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デジタルで拓く九州の未来/前 九州総合通信局長インタビュー

デジタル基盤で支える九州のポテンシャル向上

ふせだ ひでお/昭和42年9月20日生まれ、福井県出身。平成2年郵政省入省、23年総務省情報通信国際戦略局通信規格課長、25年総合通信基盤局電波部移動通信 課長、27年内閣府参事官(重要課題達成担当)(政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付)、 29年総務省情報通信国際戦略局技術政策課長、国際戦略局技術政策課長、30年総合通信基盤局電波 部電波政策課長、令和3年7月より九州総合通信局 長、4年6月より内閣官房内閣審議官等。
ふせだ ひでお/昭和42年9月20日生まれ、福井県出身。平成2年郵政省入省、23年総務省情報通信国際戦略局通信規格課長、25年総合通信基盤局電波部移動通信 課長、27年内閣府参事官(重要課題達成担当)(政策統括官(科学技術・イノベーション担当)付)、 29年総務省情報通信国際戦略局技術政策課長、国際戦略局技術政策課長、30年総合通信基盤局電波 部電波政策課長、令和3年7月より九州総合通信局 長、4年6月より内閣官房内閣審議官等。

 コロナ禍のもと、テレワークの定着と軌を一にし、地方回帰への関心が高まりつつある。その新たな生活様式を支えるのがデジタル技術の進展だ。情報通信が日常あまねく浸透した現在、安心・安全の確保等、さらなる利活用の推進が望まれる。地方活性化に向けても主力となるデジタル化施策の現在を、布施田局長に語ってもらった。

前 総務省九州総合通信局長
布施田 英生


――令和4年度重点施策「デジタルで拓く九州の未来」の概要やポイントについてお教えください。

布施田 主要な柱が4本あります。①デジタルを徹底的に利活用することで地方創生を図っていく。②デジタル社会の基盤となるインフラの整備。③サイバー空間での安心・安全な環境の構築。④災害時も迅速に復旧させることができる強靱化対策。特に現在②のインフラ整備に注力しています。

 岸田政権の重点施策であるデジタル田園都市国家構想を実現するためには、情報通信基盤の整備が欠かせません。政府の方針では、光ファイバー網の整備計画を3年前倒しして2027年度末に世帯カバー率99・9%、5Gの人口カバー率を2023年度には計画から5%上積みして95%にまで高めることとしています。九州でも地域協議会を設置し、自治体、通信事業者、利用者の方々とともに、プロジェクトの推進を図っていくこととしています。

――九州は離島や半島も多い中、地域情報通信網の整備状況はいかがでしょうか。

布施田 令和2年度末時点の光ファイバー整備率は全国で99・3%でしたが、離島や半島など多い九州では平均して97・7%でした。しかしながら、関係者の方々の努力もあって、現在整備がかなり進んできています。例えば、鹿児島県のトカラ列島の十島村では、海底光ファイバーが敷設されて今年初めからブロードバンド通信が順次始まっています。かなり進んだなと私自身も実感しています。

――放送ネットワーク整備支援事業にも力を入れておられると伺いましたが、その動向についてご紹介いただけますか。

布施田 九州には七つの県がありますが、県によって放送事情はさまざまで、民放が1局の県があれば5局の県もあります。また、県境近くでは隣県の局の番組を視聴されているケースもあって、そのニーズを意識した番組作りも進められています。地域のケーブルテレビ各社は地域の細かい情報に詳しく、地上波局もケーブルテレビ局と連携しながら番組を作るようになっています。地域の情報を丁寧に取材して地域住民のために発信することは放送の基本ですから、そのための放送ネットワークの健全な発展も図っていきたいと考えています。

――地域創生のためには、インフラとともに人材も重要な要素と思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

布施田 九州には八つの高等専門学校(高専)があります。高専は地元の産業界と密接な関係にありますし、専門的な技術力と柔軟な発想力を持った若者が学んでいます。総務省ではこうした高専を対象に、「電波をどう飛ばすか、どう使うか」という技術実証のコンテストを行い、その実証のための予算も拠出しているのですが、生徒の皆さんには積極的に応募していただいています。昨年度は、佐世保高専の生徒が「赤潮の発生を観測するために無線を使う」というアイデアを出して、総務大臣賞(最優秀賞)を受賞されました。このような人材開発を今後とも進めていきたいと思います。

 一方、デジタル時代においてはユーザーが主役です。特に高齢化社会の現在、総務省の予算において、おじいさん、おばあさんにスマホの使い方やネット閲覧時の注意点などを地域の人が手ほどきしています。昨年度は九州で97自治体、280拠点で実施しました。デジタル化支援制度などを用意し、世代間デジタルディバイドの解消に努めています。

 また、自治体のデジタル化支援も重要施策の一つです。平素の業務の中でデジタル化までなかなか手が回らない自治体などを対象に、ネットワークの光ファイバー化や行政手続きのスマホアプリ化を実現するため、総務省では「地域情報化アドバイザー」の派遣制度を設けており、九州でも大学教授や自治体職員の方々等、20名以上が登録されています。そのアドバイザーが要望に応じて自治体に赴き、職員とともにデジタル化の推進に取り組みます。この制度を利用して、ある自治体では十数年前に整備した光ファイバーシステムをどうやって高度化させ、更新していくか、そのためには国のどういう制度を利用すればいいのか等々を解決し、喜ばれています。

――冒頭におっしゃった重点施策の④災害時対応や防災ですが、九州は豪雨や地震の被害が続いていて、これも大きなポイントかと思うのですが。

布施田 はい、防災並びに災害時対応は重要です。過去の教訓を生かして、例えばネットワークを複線化したり、放送施設の予備電源を整備するなど、通信網や放送網の強靱化に向けて財政支援を行っています。それから、各自治体に災害対策本部ができたときには、現地で自治体と通信事業者、放送事業者と情報共有して迅速な復興を支援します。また、私たちは衛星携帯電話などを備蓄しており、災害発生当初に連絡ができない場合などに使っていただけるようにしています。

――ネット利用の低年齢化に伴うセキュリティ対策などはいかがでしょう。

布施田 ネットの安心・安全を確保するため、例えばインターネットを使い始めた小中学生などを対象に学校へ出向いて、利用時に注意すべき点などを説明する「e‐ネットキャラバン」という活動を続けています。令和3年度は九州の約200校で実施しました。セキュリティに対する、使う側のリテラシー向上を図っていきたいと考えています。

 また、規模の大きな自治体では職員間のネットワークが構築されていますが、そこがサイバー攻撃を受けたときにどう対処するか、システム運用者はどうやって端末を切り離すのか、内外にどういうかたちで公表するのかなど、適切な行動を演習で体験するCYDER(サイダー)という研修があり、多くの自治体に受けていただいています。

――ポスト・コロナに向けての展望をお聞かせください。

布施田 コロナ禍以前と以後とではデジタルの活用状況が大きく変化しています。コロナ禍で幸か不幸か否応なくデジタル化が進んだ側面もあるし、その効用についても再認識させられました。こうしたデジタルの流れはおそらく不可逆でしょう。

 東アジアの玄関口として九州に再びインバウンドが戻ってきた時、デジタルがそこでどう利活用されるのか注目されます。放送事業者が外国の方々と一緒になって番組を制作する等の活動を私たちも支援していきたいと考えており、これは地域の情報を世界に発信することにつながります。映像コンテンツの質的向上や、デジタルを活用したインバウンドへの対応、eコマースを通じた産業活性化にもつながります。例えば、外国の人気ユーチューバーに来てもらって、その人の目線で日本紹介の番組を作り外国でオンエアするなどは、すでに始められているところです。また自動翻訳にも注目しています。自動翻訳のレベルは日々進化しており、土産店のスタッフが外国からのお客さんとのコミュニケーションに活用できるレベルになっています。

 デジタル技術の汎用性が、図らずもコロナ禍で大きく進化したのかなと思います。そういう意味では、コロナ禍はデジタル活用を一気に開花させるための雌伏期間になったのかもしれません。

――最後にメッセージなどお願いできましたら。

布施田 「地域の繁栄なくして国の繁栄なし」と言われます。今年、九州は西九州新幹線の開業をはじめとする、将来へのさまざまな推進力が発揮されようとしています。そういう動きと一体になって、デジタル基盤でそれを支えながら九州を盛り上げていきたいと思っています。そして、九州の魅力を国内外に広くアピールしていきたいですね。

――本日はありがとうございました。
                                                 (月刊『時評』2022年7月号掲載)