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海の安全と平和維持に向けた海上保安庁の取り組み

自衛隊との連携・協力の強化—「統制要領」とは

――さらに本年4月には、海上保安庁と自衛隊の有事における連携・協力の強化として「統制要領」が策定されました。非常に大きな、これまでなかった取り組みかと思いますが、要領の概要などについてお聞かせください。

石井 2023年4月28日、自衛隊法第80条に基づく、防衛大臣による海上保安庁の統制について、その具体的な手続などを定める統制要領が策定されました。

 海上保安庁と防衛省・自衛隊が適切な役割分担の下、一層の連携強化を図ることは極めて重要であり、今般、武力攻撃事態における海上保安庁の統制に関する具体的な手続などが確立されたことは大変意義のあるものと考えています。

 統制下に入った海上保安庁においては、海上保安庁法に規定された所掌事務の範囲内で非軍事的性格を保ちつつ、国民保護措置や海上における人命の保護などを実施することとなり、国民の安全に寄与する極めて重要な役割を担います。海上保安庁としては、今回確立された手続などについて、共同訓練などを通じて、より実効性を高めることで防衛省・自衛隊との連携強化をしっかりと推進していきます。

海洋をめぐる国際連携―「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて

――海上での取り組みが主である以上、国際的な連携は必須といえます。海上保安の実現に向けた国際連携としてはどういった取り組みがあるのでしょうか。

石井 海洋をめぐる世界情勢が緊迫化する中、海に関する問題は、一つの国で解決することが困難なものが多く、海で繋がる諸外国と連携、協力して対処することが極めて重要です。海上保安庁では、法の支配に基づく「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、

 ・ 世界海上保安機関長官級会合をはじめとした多国間、二国間での各国海上保安機関間での連携強化
 ・ Mobile Cooperation Team(MCT)派遣等による海上保安能力向上支援等の推進
 ・ 巡視船・航空機の派遣等によるプレゼンスの向上

――の三つの柱で国際連携の取り組みを行っています。

 一つ目は、多国間、二国間での各国海上保安機関間の連携強化です。海上保安庁は、これまで「北太平洋海上保安フォーラム」、「アジア海上保安機関長官級会合」、「世界海上保安機関長官級会合」など、多国間における枠組みを活用することで各国海上保安機関間の信頼関係を醸成してきているほか、諸外国と二国間における長官級・実務者間での会合などを行うことで、連携・協力を深め、海洋における法の支配といった基本的価値観の共有に務めています。

 特に多国間の取り組みに関して、今年度秋頃に、日本において第3回となる世界海上保安機関長官級会合を対面形式により開催予定としており、本枠組みを通して、さらなる信頼関係の醸成を図っていきます。二国間の取り組みに関して、特に創設期より深く交流し、連携を図ってきた米国沿岸警備隊とは、共同オペレーションや合同訓練の促進、能力向上支援における連携の推進を目的として、昨年5月に協力覚書の付属文書に署名し、このような日米両海上保安機関の共同取組を「サファイア」と名付けました。

 「サファイア」の活動として、合同訓練や日米両海上保安機関による能力向上支援などを通じ、両機関の海上法執行の手法や手続に関する相互理解を深め、互いの能力の向上を図っています。

 二つ目は、海上保安能力支援などの推進についてです。海上の安全確保は、主要な物資やエネルギーの輸出入のほとんどを海上輸送に依存するわが国にとって、極めて重要なテーマであり、インド太平洋沿岸諸国などの海上保安機関に対する能力向上支援は、海洋における法秩序の維持に寄与するものです。海上保安庁は、各国からの能力向上支援に対するニーズの高まりを受け、2017年10月に発足させた外国海上保安機関の能力向上支援の専従部門であるMobile Cooperation Team(MCT)を各国へと派遣し、海上法執行、捜索救助、油防除などの海上保安分野における能力向上支援を行っています。

 三つ目は、巡視船・航空機の派遣などによるプレゼンスの向上についてです。これまで、練習船の国際航海や海賊対策のため、諸外国へ巡視船や航空機を派遣してきています。派遣の際には、沿岸国の海上保安機関と合同訓練などを実施し、各国と連携協力を深めています。

 海上保安庁は、これらの取り組みを通じ、「自由で開かれたインド太平洋」を実現するために、海洋における法とルールの支配により海洋秩序を維持するといった基本的価値の共有、海上保安機関の能力向上支援を着実に進めていきます。

          2023年第1回日米海上保安機関合同訓練当庁回転翼機まなづるとUSCG「複合型ゴムボート」の救助訓練
          2023年第1回日米海上保安機関合同訓練当庁回転翼機まなづるとUSCG「複合型ゴムボート」の救助訓練
          2023年第2回日米海上保安機関合同訓練当庁巡視船こじまとUSCGヘリコプター「MH-60J」の救助訓練
          2023年第2回日米海上保安機関合同訓練当庁巡視船こじまとUSCGヘリコプター「MH-60J」の救助訓練

――緊張感を増す情勢とあわせ、大きな転換期にある海上保安庁。最後に平和な海の実現に向けた長官の想いや意気込みについてお聞かせください。

石井 わが国周辺海域を取り巻く情勢が一層厳しさを増している中、昨年12月に策定された「国家安全保障戦略」では、「我が国の安全保障において、海上法執行機関である海上保安庁が担う役割は不可欠」である旨明記され、「海上保安能力を大幅に強化し、体制を拡充する」という政府としての大きな方向性が示され、併せて「海上保安能力強化に関する方針」が決定されました。

 海上保安庁は、海上法執行機関として、国内法および国際法に則り、海上の安全や治安の確保を図っており、各国との信頼関係を築いた上で、法とルールの支配による海洋秩序を維持するとともに、海上における国民の安全・安心を守るという重要な役割を担っています。

 海の警察・消防である海上保安庁は、われわれに託された任務の重要性を認識し、海上における犯罪の取締り、領海警備、海難救助、環境保全、災害対応、海洋調査、船舶の航行安全など、今もまさに現場で行われている業務を的確に実施するとともに、「海上保安能力強化に関する方針」に基づき、各種施策を着実に推進し、創設以来、脈々と受け継がれる「正義仁愛」の精神の下、将来にわたり、国民の皆さまの安全・安心の確保に全力を尽くしていきます。

――本日はありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2023年7月号掲載)