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国土交通省水管理・国土保全政策最前線

気候変動を踏まえた 「 流域治水」対策の 全国展開に向けて

 

水防災意識社会の再構築をさらに進め、「流域治水」へ

――では、気候変動に伴い激甚化・頻発化する水災害に対する国土交通省の今後の取り組みについてお聞かせください

五道 平成27年から、〝施設の能力には限界があり、施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生するもの〟へと意識を変革し、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会」の再構築を進めてきました。今後はさらに一歩進め、流域における被害を軽減するために、あらゆる関係者が水防災を意識するだけでなく、治水対策に参画いただくことが必要ではないかと考えています。

 先ほどの検討会の提言や、令和元年東日本台風による被害を踏まえ、昨年11月に社会資本整備審議会の中に気候変動や社会動向を踏まえた今後の水災害対策のあり方を総合的に検討するため「気候変動を踏まえた水災害対策検討小委員会」が設置されました。

 小委員会では、これまでの河川、下水道、砂防、海岸などの管理者が主体になって行う治水対策に加えて、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として捉え、その流域のあらゆる関係者が協働して行う治水対策、「流域治水」へ転換し、今後どのように治水対策を進めていくのかについて議論しています。令和元年東日本台風の被災地での現地調査を行った「土木学会台風第19号災害総合調査団」からも同様の提言がなされているところです。

 具体的には、現在、治水計画を〝過去の降雨実績に基づくもの〟から〝気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの〟に見直し、

①治水施設の整備などの、なるべく氾濫を防ぐための対策

②治水施設などの能力を上回る大洪水の発生により氾濫した場合を想定して、被害を回避するためのまちづくりや住まい方の工夫などの被 害対象を減少させるための対策

③氾濫の発生に際し、的確・適切に避難できるようにするための体制の充実といった被害軽減のための対策と被災地における早期の復旧・復興のための対策

などを多層的に進めることによって、 気候変動による豪雨の増加などが懸念される中でも被害を減少させることが重要ではないかとの議論が行われています。

――新たな水災害対策である「流域治水」の各対策について伺わせていただきます。まず①氾濫を防ぐための対策とはどういったものでしょうか。

五道 まず、気候変動による水災害の激甚化・頻発化に応じて適切な対策が講じられるように、治水計画を〝過去の降雨実績に基づくもの〟から〝気候変動による降雨量の増加などを考慮したもの〟に見直すとともに、施設設計の際に想定する外力についても適切に見直していく必要があります。

 その上で、河川管理者による堤防やダム・遊水池の整備、下水道管理者による地下貯留施設の整備といった管理者主体の取り組みを強化するとともに、これまで災害対策に主体的に参画してこなかった関係者や住民にも協力を求めて被害軽減のために取り組んでいくことが重要になります。

 一つの例として、急速な都市化に伴う流出量の増大などに対して安全を確保するために、民間の開発者とともに治水施設の整備や流域の開発計画、土地利用計画などの総合的治水対策を行ってきた鶴見川流域では、河川管理者、下水道管理者、地方公用団体および地域住民などが連携して浸水被害対策に取り組み、河川整備に関しては河川管理者が河道掘削などを基本とした河道断面の確保対策に加えて多目的遊水地の整備を、下水道管理者が貯留管などの雨水貯留施設の整備を実施しています。さらに地方公共団体が河川への雨水の流出量を抑制する雨水貯留浸透施設を整備し、民間の開発者が舗装工事などよって低下した土地の雨水浸透機能を代替して雨水を貯留する防災調整池の整備などを実施してきました。こうした取り組みによって鶴見川では、令和元年東日本台風においては戦後5番目となる雨量288mm/2日を記録したにもかかわらず、ラグビーワールドカップが行われた新横浜公園にある鶴見川多目的遊水地で約94万?を貯留したほか、4900基を超える防災調整池などで雨水を貯留するなど、その対策が効果を発揮しました。

 また、既存ダムの洪水調節機能の強化にも取り組みます。ダムには治水機能以外にも発電や農業用水など河川水を利用するために平時から水を貯留しておく機能がありますが、これまで、利水のために確保されているダム容量は基本的に治水対策には用いられてきませんでした。しかし、利水専用のダムも含めて、利水のために貯めている水を事前に放流し、ダムの水位を下げることで空き容量を確保し、いざという時にはそこに貯水する、既存ダムの「事前放流」を進めています。

 「事前放流」については、例えば、水力発電のために確保しておいた水を放流してしまったために利水者に特別な損失が生じた場合には、その損失を補てんするための制度を創設するなど利水ダムなどの事前放流を推進できる仕組みを強化しました。

 また、令和元年東日本台風では越流などによって全国142カ所の堤防が決壊しています。そのため越水しても決壊しにくい「粘り強い河川堤防」を目指して今年の2月に有識者からなる「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」を設置して、決壊要因の分析や決壊した場所の特徴の整理・分析、堤防強化工法の技術的な検討を進め、当面の対策や方向性の取りまとめを行うこととしています。

――では、②被害対象を減少させるための対策とはどういった対策なのでしょうか。

五道 河川が氾濫した場合、人的・経済的被害を最小限に抑えるためには、まちづくりと連携し、水災害リスクが高い区域から、より低い区域に居住や都市機能を誘導していくことが重要になります。しかし、沖積平野に市街地が広がっている日本の状況を考えると、水災害リスクを回避できるような住まい方の工夫が重要になってきます。もし河川が氾濫しても、そこに人家がなければ被災する危険性は減りますので、氾濫水が押し寄せる危険性の高いところには住まないようにする土地利用のあり方、もしくは住んだとしても住宅の一階部分をピロティ構造にして生命や財産を守るといった住まい方の工夫などがあると考えています。そのためには自分の住んでいる土地の水災害リスクを知っておく必要がありますので、水災害リスクの情報をきちんと開示することで、まちづくりとの連携を進めていきたいと考えています。

 それらを踏まえて、まちづくりの側は地域の特性を考慮し、水災害リスクが高い地域では新規開発を抑制し、可能な限りリスクの低い地域に都市機能や居住機能を誘導していくような取り組みが求められています。今国会にも都市計画法および都市再生特別措置法の改正法案が提出されていますが、災害による被害を減少させていくためには開発抑制や居住誘導などまちづくりと連携していくことは必須になります。現在、都市局と住宅局、そして水管理・国土保全局が合同で有識者による検討会をつくり、その中で議論を進めているところです。

――最後の③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策についてお聞かせください。

五道 氾濫が発生し、一定の被害が不可避になった場合でも、迅速な避難によって人命を守るなど、被害を最小限に抑える警戒避難体制の充実は重要です。そのためには自治体などの行政サイドから提供されるハザードマップをもとに個人が災害時の防災行動を時系列で整理するマイ・タイムラインなどを作成し、水災害に対して事前のシミュレーションをする備えは有効ですので、必要な情報の提供を行っていきます。

 また、企業などの経済被害を最小化させるためには、雨水出水や小規模河川からの氾濫など、比較的発生頻度が高い浸水に対し、各企業などが止水板などの水防資機材を活用して浸水対策を講ずるための体制を整備しておくことが重要です。このため、高頻度で発生する洪水の浸水想定区域図を作成・公表するとともに、その水災害リスクに応じた効果的な水防資機材についての情報を企業などに提供するなど、普及啓発を推進していきます。

 そして大規模災害が発生した場合に一日も早く被災地の復旧・復興が図られるようにするためには、地方整備局の職員などが民間とも連携して、被災地の災害応急対策を強力に支援する TEC-FORCE のさらなる強化が必要です。隊員の能力向上のため、GPSやドローンといった最新の技術に関する訓練や研修などを充実するとともに、必要な災害対策用資機材の確保に努めていきます。

 また、発災時にTEC-FORCEが実施する排水活動や道路啓開などには、災害協定などに基づく民間企業の協力が不可欠であり、一層の官民連携(PPP:Public Private Partnership)のための枠組み・仕組みづくりが必要と考えています。その一環として、TEC-FORCE 隊員と
民間企業の双方の人材育成につながるよう、例えば、本年2月には、TEC-FORCE と山梨県建設業協会が連携してドローンや無人建設機械を活用した道路啓開などの訓練を実施しています。今後とも、訓練の充実、資機材確保などを図り、官民一体のTEC-FORCE のさらなる強化に全力で取り組んでいきます。

――流域のあらゆる主体が参画し、流域全体で行う「流域治水」。最後に本施策の実現に向けた展望や方向性についてお聞かせください。

五道 「流域治水」の施策を展開していくためには、治水、まちづくりをはじめとした多様な分野にまたがって、そして、国、県、市だけでなく、企業、住民といったさまざまな関係者が連携して取り組むことが求められます。「流域治水」への転換を進めていくためには、誰が、いつ、どこで、どのような目的で、どのような取り組みを実施するのが効果的なのか、施策、制度をどのように見直していくべきかについて、引き続き検討していく必要があります。そのためには各流域において、さまざまな関係者と「流域治水」について話し合う場の設置が必要であると考えています。

 さらに、これらの施策を効率的・効果的に展開していくためには、日進月歩である新技術の導入が不可欠です。そのため、異なる学会・業界など、異分野・異業種が横断的に連携するための枠組みについても検討を早急に進めなければならないと考えています。気候変動の影響により自然災害の激甚化・頻発化が懸念されている中で、被災地の早期復旧・復興を進めるとともに、今後も国民の生命と財産を守るため、気候変動による影響を踏まえた 「流域治水」への転換と事前防災の加速を進めていきます。皆さまの引き続きのご支援とご協力を賜りたいと思います。

――本日はありがとうございました。

(月刊『時評』2020年6月号掲載)

五道 仁実(ごどう ひとみ)
昭和36年12月28日生まれ。大阪府立茨木高校卒業、京都大学大学院工学研究科修了。61年建設省入省、平成20年国土交通省河川局河川計画課河川情報対策室長、24年水管理・国土保全局海岸室長、26年関東地方整備局企画部長、27年大臣官房技術調査課長、28年大臣官房技術審議官を経て、令和元年7月より現職。