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公的統計の課題と展望/総務省政策統括官(統計制度担当)北原 久氏

―総合的な品質の高い公的統計を目指して―

きたはら ひさし/昭和42年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。イェール大学経営大学院修了。平成2年総務庁入庁、 28年総務省統計局統計調査部調査企画課長、29年大臣官房参事官(大臣官房総務課担当)、30年政策統括官付統計企画管理官、令和元年内閣府公益認定等委員会事務局次長、3年公益認定等委員会事務局長、4年総務省大臣官房審議官(統計局、統計制度、統計情報戦略推進、恩給担当)、5年7月より現職。
きたはら ひさし/昭和42年生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業。イェール大学経営大学院修了。平成2年総務庁入庁、 28年総務省統計局統計調査部調査企画課長、29年大臣官房参事官(大臣官房総務課担当)、30年政策統括官付統計企画管理官、令和元年内閣府公益認定等委員会事務局次長、3年公益認定等委員会事務局長、4年総務省大臣官房審議官(統計局、統計制度、統計情報戦略推進、恩給担当)、5年7月より現職。



 国の政策を決定する上で重要な要素となるのが、現在の国情を表す統計調査だ。その内容が正しくなければ自ずと施策の効果も危うくなる。しかしこれまで、統計に対する国民の信頼度を揺るがす不適切事案がたびたび発生し、政府はあるべき統計の確立を目指して検証と改革に努めてきた。これらの経験を踏まえた上で、いかに統計が国民生活に不可欠で、品質の向上が求められるのか、その要諦を北原政策統括官に解説してもらった。




統計は国家とともに存在

 統計は、国家とともに存在するのであり、国家運営の基盤となるものです。また政府だけでなく、地方自治体、企業、団体、国民の一人一人まで、情勢把握や判断の基礎となるものです。殊に昨今ではデータに基づいて意思決定を行うことが以前にもまして重要になっています。近年の情報通信技術、データ処理技術の発達は著しく、大量のデータの高速処理が可能となり、「データドリブン」と言われるように社会・経済が変容する中、統計の重要性はますます高まっています。

 公的統計とは、主として政府が作っている統計ということになりますが、わが国では政府の統計は各府省がそれぞれの行政のために作る形をとっており、集中型統計機構、分散型統計機構という分け方でいうと、分散型ということになります。といっても完全に分散しているということでもなく、国全体の動向にかかわる国勢調査や労働力調査などは総務省の統計局が担っております。

 こうして各府省において統計を作成し提供する中にあって、「統計法」が公的統計の作成および提供に関する基本的事項を定めており、これが政府全体の統計制度の骨格となっています。総務省の「統計制度担当」では、政府全体の公的統計の整備に関する基本的な計画の策定・推進や、各府省が行う統計調査の審査・調整、統計の調査環境・基盤の整備、国際統計事務の統括、統計基準の設定、産業連関表の作成などを行っています。また、総務省には、統計行政に関する重要事項について専門的・中立的立場から調査審議を行う統計委員会が置かれておりますが、その統計委員会の活動を支える事務局としての役割があります。

 統計調査の実施には、調査実施者だけではなく、回答者の方々に御負担がかかります。いただいた御回答を適切に集計し結果を公表することにより、初めて有用な統計として政府をはじめ国民生活において活用されますので、そのためにも統計の品質を確保することが重要となります。

統計改革

 政府は、統計改革の取り組みを進めてきています。平成27年10月の経済財政諮問会議において、経済情勢を的確に把握するためには、GDPを推計するもととなる基礎統計の充実に努める必要との問題提起がありました。これを受け、28年12月の経済財政諮問会議の「統計改革の基本方針」、29年5月の統計改革推進会議の「最終取りまとめ」を経て、30年3月には「公的統計基本計画」の改定が閣議決定されました。さらに、同年6月には、統計委員会の機能強化、データの二次的利用の拡大・オープン化等を盛り込んだ、「統計法」「統計センター法」の改正法が成立しました。

 公的統計については、「GDP統計がぶれるなど、統計が実態を的確に捉えていない」「使い勝手が良くない」「プライバシー意識や調査に対する負担感の高まりで調査が困難化」との指摘がありました。調査に御回答いただく方からの回答率が低下すると、統計の品質に大きく影響を与えます。他にも、「統計行政の推進体制・司令塔が脆弱」「公的統計を担う専門職員の体制が弱体」との指摘もありました。これらのさまざまな指摘や問題意識を踏まえて取り組むことにしたのが、今般の統計改革です。

 まず「GDP統計を軸にした経済統計の改善」についてですが、GDPはさまざまな統計をもとに作成するもので、「加工統計」と言われます。GDP統計を改善しようとすることを通じて、多くの公的統計が改善されていくことになります。またGDPの推計に不可欠な「産業連関表」を、国際的な主流である「SUT(Supply and UseTables)体系」へ段階的に移行し、GDP統計を刷新するというものです。

 次に「ユーザーの視点の統計システムの再構築等」についてです。調査の段階で得られた情報には御回答いただいた方にとって大切な秘密もあり、利活用には統計法において制限をかけておりますが、統計情報の提供対象を拡大したり、また官民における行政記録情報やビッグデータ等の相互利活用の推進を図るというものです。

 さらに、「統計行政の基盤強化」については、統計委員会の機能強化、政府全体の方針に基づいた統計人材の確保・育成、地方統計部門の支援を推進するというものです。

(資料:総務省)
(資料:総務省)

「毎月勤労統計調査」の事案

 「毎月勤労統計調査」の事案は、こうした統計改革を政府として進める中で明らかになったものです。この統計調査は、雇用や給与や労働時間の変動を毎月調査するもので、厚生労働省が実施している重要なものです。

 一般に統計調査では、標本(サンプル)の抽出によって行うことが多いのですが、その場合でも、例えば大規模な事業所については影響が大きいため、全数を調査するという方法を取ることがあります。「毎月勤労統計調査」においても、「500人以上規模の事業所」については、抽出ではなく、全ての事業所を調査対象とすることとしていました。しかしながら、実際には、ある時期から、東京都において、「500人以上規模の事業所」についても抽出調査として実施するようになりました。こうした背景には、統計調査になかなか御協力いただけなくなっているということがあるものと考えられます。

 また、抽出調査においては、集計して統計とする際には、単純に足し合わせるのではなく、抽出率の逆数を掛けて復元する、という処理を行うことがあります。これは、異なる率で抽出したものをそのまま足し合わせた場合、結果に影響が出る恐れがあるためです。「毎月勤労統計調査」でも、そのような復元処理を行っています。しかし本事案では、東京都の大規模事業所について抽出調査として実施したにも関わらず、この復元処理が一定の期間行われませんでした。

 これが「毎月勤労統計調査」における不適切な取り扱いの発生経緯ですが、本件については、組織が問題を認識した後、速やかな公表、訂正等の対応を取るに至りませんでした。毎月勤労統計は、多くの指標に使われる重要な統計であるため、さまざまな影響が生じました。

 平成30年12月、統計改革を進める中、本件が明らかとなり、マスコミの報道が先行する形で、翌年1月、厚生労働省は「毎月勤労統計調査」をめぐる不適切な取り扱いを公表しました。これを受け、各府省において、他の政府の統計にも問題ないか、特に重要な統計に位置付けられる基幹統計の緊急点検を行ったところ、計画通りに実施されていないものなどが確認されました。2月、統計委員会に点検検証部会を設置し、再発防止策を御議論いただき、9月30日には、最終的な再発防止策について建議をいただきました。