2024/11/25
今年の通常国会で、地方自治法の一部を改正する法律(以下、改正地方自治法)が可決成立した。主にはDX(デジタルトランスフォーメーション)進展への対応と、緊急事態発生時を中心に国は地方に講ずべき措置について必要な指示をできる点が注目を集めている。これらの改正により、国と地方の関係性がどう変化していくのか、国民生活向上にどう関わるのか、阿部局長に改正の要点と行政が今後求められる対応について解説してもらった。
総務省自治行政局長 阿部知明氏
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法的根拠に基づいた指示として
――まずは、改正地方自治法の概要についてお願いします。
阿部 主な要点は、①デジタルトランスフォーメーションの進展を踏まえた対応に関する事項、②国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例の創設に関する事項、③地域の多様な主体の連携及び協働を推進するための制度の創設に関する事項、の3点に集約されます。そのうち②において「国は、地方公共団体に対し、その事務処理について国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するために講ずべき措置に関し、必要な指示ができることとする」(生命等の保護の措置に関する指示)、また「国民の生命等の保護のため、国の指示により、都道府県が保健所設置市区等との事務処理の調整を行うこととする」(事務処理の調整の指示)とされていることから、これらの内容について、どのようなものなのかと心配されている方もいらっしゃるかと思います。
――一部では国による自治体への指示権濫用を危惧する声もあったように思います。
阿部 はい、一方的に国から恣意的に地方へ指示命令が下されるのではないか、という不安ですね。ただ、これは乱発するようなものではもちろんありません。そもそも、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態の発生時においても、事業分野ごとに制定された既存の個別法の規定により、これは国が担当するとか、都道府県が担当するとかが決められ、さらに、場合によっては、一定のケースでは国が地方公共団体に一定の指示ができる等、できる限り事前にルール化されていますので、これらの規定に基づき具体的な対応が図られることが大原則です。
ただ、新型コロナウイルス感染拡大の例で言えば、およそ前例が無いスピードと規模で広がる感染症であり、都道府県や全国レベルでの迅速で広域的な調整を迫られるような事態となりました。この点、個別法の規定では十分な対応がとれないということで、国から事実上の要請等をすることで調整を図ったわけです。このため、今回、地方自治法を改正して、個別法では十分に対応できない事態が生じた場合であっても、一定の法的な根拠の下で責任を明確にしつつ、緊急的な対応がとれるよう手当てをしたということになります。
――各地の保健所における混乱などが典型例でしたね。
阿部 そうですね、保健所については、同じ都道府県の中でも、一定の市区等に仕事が任されていて、その任せた部分については、都道府県は権限を持っていないわけです。一方、新型コロナウイルスの例で言えば、国民から見ても、全体の調整はどうなっているのか、どこが指示系統の主体となるのか等、よく見えない部分もあったかと思います。特にコロナ禍初期、国から地方への調整を図ろうとも、それを確実に実現するための根拠がないため、実態としては協力の要請という形の中で、対応を進めざるを得なかった訳です。
――そこで今回その教訓をもとに、根拠となる法律を作ろうとしたわけですね。
阿部 想定外の事態が起こった時でも、こういう時には、国が都道府県に調整するよう指示をすることができる等の根拠を定めておけば、迅速に調整をはかることができます。法律で明記しておけば、緊急時の対応においてどこが責任の主体となるのかも明確になります。単なる要請とそれへの協力では、むしろ問題発生時の責任の所在があいまいになる恐れもあります。これが、事務処理の調整の指示の規定です。
また、生命等の保護の措置に関する指示についての規定について言えば、ここで定める指示権は、想定外の事態が起こった時しか発動できず、この点は法的にも縛りをかけているので、国の一存で恣意的に指示を発することはありません。要件としては個別法の指示が行使できず、国民の生命等の保護のために特に必要な場合が対象となります。事態が全国規模、あるいは局所的でも被害が甚大である場合等、事態の規模・態様等を勘案して判断し、手続きには閣議決定が必要となります。また、法案審議の中で、条文修正という形で入ったわけですが、事後には国会へ報告することにもなっています。
また、指示を発するにも各地域がどのような状態になっているのか実態がわからなければ的確・効果的な指示を出すことはできません。それ故、緊急時には地方から情報を収集し、その分析に基づいて指示を出す、それを可能にする仕組みも新たに作っています。
――制度は制度として、運用について心配する向きもあるのでは。
阿部 そうした懸念を解消し、改正地方自治法への理解を深めてもらうため、全国をブロック分けして、関東を皮切りに8月27日から説明会を開催してきました。10月前半までで各ブロックを一巡し、その過程で総務省職員が参加者との質疑応答をもとに丁寧なご説明を重ね、その議論もマスコミの方も希望すれば、聞いていただけるようにしています。
国と地方の相互データ連携
――緊急時における地方からの迅速かつ円滑な情報収集こそ、デジタルの活用が求められますね。
阿部 はい、今般の改正においては、地方自治法においてはじめて「情報システムの適正な利用等」の情報システムに関する規定が設けられました。コロナ禍の時、デジタル庁が構築したワクチン接種記録システム(VRS)が稼働したため、接種状況のデータが収集可能となり、この情報分析をもとに具体的かつスピーディーな手立てを講じることができました。振り返ってみても、緊急時における国と地方のシステム連携の先駆け的なものだったと思います。
改正地方自治法においては、地方の情報システムについて、事務の種類・内容に応じ、国と地方で連携し、その利用の最適化を図るよう努めるとする規定が設けられました。同時に、セキュリティについて、全国統一的な対応が求められることから、地方自治体にサイバーセキュリティ確保の方針を定めること、総務大臣は当該方針の策定等について指針を示すことなどが義務付けられました。現在、原則2025年度末を目途に自治体情報システムの標準化・共通化を進めているところですが、これが実現したあかつきには、地方間のみならず、国と地方の相互データ連携も、より円滑に行うことが可能となりますが、国と地方の枠を超えたシステム連携、データ連携をより一層深めるための環境が整っていくまさにこのタイミングでこそ、必要な改正だったと感じています。
――さまざまな利活用が期待できるようになりますね。
阿部 自治体間や国と地方の間でデータを共有できるのはもちろん、例えば突発的な事態に対して、国が急遽システムを新たに作った場合であっても、各自治体が同じ形式でデータを送ることもできるので、極めて迅速にシステムを稼働させることができると期待できます。また、現在全国1741市区町村と47都道府県それぞれが独自のシステムを構築しているため、毎年のように行われる税制改正等の制度改正に伴いシステムも各団体が発注をして改修をしている状態ですが、これが、近い将来、標準化され、クラウド化・集約化された業務アプリケーションが全国的に利用できる環境になり、自治体はいくつかの選択肢の中から、自らが使いやすアプリケーションを選択して利用するということになれば、地方における調達その他の業務が軽減されますし、他の全国展開されているアプリケーションとの連携なども容易になります。
――なるほど、共通システムとデータをもとに、自治体間同士、ヨコのつながりや地域一円の広域連携も想定されると。
阿部 自治体システムの標準化は、いわゆる〝20※業務〟について行われていますが、これは、これらの業務の規律密度が高く、どの自治体でも相当程度同様の仕事の仕方をしていることから、同じシステムを取り入れることが比較的やりやすいのではないかと考えられたためです。例えば、個人が他の自治体に引っ越す際には転出届や転入届など、どの自治体でも必ず行う手続きがあるわけで、あまり団体によって業務の仕方に差異はないと。さらに、これらの業務を行うシステムのデータの持ち方まで、できるだけ共通化していくと、団体間や他の業務システムとのデータの連携も容易になり、業務の効率化や自治体間をまたいだ手続きの迅速化などに資するとともにベンダーロックインの解消にもつながっていくと考えられます。なお、その際には、規律密度が高いとはいえ、業務のやり方をシステムに合わせるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)も不可欠であり、結果的に、各団体の業務の仕方も一層そろっていくことから、将来、事務を共同処理しようとする場合にも、大変有益な取り組みになるだろうと考えています。
※ 地方公共団体で取り扱う基幹的な業務。住民基本台帳や国民年金、各種税、国民健康保険、介護保険、児童手当、生活保護など多岐にわたる。
――自治体間連携は、住民サービスの向上につながるわけですね。
阿部 行政におけるシステム標準化の意義は、コストが下がるだけではなく、実は事務がそろう点にもあります。どこの自治体でも同じシステムで仕事ができるということは、仕事のやり方も相当程度そろっているはずです。同じシステムが使えるなら、連携もスムーズになりますし、いずれは窓口の統一なども可能となるということではないでしょうか。これらを住民側から見ると、手続きのスピードアップや利便性向上などにつながるものと思います。