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持続可能な物流を目指して/ 国土交通省 平澤 崇裕氏

◆国土交通省物流政策最前線

ひらさわ たかひろ/昭和47年10月生まれ、神奈川県出身、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。平成7年運輸省入省(自動車交通局技術安全部整備課)。10年自動車交通局技術安全部技術企画課国際業務室国際協定係長、14年外務省欧州連合日本政府代表部書記官、17年総合政策局環境・海洋課専門官、28年国土交通省自動車局審査・リコール課リコール監理室長、30年自動車局技術政策課自動 運転戦略官、令和2年自動車局技術・環境政策課自 動運転戦略官、3年鉄道建設・運輸施設整備支援機構施設管理部長を経て、令和4年4月より現職。
ひらさわ たかひろ/昭和47年10月生まれ、神奈川県出身、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。平成7年運輸省入省(自動車交通局技術安全部整備課)。10年自動車交通局技術安全部技術企画課国際業務室国際協定係長、14年外務省欧州連合日本政府代表部書記官、17年総合政策局環境・海洋課専門官、28年国土交通省自動車局審査・リコール課リコール監理室長、30年自動車局技術政策課自動 運転戦略官、令和2年自動車局技術・環境政策課自 動運転戦略官、3年鉄道建設・運輸施設整備支援機構施設管理部長を経て、令和4年4月より現職。

 われわれの国民生活や経済活動を支える重要な社会インフラの一つである物流。しかし、EC市場の急速な拡大や担い手不足、災害や環境対応など、現在、さまざまな課題を抱えている。そうした物流の抱える課題の解決に向けて昨年6月「総合物流施策大綱(2021 年度~ 2025 年度)」が策定された。大綱の策定から一年。本年9月には大綱で掲げられたKPI を議論するフォローアップ会合が開催されたが、会合では何か議論されたのか。持続可能な物流の実現に向けて取り組む国土交通省物流政策課の平澤課長に話を聞いた。

国土交通省 総合政策局物流政策課長
平澤 崇裕氏


物流を取り巻く現状と課題

――社会生活や経済活動において重要な役割を担う物流。しかし近年、EC市場の急速な拡大や担い手不足、そして2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の影響などもあり、物流を取り巻く現状は決して明るいとはいえない状況にあるかと思います。改めて物流を取り巻く現状と課題についてお聞かせください。

平澤 物流を取り巻く現状についてですが、物流業界は中小企業が非常に多いといった特性をもっています。また近年、輸送量はほぼ横ばいの状況でしたが、新型コロナが発生した2020年度は大幅に減少したことは多くの方がご存じかと思います。トンベースの輸送の大部分をトラックが占めていますが、貨物の輸送量を表すトンキロベース(貨物の重量×当該貨物の輸送距離)でみると、その割合はトラックが約5割、船舶が約4割、そして鉄道などが約5%となっていますので、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換するモーダルシフトを進めていくことが重要になってきます。

 また、新型コロナウイルス感染拡大の影響ですが、主要24社のトラック輸送はコロナ以前の状況に戻りつつあるものの、鉄道輸送や内航輸送はまだ回復途中であることがデータで示されています。そして国際輸送においては、需要がひっ迫しており、20年7月以降、北米向けコンテナの荷受量の急増による運賃高騰が継続している一方で、西海岸では滞船して沖待ちといった状況が改善しつつあります。

 物流の大部分をトラックが占めている点については先述しましたが、トラック業界は全産業平均でみても労働時間が約2割長く、賃金が5~10%ほど低い傾向にあり、担い手不足といった課題を抱えています。さらに24年4月には、時間外労働時間規制が適用されますので、担い手不足に対応した構造改革をしっかりと進めていくことが急務になるといった状況にあるといえます。

 それ以外にも、拡大を続けるEC市場(Eコマース)への対応としては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う外出自粛要請などの影響もあって一時は減少していた再配達の割合も、最近は11~12%ほどに戻ってきていますので、この点の改善も重要になります。そしてカーボンニュートラル実現に向けては、2030年度に運輸部門で35%のCO2削減目標が示されていますので、目標達成に向けた取り組みを進めていく必要があるなど、物流分野、物流事業者の抱える課題は先鋭化、鮮明化しているというのが現状になるかと思います。

総合物流施策大綱(2021年度~ 2025年度)の三本柱

――そうした課題に対応するべく、昨年6月「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」が閣議決定され、今後の物流が目指すべき方向性が示されました。大綱で示された取り組みとはどういったものだったのでしょうか。

平澤 2021年6月に「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」が閣議決定されました。第1回の大綱が1997年に策定され、以降、5カ年計画として定期的に改定されていますので、今回は7回目の大綱になります。大綱では、EC市場の拡大に加え、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、非接触・非対面型物流といった新しい生活様式への対応や物流の社会的価値の再認識を踏まえた形になっています。

 そして、①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)、②労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)、③強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)――といった三つの柱を掲げ、取り組みを進めているところです。

――大綱で掲げた三本柱の具体的な内容についてお聞かせください。

平澤 では各柱の代表的な取り組みについて触れておきます。まず一つ目の柱である「物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」については、物流デジタル化の推進をはじめ、ロボットやドローンの導入などの機械化や自動化を推進するため、事例集としてまとめています。またドローン物流については全国で実証実験を行っていますので、そうした計画策定経費や機体の導入経費に対する支援を行っています。

 さらには物流標準化の取り組みとして、昨年6月に官民物流標準化懇談会を立ち上げ、物流事業者のみならず、荷主の視点を取り入れるために経済団体の方にも参画していただき、業種分野ごとの標準化とも連携しながら、業種分野横断的な標準化の実現に向けた検討を進めているところです。ここでいう業種分野ごとの標準化とは、青果物や紙加工品、お菓子などがあり、青果物に関しては、全農(全国農業協同組合連合会)などの出荷団体や卸売団体も参画する、農林水産省の設置した検討会においてガイドライン骨子を作成して展開を進めています。

 そして業種分野横断的な取り組みとしては、パレットなどのハード面での標準化やソフト面の標準化になります。パレットについては、規格や運用の標準化について分科会で検討中であり、本年6月の中間とりまとめでは、これからパレット化を図る事業者に推奨する規格として、平面サイズ1100㎜ ×1100㎜ のパレットを推奨することが明記されました。もちろん、分野の状況や商品特性によっては推奨規格の採用が困難な場合もありますので、パレットの利用実態の把握を進めるとともに、標準化の実現に向けては引き続き議論を進めていくことになります。

 またソフト面に関しては、伝票やデータ、そして物流用語などの標準化になります。現在、物流のデータ連携実現に向けて、物流情報標準ガイドラインが策定されています。具体的には、データ交換の手順からデータフォーマットの規格などのガイドラインになりますので、システムを改修、あるいは新しく構築される事業者には、本ガイドラインに準拠してほしいといった呼びかけをしています。

――二つ目の「労働力不足対策と物流構造改革の推進」についてはいかがでしょうか。

平澤 担い手不足対策についてですが、先ごろ、トラックドライバー不足により物流が滞ることのないよう、ドライバーの労働条件の改善などを図り、トラック運送業において働き方改革を進めるために「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(トラック法)が施行されました。改正法では、荷主対策の深度化や標準的な運賃の告示制度の導入などが盛り込まれており、地方運輸局や適正化事業実施機関との連携などにより端緒情報を収集、関係省庁と連携して荷主への働きかけなどを実施しています。

 また、働きやすい環境を整備するという点では、トラックドライバーの労働時間超過の原因の一つに長距離輸送がありますので、中継輸送を行うことで日帰りも可能になるような環境整備も進めていく必要があると考えています。

――では、最後の柱「強靱で持続可能な物流ネットワークの構築」についてお聞かせください。

平澤 物流ネットワークの構築としては、モーダルシフトの促進があります。また国際競争力の強化や持続可能な成長に資する物流ネットワークの構築、例えば物流の海外展開などがあり、現在、コールドチェーンサービスの規格を国際標準化する取り組みも進めているところです。

 また、カーボンニュートラルの実現に向けたCO2対策として、グリーン物流の推進を行っています。これはグリーン物流パートナーシップ会議を通じて、優良事業者を表彰するといった形をとっていますが、今年度から表彰を整理し、大臣表彰と大綱の三本柱にひもづく表彰、そして特別賞といった形式を想定して、年末の表彰に向けて審査をしているところです。これらのメニューを活用しながら、グリーン物流推進に向けた取り組みを進めています。

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