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国土交通省/“日本版MaaS”実現に向けた現状と今後の展望

かわだ あつや/昭和50年3月生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業。 平成10年運輸省入省。23年国土交通省航空局航空ネットワーク企画課、28年同課航空交渉室、29年国土交通省観光庁観光戦略課、令和元年同庁観光資源課を経て、令和2年7月より現職。
かわだ あつや/昭和50年3月生まれ、大阪府出身。東京大学法学部卒業。 平成10年運輸省入省。23年国土交通省航空局航空ネットワーク企画課、28年同課航空交渉室、29年国土交通省観光庁観光戦略課、令和元年同庁観光資源課を経て、令和2年7月より現職。

地域住民や旅行者の移動ニーズに対応し、複数の公共交通をはじめとする移動サービスを最適に組み合わせて、検索・予約・決済を一括で行えるMaaS。社会実装に向けた取り組みが進む中で発生した新型コロナウイルス感染症によって交通分野は深刻なダメージを負ったが、その歩みは止まらない。今回、改めてMaaSを取り巻く現状とこれまでの取り組み、そしてMaaS 実現に向けた今後の展望について国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課の河田課長に話を聞いた。


国土交通省総合政策局モビリティサービス推進課長
河田 敦弥氏


――Mobility as a Service(以下、MaaS)という言葉も浸透し、全国でさまざまな実証事業が実施されています。さっそくMaaSについてお話を伺わせていただければと思いますが、その前に貴課(モビリティサービス推進課)についてお聞かせください。

河田 モビリティサービス推進課は3年前の2019年7月に新設された新しい組織です。ここでいうモビリティとは鉄道やバス、タクシー、旅客船、旅客機などの公共交通だけではなく、マイカーやレンタカー、あるいは自転車やマイクロモビリティなど原動機の付いた乗り物、移動手段を指しています。このようなモビリティによるサービスを推進していくための施策を進めているのが当課です。重要なのは、移動というのは基本的に手段ですので、われわれは移動が手段ではなく目的となるような社会活動、経済活動に対する政策、あるいは課題に対してソリューションを提供しているという点です。

 また当課はMaaSを推進している組織として紹介されることが多いのですが、MaaSに限らずモビリティ、移動を便利に、あるいは改善することによって地域の社会課題の解決に向けた取り組みを実施している組織になります。モデル事業を通じた財政支援や補助金などによって地域の取り組みの支援、またIT技術の進歩に伴い、これまでの規制では想定できない状況も発生していますので、それを今の時代に即した形に整理するというのも当課のミッションだと思っています。

日本版MaaSと国土交通省の取り組み

――では改めてMaaSの概要、そして国土交通省の取り組みについてお聞かせください。

河田 MaaSとは、地域住民や旅行者一人ひとりのトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済などを一括で行うサービスであり、観光や医療など目的地における交通以外のサービスなどとの連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にもする重要な手段です。

 移動手段は、鉄道やバス、タクシーなどの公共交通に加えて、カーシェアリングやシェアサイクル、それ以外にも定時・定路線ではなく、乗りたい人の希望する場所・時間に迎えに来てくれるサービスであるAIオンデマンド交通、時速20km未満で公道を走ることができる電動車を活用した小さな移動サービスのグリーンスローモビリティなどもあります。そうしたさまざまな移動手段に観光や物流、医療・福祉に小売りといった目的を一体化させ、サービスとして提供する。それによって移動の利便性向上をはじめ、公共交通の高度化・活性化、さらには外出機会の創出と地域活性化といった地域における課題解決に向けた取り組みがMaaSになります。

 では〝日本版MaaS〟についてですが、その機能を①コアなMaaS、②MaaS+生活・観光サービス、③MaaS+社会インフラ――の三つの段階にわけて取り組みを進めています。①では、まさにモビリティによる出発地から目的地までの最適な移動を検索・予約・決済など一括で行うことでシームレスな移動を実現させる。②は、観光や通院をはじめとする生活・観光などの私的な移動において、割引やイベント情報の配信など、目的と連携したサービスを提供することで行動の付加価値化を図り、移動を喚起させる。そして③では、道路や交通結節点などをはじめ、インフラ整備とまちづくりを連携して社会課題の解決を図っています。例えば、車椅子を使われている方がバスを利用しようとした場合、通常、バスの運転手は実際にバス停に到着するまで乗客が車椅子を使用していることは知りません。しかし対応アプリを使えば、運転手に情報が伝わり事前の準備や対応もできますし、状況によっては信号間隔を変更させるといった制御も可能になります。このような個々のニーズに合わせた公共サービスの提供までつなげるというのが③になります。

 MaaSの目指す姿が社会課題の解決である点は触れました。現在進めている①~③までの段階をクリアできれば、単なる移動だけではなくスマートシティをはじめとしたまちづくりにおけるモビリティの重要な役割が実現できるという点からも非常に有意義なものだと思っています。

――国土交通省ではこれまでも全国で実証事業を行うなど、さまざまな取り組みを進めていますが、近年の代表的な取り組みとしてはどういったものがあるのでしょうか。

河田 補助事業として新モビリティサービス推進事業を進めています。本事業には大きく分けて①Maa Sの社会実装、②新たなニーズに対応した取組の推進、③MaaSの円滑な普及に向けた基盤づくり――の三つの取り組みがあります。まず①ですが、これは総合的な取り組みであり、これまでお話してきたような基本的、または地域実装に近い形で取り組むMaaSになります。

河田 本事業のキモになるのが②の新たなニーズに対応した取り組みの推進です。②では実証実験の結果や新たなニーズ・課題への対応を行いますが、まず⑴混乱を分散させる取り組みでは、混乱情報提供システムの導入として、例えば次に来るバスの混雑状況をリアルタイムで伝える仕組みを導入する場合には補助金を出すというものになります。さらに⑵接触を避ける取り組みとは、キャッシュレス決済の導入、あるいは顔認証などの非接触型決済システムの導入に対する支援になります。そして⑶パーソナルな移動環境の充実のための取り組みは、定時・定路線ではなく、スマートフォンで予約した人の家の近くまで、指定の時間に行き、それをいくつも組み合わせて相乗りしていくAIオンデマンド交通のような仕組みを導入するための支援になります。また新しいモードとしてシェアサイクルや電動キックボードなども組み合わせて地域全体の社会課題を解決するといった事業です。

 ③では、MaaS普及に向けた基盤づくりとして、経路検索サービスや地図サービスへの情報提供を目的とした世界標準の公共交通データフォーマットであるGTFS(GeneralTransit Feed Specification)に対応させるためのシステム整備支援をはじめ、地域が新モビリティサービス事業を計画する際の策定支援なども行っています。こうした取り組みを2019年度から2021年度まで進めてきていますし、それ以外にも全国でさまざまな実証への支援を行っています。

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