お問い合わせはこちら

国土交通省下水道政策最前線/脱炭素社会の実現に向けて

下水道のもつポテンシャル

――カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて下水道分野の果たす役割は決して小さなものではないということですね。

奥原 そうですね。特に地方公共団体の事務事業から排出される温室効果ガスのうち下水道は大きな割合を占める一方で、下水汚泥から生じるバイオガスの活用などのポテンシャルも有しています。カーボンニュートラルや脱炭素社会の実現に向けて、下水道分野がどのように取り組んでいくのか、主な論点としては、地域社会全体を捉えた上で、温室効果ガス排出の徹底した排除とともに、更なる資源集約や連帯強化を通じてポテンシャルを最大活用し、新たな利用可能性の追求、貢献拡大をどう図っていくかということになると思っています。

 まず温室効果ガス排出削減の論点としては、今後徹底した省エネを進めていくためエネルギー消費の〝見える化〟などエネルギーマネジメントを進めること、そして動力の電化や新しい処理方法といった省エネ技術の開発と導入が挙げられます。また、CO2(二酸化炭素)の約300倍の温室効果のあるN2O(一酸化二窒素)の対策としては、水処理におけるN2O発生メカニズムの解明から研究を進めるとしています。焼却過程で発生するN2Oについてはそもそも焼却しない方法、あるいは焼却するのであれば高温焼却によりN2Oを発生抑制するなど新しい炉の開発や導入が挙げられます。

 一方、下水道ポテンシャルの最大限活用の論点、〝創エネ〟については地域バイオマスの受入による更なる資源集約、また〝再エネ〟については脱炭素地域づくりなどのまちづくりとの連携などが重要だと考えています。このほか、農業利用などへの利活用も重要になってきます。創エネに活用されるバイオガス抽出後の消化汚泥には、エネルギーがまだ残されており、固形燃料化の可能性があります。また、肥料としての利用可能性もありますし、焼却して建設資材にも活用できます。このように資源有効活用の最大化を図る下水汚泥のカスケード利用が重要となります。

――脱炭素社会に貢献するための下水道政策の一つとして、創エネ・再エネ・省エネなどがあると。では、こうした対策を進める取り組みにはどのようなものがあるのでしょうか。

奥原 説明が前後しますが、化石燃料を新たに用いることなくエネルギー生み出していくものとして、下水処理の過程でつくることを創エネと呼んでおり、これには下水汚泥の消化ガスを活用したバイオガス発電などが該当します。そして太陽光や下水道熱を活用する場合を再エネと呼んでいます。

 一方、温室効果ガスを削減するものとして、技術開発によるエネルギー消費量の削減は省エネでCO2削減になりますが、汚泥焼却の性能向上などによるN2O削減もあります。

 これまでの取り組みとしては、法律レベルでは、2015年には下水道法が改正され下水汚泥の再生利用の努力義務化が位置付けられるなどしています。

 このほか、創エネ、再エネ、省エネ、N2O対策のそれぞれにガイドライン・マニュアルの策定や予算支援制度の充実が図られてきました。来年度の予算案として、今般「下水道脱炭素化推進事業」という個別補助金制度を創設し、温室効果ガス削減効果の高い先進的な創エネ・N2O対象の集中的・優先的な支援により下水道のグリーン化を加速させたいと考えています。これ以外にも、環境省所管の予算案で「地域脱炭素移行・再エネ交付金」という交付金制度も予定され、地方公共団体の進める意欲的な脱炭素の取り組みに対して支援されるようになります。また、地球温暖化対策も含め、下水道における革新的な技術の普及については、国が主体となって下水道管理者である地方公共団体のフィールドに実規模レベルの施設を設置して技術的な検証を行い、ガイドラインを作成・公表し、全国展開を図る「下水道革新的技術実証事業(B-DASH プロジェクト)」を実施しています。

下水道政策の新たな取り組み

――これまでの下水道政策では、お話にありました「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」などによる技術革新や「下水道の国際展開」などが実施されてきましたが、そうした取り組みの今後の脱炭素社会への活用についてお聞かせください。

奥原 B-DASH プロジェクトは、平成23年度の開始からこれまで52の技術(実規模実証)を採択し、35のガイドラインを策定して全国への普及を促進しています。これまで下水処理のさまざまな段階における各種の革新的技術について取り組みが進められてきましたが、令和4年度は、下水道の脱炭素化を進めるため①最初沈殿池におけるエネルギー回収技術、②深槽曝気システムにおける省エネ型改築技術――といったテーマで公募しています。②が省エネに対応した技術になりますが、①は、水処理の結果として生じる汚泥に加え、新たに下水中に溶存する有機物からもエネルギー回収しようとするものです。

 また、下水道の国際展開についてですが、アジア、特にベトナム、インドネシア、カンボジアなどで展開しています。脱炭素関係では、例えば、近年では、カンボジアにおいてPTF法と呼ばれる省エネ型下水処理システムの技術を活用した「プノンペン下水道整備計画」の無償資金協力事業が進められています。また、N2O対策の関係では、汚泥焼却の技術の国際標準化について取り組みが進められています。焼却炉に関する技術の規格化として、2021年7月には、本邦優位技術の記載(炭化、溶融プロセス、廃炉の記載、ストーカ炉、循環流動炉の図)を盛り込んだ技術報告書「ISO/TR20736(熱操作に関するガイドライン)」が発行されました。

――では最後に脱炭素社会の実現に向けた下水道政策、その実施に向けた想いや今後の展望についてお聞かせください。

奥原 冒頭、大規模自然災害への対応、また、〝ヒト〟〝モノ〟〝カネ〟すなわち、下水道の担い手、施設の老朽化、人口減少に伴う使用料収入減への対応が下水道の直面する課題である点に触れました。そうした中にあっても、「下水道ビジョン2100」「新下水道ビジョン」に即し、ストックマネジメント、広域化・共同化、官民連携、経営改善、DX、新技術、国際展開などの推進を通じて、下水道を着実に整備・維持運営していく必要があります。

 先述しましたが、下水道は、国民の暮らしと社会経済に不可欠な下水の排除という機能のみ有しているわけではありません。バイオガス発電をはじめとしたエネルギー供給や農業利用、これらを通じて今回のテーマにもある脱炭素化にも貢献するなど、複数のサービスを提供できるポテンシャルを有しています。

 今後、あらゆる分野で〝ヒト〟〝モノ〟〝カネ〟の課題が進展していく中、不可欠の機能はもちろんそれ以外のさまざまな投資効果を発揮する分野については、官民を問わず重点的に取り組みを進めていくことが重要ではないでしょうか。そうした取り組みの一つとして下水道を見ていただければ幸いです。

――本日はありがとうございました。
                                                                 (月刊『時評』2022年2月号掲載)