが国周辺海域をめぐる情勢は一層厳しさを増しています。改めて、近年のわが国周辺海域を取り巻く情勢、その現状をお聞かせください。

奥島 近年のわが国周辺海域をめぐる情勢については、尖閣諸島周辺海域における中国海警局に所属する船舶による活動、大和堆周辺海域における外国漁船による違法操業、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射、そして、わが国の同意を得ない外国海洋調査船による調査活動や覚醒剤などの密輸事犯など、依然として予断を許さない状況にあります。また、ロシアによるウクライナ侵攻などもあって、現下の国際情勢はますます厳しくなっていると認識しています。特に尖閣諸島周辺の接続水域においては、中国海警局に所属する船舶がほぼ毎日確認されており、領海侵入も繰り返され、中国海警局に所属する船舶の大型化、武装化、増強も進んでいます。

 2020年(令和2年)からは、中国海警局に所属する船舶が日本漁船へ近づこうとする事案が多発しており、海上保安庁では、中国海警局に所属する船舶に対して、領海に侵入しないよう警告を実施するとともに、領海に侵入する中国海警局に所属する船舶に対しては、領海からの退去要求や進路規制を繰り返し実施し、領海外へ退去させ、また、日本漁船の周囲に巡視船を配備して、安全を確保しています。

 また、大和堆周辺海域では、これまで北朝鮮漁船および中国漁船による違法操業が繰り返し行われてきました。2020年以降、北朝鮮漁船は確認されていませんが、中国漁船に対する退去警告隻数は増加しています。そのため、海上保安庁では、引き続き、大型巡視船を含む複数の巡視船と航空機を配備し、日本漁船の安全確保を最優先に水産庁をはじめとする関係省庁と緊密に連携して、厳正に対処しているところです。

奥島 次に、わが国周辺海域においては、衝突や転覆、乗揚げ、火災などさまざまな海難が発生しており、海上保安庁では巡視船艇や航空機を出動させるなど、迅速な救助・救急活動を行い、尊い人命を救うことに全力を尽くしています。今般発生しました知床遊覧船事故の対応状況についても、海上保安庁では、事故発生以来、自衛隊や北海道警察の船艇・航空機、観光船や水難救済会所属漁船などの民間救助船舶と連携して、行方不明者の捜索を実施しており、5月末時点において、乗員乗客26名のうち、14名を発見し、14名の死亡を確認しています。今回の事故により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、そのご家族の皆様方に対しまして心よりお悔やみを申し上げます。また、依然行方不明となっている方々とそのご家族の皆様に、心よりお見舞い申し上げます。本件につきましては引き続き、関係機関などと緊密に連携しつつ、行方不明者の捜索に全力を尽くすとともに、業務上過失致死の容疑で所要の捜査を実施していきます。

「海上保安体制強化に関する方針」の進捗と本年度の取り組み

――そうした状況を鑑み、2016年(平成28年)「海上保安体制強化に関する方針」が閣議決定され、以降、海上保安庁では体制強化に向けた取り組みを進めています。これまでの海上保安庁の具体的な取り組みや進捗について、また本年度の取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

奥島 海上保安庁が直面する多岐にわたる課題に対応するため、2016年(平成28年)12月に「海上保安体制強化に関する関係閣僚会議」が開催され、「海上保安体制強化に関する方針」が決定しました。これは、わが国周辺海域をめぐる情勢が、一層厳しさを増していることを踏まえ、海上保安体制の強化の方向性を示すために策定されたものです。

奥島 具体的には、尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備、海洋監視体制の強化、原発などテロ対処・重要事案対応体制の強化、海洋調査体制の強化、これらの体制を支える基盤整備の五つを柱として進めていくとされました。この方針を踏まえ、海上保安庁では2016年度から整備を進めてきた大型巡視船、大型測量船、航空機などが続々と就役を迎えており、2021年度にあっては、ヘリコプター搭載型巡視船「あさづき」が就役し、本年度は、大型巡視船「おおすみ」と「わかさ」が就役予定となっています。

 一方、2021年度末時点で、巡視船艇の38%が耐用年数を超過している状況にあり、さらに、延命・機能向上工事後の使用想定期間である15年が間もなく到来する船も出てきていることから、増強整備と併せ、計画的な代替整備も進めているところです。