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経済産業省電池産業政策最前線/蓄電池産業の現状と方向性について

未来の成長市場で競争力を取り戻すために

たけお のぶたか/昭和52年7月19日生まれ、神奈川県出身。早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程修了。平成14年経済産業省入省、産業技術環境局政策企画委員、大臣官房秘書課政策企画委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構欧州事務所長等を経て令和3年7月経済産業省商 務情報政策局情報産業課電池産業室長、4年2月より(併)同局情報技術利用促進課長。
たけお のぶたか/昭和52年7月19日生まれ、神奈川県出身。早稲田大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程修了。平成14年経済産業省入省、産業技術環境局政策企画委員、大臣官房秘書課政策企画委員、新エネルギー・産業技術総合開発機構欧州事務所長等を経て令和3年7月経済産業省商 務情報政策局情報産業課電池産業室長、4年2月より(併)同局情報技術利用促進課長。

世界的なグリーン化、デジタル化の推進において、急速な需要の高まり、市場の拡大が見込まれるのが蓄電池産業である。かつて日本は同産業で世界をリードしてきたが、中国等の急迫によりシェアを低下させつつある。サプライチェーンの強化、専門人材の育成、次世代蓄電池の開発等、電池をめぐるテーマは多種多様だ。昨秋、新たに設置された電池産業室の初代室長・武尾伸隆氏に、その方向性を展望してもらった。


経済産業省商務情報政策局
情報産業課電池産業室長
武尾 伸隆氏


需要増の背景に温暖化対策

 電池、と一言で申してもさまざまな種類があります。そのうち充電可能な電池の中で近年、主体となっているのがリチウムイオン二次電池です。正極と負極の間にあるリチウムイオンが行き来することにより電子が発生する構造で、ノーベル賞を受賞した吉野彰先生が1980年代に材料を発見、その後初めて商用化に成功したのが日本のSONYであるなど、蓄電池産業においては長らく日本が世界をリードしてきました。

 リチウムイオン電池が注目される所以は、これまでの電池と比べて特にエネルギー密度が高い点にあります。商用化当初は携帯電話などの電化機器に使われ、現在はEV(電動自動車)をはじめ用途の広がりを見せています。その大きな要因となるのが、世界的な温暖化対策、カーボンニュートラルの推進です。自動車からの排気ガスを抑制する最重要コンポーネントはバッテリーであり、EVの中でも価格の3~4割をバッテリーが占めているほどです。また今後、わが国が2030年段階で32~34%の再生可能エネルギーを電力系統に注入していく時の需給調整のために、さらには電力需要の高まりに備えるバックアップ電源としても、蓄電池の存在は不可欠です。その基盤をいかに国内に位置付けるかが、わが国のグリーン化、デジタル化推進における重要なポイントとなります。

 実際に畜電池市場の需要の伸びは著しく、車載用電池は2020年から35年までの14年間で14・2倍(容量ベース)に、蓄電池全体(定置用+車載用)の市場規模は19年段階で約5兆円でしたが50年段階では約100兆円へ伸長すると推定されています。

 しかし、蓄電池産業の国際市場は長らく日本がリードしてきたものの、近年は中国・韓国のシェア拡大が激しく、相対的に日本のシェアは低下しています。2015年に車載用で40・2%を占めていた日本のシェアは、20年段階で21・1%と、わずか5年間で文字通り半減しました。前述の通り市場がさらに拡大するのに反比例してますます低下の一途をたどるのではないかと、われわれは非常に危惧しています。現実として中国の蓄電池生産能力向上は著しく、また欧州も急速に生産能力を拡大させていくと見込まれています。このように各国そして企業が生産を高めているのに対し、日本の伸びはやや鈍く、それが今般のシェア低下につながっているという状況です。

 付言すると、今後、次世代電池とも言うべき全固定リチウムイオン蓄電池の登場が望まれています。既存の液系蓄電池に比べ性能、安全性ともに向上すると見込まれるため、30年代からの市場投入に向けて日本をはじめ各国の研究開発が加速化していくものと想定されています。もちろん既存のリチウムイオン電池が全て置き換えられるということも考えにくいので、現在の基盤技術を存続しながらいかに次世代への移行を模索するかがポイントではないかと思います。そしてその先には全個体をさらに超え、リチウム以外の原料を用いた電池の開発も想定されます。

 次世代電池の開発には当然、専門人材が必要とされ、そして各国ともこの分野が不足している傾向にあります。これを補うべく、中国などでは企業と大学が連携して育成コースを設けるなど人材獲得・育成に力を入れています。

偏在する原材料の埋蔵と生産

 次に、電池に関するサプライチェーンについてお話したいと思います。一般的に電池を製造するには、鉱物資源→電池材料→電池セル→電池パック→電動車・定置用電池システム等という製造工程をたどります。

 まず上流部分の鉱物資源、つまり電池の原料とも言うべきバッテリーメタルの状況ですが、リチウムイオン電池の正極材の原材料であるリチウム・コバルト・ニッケルは資源の埋蔵・生産・精錬いずれも特定国への偏在が見られます。特に、リチウムの埋蔵はチリ、生産は豪州、コバルトは埋蔵・生産ともDRコンゴ、ニッケルは埋蔵・生産ともインドネシアがそれぞれシェアの半分以上を占めていますが、それら鉱石を濃縮する精錬の段階では、いずれの鉱石も中国がシェアのトップを占めています。他方、負極の原材料である黒鉛については、埋蔵量がトルコ28%、中国とブラジルがそれぞれ22%を占めており、さらに生産量では中国が全体の6割超を占めるなど、こちらも偏在傾向が顕著です。しかもこれらバッテリーメタルは近年いずれも価格が高騰している上、2020年代中盤から需要が供給を上回ると想定され、今後の動向が懸念されています。

 これまでは鉱物の資源会社が主に開発を手掛けてきましたが、現在は電池メーカー、車載メーカー自身が自ら権益獲得に乗り出しており、それに対して中国は国営企業による権益獲得を推進、米国や欧州は政府投資や補助金による権益獲得を支援するなど各国政府の活動も活発化しています。

 では、鉱物資源をもとに電池材料を作る段階での状況はどうか。この点はまだ、日系企業が作る材料が品質面でも優位を保ち一定のシェアを保持しています。が、中国企業が価格面に加え品質面でも追い上げ、以前に比べ日系企業のシェアは低下していますので、引き続き日本も生産性向上等による価格競争力向上が不可欠です。

 サプライチェーンの今後を占う上で一つのカギになるのが、製造プロセスのグリーン化だと思われます。現段階では正極・負極とも材料製造における焼成、電極工程における乾燥段階、セル組み立て・仕上げにおける化成充電等でGHGが多く排出され、かつコストもかかるため、革新的なグリーン技術の開発・活用により、投資コストとCO2排出量の大幅低減につながる可能性が期待されています。そして生産性の向上や新たな付加価値創出に向けてはDX化、デジタル技術の活用が望まれます。それには、個社を超えたデータ利用や外部技術の活用など、オープンイノベーションの推進が重要となるのではないでしょうか。電池という特定分野の域を超えて、製造業全体におけるDXが必要な時代になったと言えるでしょう。