
2026/09/18
続いて、②価値の創造、新しい宇宙ビジネスの開拓について。
注目すべきが、宇宙デブリへの対策です。宇宙利用の進展に伴い軌道上の物体数が急増、これら宇宙物体同士が衝突する危険性が年々高まっています。米国のデータによると、現在軌道上には10センチメートル以上、だいたいソフトボール大くらいの物体だけでも3万個近く存在しているとのこと、これを各衛星はぶつからないよう回避しながら宇宙空間を飛んでいるというわけです。
さらに問題は2018年以降急増した「宇宙機」つまり人工衛星自身で、今やデブリの約半数を占める1万4000個近くに及びます。当然各衛星は軌道も速度も異なるので、衝突を回避するためにも他の衛星の位置を認識し、回避の要不要を判断しながら飛んでいる状況です。従ってデブリの存在を事前に察知できるような正確なデータが求められます。不確実なデータのままでは、衝突リスクを勘案して事前に回避しなければなりませんので。
他方、人工衛星にとって一番大変なのは燃料の管理で、現状では一度宇宙空間に打ち上げられると燃料の補給はできないため、いかに燃費を良くして飛行するかが衛星活用上の大きなポイントとなります。つまり正確なデータによって、無駄な回避軌道を取る必要が無いと分かれば、そのぶん余分な燃料を消費しなくて済むということになります。そして日本では現在、そのデータを米国から無償で供出してもらっています。しかしいずれ有償となったり、あるいは高精度なデータは供出されなくなるかもしれないと懸念されています。
そこでわれわれは米国に対し〝Trust, but Verify(信ぜよ、されど確認せよ)〟のスタンスで臨んでいます。信じはするものの、中身を確かめるための技術をこちらが有していると相手に認知させることで、相手も質の良いデータを提供し続けてくれる、という考え方です。ある意味でデータの経済安保という考え方と言えるかもしれませんが、いずれにしても日本はこの姿勢を取っていきたいと考えています。
「光通信衛星コンステレーション」
もう一つ、「光通信衛星コンステレーション」への注目度が年々高まりを見せています。
そもそも衛星の機能は大きく三つあります。観測・通信・測位です。宇宙から地球を撮影し、その画像データを地上に送信する時、現在は電波を使って地表に設置されたアンテナに下ろすのが通常の方式となっています。が、最近では画質の向上に伴いデータが重たくなりすぎてなかなかアンテナに送れない、そのうちに送り手の衛星の方が動いてしまい、周回軌道をもう一回廻って来るのを待つしかない、こんな事態が頻繁に起こるようになりました。つまり今はデータを収集するより、それを送る方が大変になっている、というわけです。
この点を解決する技術として着目されているのが光です。電波は広く複数通信ができる一方、秘匿性が希薄でかつ遅いという欠点もある、対して光はまさにピンポイントで大量にデータを送れるので、光端末を衛星に搭載し送信機能のアップを図るという構想です。
さらに、地上で既に光ファイバー網がくまなく敷設されているのと同様、宇宙でも光通信衛星を多数配置する「光通信衛星コンステレーション」の計画が進んでいます。仮に地球を取り巻くリングのようなイメージで衛星を12機配置すると、常に球体のどの部分も観測できて衛星同士が光通信でつながっている状態になるとされています。とある衛星がこのリングにデータを送るとリングを形成する衛星全体にデータが共有され、周回軌道上のどの衛星からでも、地上に重たいデータを送ることが可能になります。この光通信衛星の開発に、米欧日それぞれ注力しているものの、技術的な難しさやコスト面のハードルが高く、それ故、国ごとの自律性は確保しながらも開発段階で相互協力できないか、という議論も始まっています。
日本の強みを発揮する三つのポイント
最後に、③「基盤」の強化について、です。これはすなわちサプライチェーンの強化を目指すものなのですが、その場合、日本としての強みをどう発揮していくかがポイントです。
その強み、これも3点あります。まずは産業基盤。宇宙に限らず半導体や家電製品等、産業基盤があり中小企業がいてつくれる技術を有している、この能力は実は海外にあまりありません。人、企業、技術が揃っているのはやはり日本の強みです。
次いで、打ち上げ場所があること。日本で衛星製造を希望する海外事業者にその理由を問うと、第一に前述の産業基盤があるから、第二に日本は射場、世界では宇宙港とも呼びますが、これが整備されているから、という答えが返ってきます。つまり、日本でつくり日本で打ち上げられる点に価値がある、と。
三番目の強みは、JAXAはむろん、それを支えてきた民間企業など、先達たちが築いてきた宇宙開発の歴史があることです。それが新技術をつくれる環境となり、そこに海外事業者のノウハウを組み合わせれば、良質な技術を大量に製造することができて打ち上げも可能、この一連の流れが海外からは日本のサプライチェーンが魅力的に見える理由だと言われています。
従って日本国内においても、こうした強みを自ら伸ばしていくのが重要ではないでしょうか。現在でもバラエティに富んだ多種多様な宇宙関係の企業が生まれており、その点は日本ならではとも言われています。ただ、米国に比べればベンチャー企業のM&Aが日本ではなかなか進まない、つまり垂直統合が進みにくいという課題も見えてきました。
着陸拠点としての宇宙港に注目
ここで宇宙港、つまり射場について付言したいと思います。現在、国のロケットとしてはH3とイプシロンの2種、他方民間には再利用型も含め多様な種類のロケットがつくられています。また他分野からも製造に参入する動きがみられるなど日本のロケット開発は活況を呈していますが、それも日本各地に射場があるからだと言えるでしょう。代表的なところではJAXAの射場が鹿児島県種子島と内之浦にあり、日本でも最も打ち上げの実績がある射場です。
その他にも北海道、福島、和歌山、大分、沖縄にそれぞれ民間ロケットを打ち上げる宇宙港やその構想があるのですが、一方で最近注目されているのは、射場すなわち打ち上げるための設備ではなく、かつてのスペースシャトルのように、水平型に着陸するための設備が求められている点です。打ち上るときはロケットと同じく垂直発射するのですが、帰還する時は羽で滑空しながら水平着陸しますので。実はいま、米国の会社によって次世代スペースシャトルの開発が進んでおり、そこが宇宙から地球に帰ってくるときの一つの着陸拠点として、大分空港と提携しています。宇宙へ送り出すだけでなく、宇宙から帰ってくる玄関口をしっかり整備することも重要です。
このように、欧州をはじめ周辺国と陸続きの国々では国内各地に多数の射場を持つことは困難で、こうした国から見ると打ち上げのオプションが多々ある日本は、非常に価値があると捉えられるようです。
以上、宇宙産業課としてのミッションに始まり直近の動向についてご説明申し上げましたが、重要なのは当課だけではなく「経済産業省の総合力」をもって宇宙産業全体の活性化を図ることだと考えています。海外展開に関しては中東、欧州、アジア大洋州の各課、研究開発投資の加速に関してはスタートアップ室や研究開発課、官民による世界のルール形成では基準認証政策課、量産に向けた設備投資の加速は経済安全保障政策課や産業創造課など、関連する部局課室が垣根を超えてつながる必要があり、実際に宇宙に関する仕事は他の課に喜んで受けてもらえる傾向にあります。
さらに言えば海外とは、宇宙に限定するのではなく通商政策全体と位置付け、トータルで交渉を図る、またそうした体制が取れるのもわれわれ経済産業省の強みではないかと思います。そのほか日本各地の地方経済産業局と連携を取り、さらには世界各国にも経済産業省職員がおりますので、密に連絡を取るなど〝オール経済産業省〟体制で、宇宙産業の発展に貢献していく所存です。
(月刊『時評』2026年8月号掲載)