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文部科学省/産学における研究者の育成に向けて

STEAM教育を推進

 最近は、技術開発や研究成果が新聞に掲載されることが多くなり、「制御性T細胞」「mRNAワクチン」等の用語が普通に見出しに使われます。しかし科学技術に関する用語がわからなければ新聞を読んでも理解できず、その先の話にもついていけません。少なくとも用語を理解できる程度の科学・数学力を教育の一環で身に付ける必要があると考えます。

 また地球温暖化やカーボンニュートラル、完全自動運転等の社会課題は、自然科学と人文社会科学の両面で複合的な解決策が必要であり、総合知が求められています。例えば地球温暖化では、先進国と途上国の格差、世代間格差、資源のある国とない国、予算、税制などの問題があり、科学技術だけあっても解決できません。他にも車の自動運転では、車自体の技術以外に法律的解釈や、危険回避時に乗員と歩行者のどちらの安全を優先するのかといった哲学的な問題も考える必要があるのです。そのため最近は、従来の理系学問であるSTEM教育にArts を加えたSTEAM教育を推進しています。Arts とはリベラルアーツ、一般教養のことで、幅広い人文・社会科学も含めた『総合知』の重要性が今後さらに増していくと考えます。

 文部科学省では、科学技術・イノベーション人材の育成・確保に年間約260億円の予算を取り、博士課程の方々への生活費支援や若手研究者への奨励金、ダイバーシティの環境整備、先進的な理数系教育を進める高校への支援など、さまざまな事業を進めています。経済的見通しが立たないとか修了後の就職が心配といった理由で博士に進学しない学生は多く、支援が少ないので海外の優秀な学生に博士に来てもらうのもハードルが高いです。生活費相当額を払って研究に没頭してもらい、人材育成をすることは国の責務です。

(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)

 今までは収入のない博士課程の学生を年間7500人ほど支援していましたが、この一年で新たに約7800人を追加支援し、今後も増やす予定です。特に大学を経由して博士課程学生への経済的支援とキャリアパス整備を一体として行うフェローシップ型が規模を増やしています。2021年9月時点で東大約700人、京大約600人などの支援が採択されました。実際に支援を受けた学生からは、「研究に没頭できる」「キャリアパスを描けるようになった」という声が寄せられています。多様な支援策を実施し、科学技術・イノベーション基本計画に基づいた目標数値達成に向けて対応していきたいと思います。

 次世代人材育成事業としては、進んだ理数系教育を実施するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)への支援事業を20年ほど続けています。指定校は全国で約200校あり、SSH指定を売りにして生徒を集めている高校もあります。これらの高校では女子の理系比率が高く、ダイバーシティ、女性活躍の推進にもつながっています。

 学習指導面では、探究学習の重要性の高まりを受け、4月から「理数探究」「理数探究基礎」(共通教科「理数」)という新しい科目が高校に導入されます。科学技術コンテストへの支援も行っており、国際科学オリンピックや科学の甲子園などで活躍する生徒もかなり増え、メダルなども多数獲得しています。科学の甲子園ジュニアという中学生バージョンもあり、大会運営等の支援をしています。また科学に触れる機会を積極的に増やす取り組みも行っています。グローバルサイエンスキャンパスという事業は、卓越した意欲・能力のある高校生に大学レベルの特別なプログラムを提供する大学を支援し、実験や論文作成などを通じて能力を伸ばそうという事業です。ジュニアドクター育成塾はその小・中学生版で、ハイレベルのプログラムをやる気のある小中学生に提供しています。

(資料:文部科学省)
(資料:文部科学省)

ジェンダーギャップ解消は喫緊の課題

 日本のジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム)をみると、すべてにおいて諸外国に後れを取っています。一番ひどいのは政治分野で100点満点中6点。経済面も60点と決して高くない。管理職に占める女性の割合はG7の中でも圧倒的に低く、男女間の賃金格差も依然として大きい。科学技術分野でも日本の女性研究者の割合は世界最低レベルです。

 国際的な調査(OECD/PISA)で、高校1年の時点では、女子生徒の37パーセントが理数系で高得点を出しています。その後、高校で理系に進む女子は16パーセントと半分以下に減り、大学入学時に理系を専攻する女子はわずか5パーセントとこれも世界最低レベルです。残りの32パーセントの女子は非常に優秀であるにもかかわらず、別の分野を選択しているのです。

 改善策として女子中高生の理系進路選択支援プログラムを推進しています。進路選択の際、学校の先生、両親や兄弟の影響が非常に大きいことがわかっているので、本人や周囲の大人に対し、科学技術分野に進むロールモデルとなる人の体験談の紹介や、企業体験や見学を通じて、活躍している女性科学者、技術者への関心を高めるための取り組みを進めています。

 大学の研究者向けには、研究と出産・育児等のライフイベントを両立するための支援や、女性研究者のリーダー育成に向けた支援を年間10億円規模で行っており、また、全国ダイバーシティネットワークを構築し、女性研究者の環境整備向上に向け、成功事例の共有や知見の普及・展開といった活動にも取り組んでいます。加えて、教授など地位が上がるほど女性の比率が低いため、上位職への女性登用に向けた直接的支援も来年度から始める予定です。

 女性活躍推進は今後も継続して対策を取るべき大きな課題なのです。

研究大学ファンド設立へ

 現在、研究大学ファンドの設立を進めており、科学技術振興機構という文科省の国立研究開発法人に政府から財政投融資を10兆円規模で行い、数年後から年間約3000億円の運用が出る見通しです。それを使って一部の大学へ集中的に支援し、世界トップレベルの大学へと強化を図る狙いです。産学連携の実施や地域産業への貢献などを進める大学には、「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」による支援を同時並行で進めており、来年度予算に向けて議論を進めています。

 最近は、経済安全保障の文脈で国として研究開発を支援すべきという動きがあり、大きな基金が立ち上がりつつあります。高い目標を設定し、国家として大規模な予算を取って支援するムーンショット型研究開発制度など、今後も加速していく予定です。

 大学の強みは、理系に加えて人文・社会系など多分野の知が集まっているところです。アカデミアという幅広いネットワークにつながれる窓口であり、地域においては民間も自治体も集まって対等に議論できる場になります。上手く使えば高齢化の進む地方の課題解決や地方創生に貢献でき、さらに持続可能な社会づくりに成功すれば世界への展開も可能だと思います。まずは目指すべき社会を設定した上で、政府とアカデミックと産業と市民が四重らせんのように共に議論し、経験、資源、戦略をもとに必要な技術や知識を集積し、イノベーションを起こす。そのための幅広い人材育成と、教育の場を作っていく必要があると思います。
                                                 (月刊『時評』2022年4月号掲載)