お問い合わせはこちら

半導体政策の動向について/経済産業省 清水英路氏

先端半導体の製造基盤を整備

 以下、これまで取り組んできた各案件の内容をご紹介したいと思います。

 まず、前述のステップ1にあたる国内生産基盤の強化として、先端半導体の製造基盤の整備を行いました。最先端のロジック半導体とメモリ半導体に特化しておりますが、これらの分野はやはり投資規模が非常に大きく、連動して26年3月現在で計約2・2兆円という、大規模な設備投資支援を行っています。

 このうちTSMCに関しては、この2月に現行で最先端である3ナノのロジック半導体を製造する方向が定まったため、政府もこれを支援するべく現在協議を進めています。これにより、TSMCで第一工場では22~12ナノ、第二工場では3ナノを製造する体制が整い、これらをAIデータセンターや自動運転に活用する〝システム to シリコン〟具体化への道筋が見えてきました。

 またTSMCは米国のアリゾナ州に大型の工場を建設するなど大規模投資を計画しており、ここに部素材や製造装置など日本の半導体サプライチェーンメーカー各社が競争力を持って参画することも重要だと考えております。同様に他の州でも半導体企業が相次いで大規模投資を行っており、米国各地に半導体製造拠点を形成するトレンドは、今後しばらく続くものと想定しています。従って日本のサプライヤー企業がこの流れにしっかり乗っていくべきだと思いますし、そうした海外進出を政府として支援していく必要があると考えています。

 ロジックとメモリ以外にも、重要な半導体は数多くありますが、それについては経済安全保障推進法にて、設備投資支援や補助金の交付を行っています。例えばSiCパワー半導体は電気を使うあらゆる機器に使用され、かつ省エネ性に優れた中核部品であることから、東芝、ローム、デンソー、富士電機の各社に支援を実施しています。近年、規模のメリットを図って業界再編の動きも活発化していることから、われわれ経産省もそうした動きを注視して効果的なフォローをしていきたいと思います。

 同時に重要となるのがサブストレートなどの半導体部素材産業の競争力強化や黄リンやヘリウムなどの原料類の安定供給です。これらは国内に資源がないため特定の地域に供給依存する傾向があり、供給途絶が発生した場合の影響を考慮し、原料の生産・備蓄・リサイクル等、国内における供給力確保を支援しています。

ラピダス・プロジェクトの推進

 次にステップ2の取り組みとして、ラピダス・プロジェクトの概要をご紹介します。ラピダスは経産省支援の採択を受けて22年10月から研究開発を進め、25年7月には北海道の生産ラインが完成、ここで試作した2ナノ世代のロジック半導体トランジスタが発表されました。

 続いて同年8月、次世代半導体製造事業者に対する政府の出資と債務保証を可能とする改正情報処理促進法が施行され、11月にはラピダスが対象事業者に選定されました。これに基づき、本年2月に政府からラピダスに1000億円の出資を行うとともに、それを呼び水として民間企業32社が合計1676億円の出資を行っています。政府としては今後も同社の量産準備に向けて必要な出資を行うとともに、民間資金を最大限活用するため、同社に対する民間融資に8割の債務保証を行うことで、総計2兆円規模の融資が受けられるようサポートします。こうした体制整備により、27年度後半に2ナノ世代のロジック半導体の量産開始を、さらに31年度ごろには全体の黒字化と株式の上場を目指します。2ナノ世代のロジック半導体の需要は急増しており、マクロ的には供給が追い付いていません。それ故、ラピダスでは製造と同時に顧客開拓にも注力しているところです。そして2ナノ世代のロジック半導体の量産投資と並行して、次なる1・4ナノ世代の半導体の研究開発・量産投資を図る計画が、現時点で示されています。

 こうした一連の大規模投資により、各地の半導体製造拠点では、経済効果や関連企業の進出が顕在化しつつあります。例えばラピダス地元の北海道千歳市では、オフィスビルやホテルなどの建設ラッシュが発生し、水道や道路等のインフラ整備も進んでいます。既に半導体関連企業50社以上が周辺地域への拠点設立を決定、また昨年末時点で同社従業員数約1500名のうち、北海道勤務は約950名を占めています。政府としては、連動して教育機関との協力体制に取り組み、また当地における産学連携の推進についても支援を行っています。同様の経済効果は、熊本、広島、三重、佐賀などでも表れています。

求められる、オープン研究開発拠点

 さらに、〝システム to シリコン〟実現に向け、モジュール製造技術、3D積層技術等の、先端パッケージ技術の開発にも力を入れているところです。また、それに伴い、そのために必要な製造装置や素材の開発・製造がまた重要となっています。それ故、政府としても、関連する研究開発への支援を積極的に行っていく方針です。現在、ファウンドリー中心の先端パッケージ技術の開発以外に、素材企業とファウンドリーの先にあるファブレス企業との連携、素材企業同士の連携などが群雄割拠の様相を呈しており、そうした競争の中で日本企業がシェアを確保できるよう、われわれも多様な連携に対し支援をしていきたいと思っています。

 そうした支援を行うにあたり、今後求められるのは、最先端半導体オープン研究開発拠点です。というのも前述のように製造装置、部素材いずれも国際市場での日本のシェアが相対的に低下してきており、これを何とかすべきという問題意識があります。その一つのアプローチとして、高NA EUV(極端紫外線)露光装置を活用した半導体製造装置や部素材の開発支援があります。EUV露光装置は半導体製造時のみならず、製造装置や部素材の開発時にも必要不可欠な装置となっており、現状は主としてベルギーのimecにある装置が活用されておりますが、これだと海外出張の手間もあり、回数や頻度も絞らざるを得ないため、現行の装置よりさらに微細な露光が可能な高NAの装置を、国内のオープンな研究開発拠点に整備し製造装置や部素材メーカー等に使っていただけるようにするという構想です。ラピダスがある千歳市内に立地させ、2029年度には稼働させることで、現地に最先端半導体の産業エコシステムを構築していきたいと考えております。
 
 また、各製品やサービスに最適化された各種半導体の回路設計やパッケージ設計が、今後付加価値が高まっていくと想定されています。まさに、海外の大手はこれらの設計とそれに関連するソフトウェアで最も収益を上げていますので、日本でもこの設計について競争力を高める必要があります。〝システム to シリコン〟実現のためにも、政府は設計開発プロジェクトに対して過去2年にわたり積極的な支援を行ってきました。代表的な支援例が、大手自動車メーカーと半導体企業が参集して結成した、技術研究組合ASRAによる、将来の自動車向け最先端半導体の設計プロジェクトへの支援です。他にも現在議論しているプロジェクトが多数あり、順次具体化を進めたいと思います。

 さらに半導体の回路設計についても、国が拠点を設けてそれを企業が比較的手軽な価格で利用できるような形態を構築できないか検討しており、本年夏から秋を目途にその拠点を整備したいと思っています。半導体の回路設計を行うには、EDAツールと呼ばれるソフトウェアの使用料やIPの使用料、あるいはデータセンター等の計算資源の整備費用や使用料、試作費用などが必要であり、非常に高額になっています。それに対し、国が支援を行うことで、日本の自動車を含む各分野のメーカーの方々やベンチャー、アカデミアの方々に、積極的に半導体設計に取り組んでいただける、そのような拠点を目指します。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

デジタルエコシステムの構築

 ここまでは主に補助金による支援の話をしてきましたが、経済産業省は、税制についても3月中旬現在、大胆な投資促進税制に関する法案を国会に提出中です。施行されれば、あらゆる業種を対象に認定プロセスを経て、35億円以上の設備投資に対して税額控除7%が措置されるため、大きな投資であれば数百億円単位の支援になると考えています。

 加えて研究開発税制の拡充・延長も行います。特に半導体分野については戦略技術領域に係る研究開発ということで、支援の重点化が行われる方針です。冒頭でも述べましたが、日本成長戦略会議において、これから17の戦略分野について、それぞれロードマップが策定される予定となっております。AI・半導体分野については、1月にそのためのワーキンググループも開催されました。

 そこでわれわれは、デジタルエコシステムの構築と確立を目指しています。すなわち、最先端半導体とパワー・アナログ半導体、それらを支える部素材・装置・サプライチェーン、電源や通信インフラなど半導体をつくる製造・技術・人材の各基盤と計算基盤が整備されることで、さまざまなAIデジタルサービスの開発も可能となる、そしてそれを使ったエッジデバイスの開発につながる、新たなサービス業にも活用できる、というものです。こうした目的に向けて、各構成要素が相互緊密にすり合わせることが競争力強化等において不可欠となります。このエコシステムを国内で形成し、それによってタイムリーに付加価値の高い製品やサービスを創出することで、わが国全体として強い経済が実現できればと考えております。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

 今後の検討の方向性としては、例えば、その強い経済の実現に向けて、先端的なセンサーやマイコンなどのアナログ半導体が必要になると考えています。それらをAIと統合し、国際的に日本が競争優位となり得るフィジカルAIをバーティカルAIへ発展させていくことが重要です。そしてそれには、AI開発力の基盤となる先端・次世代半導体や高性能電子部品、通信・電源システムから成るAIテックスタックに関するわが国のサプライチェーンを、半導体政策と連携して強化していくことが重要ではないかと考えています。

 繰り返しになりますが、これから策定するロードマップは、こうした論点を取り入れ、目指す方向性を実現し、日本の成長に寄与できるような内容にしていきたいと考えています。
                                             (月刊『時評』2026年6月号掲載)