
2026/04/17
「100年に一度の変革期」という言葉が使われるようになって数年。自動車産業を取り巻く状況の変化が加速している。なかでも自動運転分野においては、ユーザーに新たな価値をもたらすSDV(Software Defined Vehicle)が登場し、米中を中心に開発と市場導入が進んでいる。こうした状況を踏まえ、政府は2024年に自動車産業のロードマップでもある「モビリティDX戦略」を策定。SDV化が進行する中、デジタル分野でわが国の競争力を維持・強化していくための戦略だったが、想定を超えるモビリティDX分野の変化に対応するべく25年6月にはアップデートされた。加速度的に変革を続ける自動車産業。その現状と今後のモビリティ政策について経済産業省自動車課モビリティDX室の黒籔室長に話を聞いた。
製造産業局自動車課モビリティDX室長 黒籔 誠氏
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――カーボンニュートラルやCASEなどを背景に「100年に一度」といわれる転換期にある自動車産業。自動車に対するユーザーニーズの深化やこれらに対応する技術の進展などもあり、自動車を取り巻く状況は変化し続けています。まず、わが国基幹産業でもある自動車産業を取り巻く現状についてお聞かせください。
黒籔 自動車産業を取り巻く現状としては、カーボンニュートラルや地域の足の確保といった社会的な要請、所有から利用へのシフトや体験重視といったユーザーニーズの深化、これらに応える技術の進展を背景にGX(グリーン・トランスフォーメーション)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)両面でのグローバルな大競争が進展しています。
例えばGXにおいては、自動車のライフサイクル全体でのカーボンニュートラルは世界共通の課題となっており、その課題解決に向けてさまざまな取り組みが進んでいますし、DXではSDV(Software Defined Vehicle)の登場でクルマづくりやビジネスモデルが大きく変化するなどしています。さらに、これらGX・DX両面での大競争に加えて、地政学リスクも高まっています。SDV化の進展に伴い車両と外部が繋がる中、半導体、通信機器などのサプライチェーンやセキュリティへの懸念が今後一層高まっていく恐れもあります。
SDVの概要と進展の影響
――SDVの進展により、自動車産業(クルマづくりやビジネスモデル)も大きく変化しているとのことですが、改めてSDVとは何か、そしてSDVによって自動車産業はどう変化したのでしょうか。
黒籔 SDV の最大の特徴は、ソフトウェアをアップデートすることで機能・性能の継続的な向上が可能である点です。例えば、高度な自動運転機能などの新しい価値もソフトウェアのアップデートを通じて提供することが可能になります。そのため、従来の自動車であればその商品価値は購入時点が最大で、それ以降は下がっていきますが、SDVの場合、その低減が緩やかだったり、維持や向上の可能性もあるということです。米Tesla社では年間160回から340回程度ソフトウェアのアップデートを実施していますが、その結果、自動運転機能や充電パフォーマンスの向上などが実現しています。
このように高頻度でソフトウェアのアップデートを行うことが前提になりますので、車の構造も変わらざるを得なくなってきています。特に特徴的なのが、E/Eアーキテクチャ(Electrical/Electronic Archi-tecture)と呼ばれるものの変化です。E/Eアーキテクチャとは、自動車のエンジンやブレーキなどのコンポーネントを動かす小さなコンピュータであるECU(Electronic Control Unit)をどこにどう配置するのかなどを表す、電子・電気システム全体の構成設計のことを指します。従来は1台あたり100個ほどのECUが使われていて、100個もあるとアップデートの管理が非常に煩雑で困難になりますので、一定数まで集約・統合していくというのが現在のトレンドになってきています。ドメイン型といわれる類型やゾーンセントラル型といわれる類型など複数の類型がありますが、いずれにせよ集約・統合されていくことになります。
また、ECUが集約・統合されていくと、従来よりも複雑で負荷が大きい処理が必要になってきますので、半導体の機能をどうするか、発生する熱をどう処理するかなど、変化は自動車全体に及んでいきます。デジタル化とは大胆に言い換えるとレイヤー化・階層化なのですが、自動車の構造がレイヤードアーキテクチャに変わっていくと見ています。
――SDV化の進展に伴う開発プロセスの変化についてはいかがでしょうか。
黒籔 このように自動車の構造が変わり、レイヤードアーキテクチャになっていくとソフトウェアとハードウェアの分離が可能になりますので、ハードウェアとソフトウェアの同時並行での開発が原理的には可能になります。ソフトウェアが複雑化していますし、実際に、米中を中心にモデルやシミュレーションを活用した開発が進んでいます。また、AIを活用した開発やデータ駆動型の開発も可能になります。この結果、開発のスピード化と効率化、そして顧客の体験価値の向上、これらがスパイラル的に加速していく状況になっています。この動きについていけるかどうかというのが極めて大事になっています。
もう一つとても大切なことは、SDVは通信機能を持っているということです。そして、ソフトウェアによって自動車の制御が行われるようになりますので、設計・製造・利用にわたる総合的なサイバーセキュリティの確保やデータセキュリティの強化が極めて重要になります。
――自動車の制御が奪われる可能性があると。ではセキュリティ対策としてどういった取り組みが進んでいるのでしょうか。
黒籔 日本ではJ-Auto-ISACという業界団体がサイバーセキュリティに関する事例を業界内で共有しています。また、国際基準でも自動車に関するサイバーセキュリティ対策が求められていてISOの取得なども進んでいます。誤解していただきたくないのはSDVだから危ないというわけではありません。モダンなレイヤードアーキテクチャを備えたSDVであれば、セキュリティレベルはむしろ高いといえます。