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洋上風力発電を取り巻く現状と導入促進に向けた課題と展望/国土交通省 馬場 智氏

洋上風力発電導入促進に向けた官民フォーラムと海上施工等に関する取り組み方針

――洋上風力発電の導入促進に向けて新たに取り組んでいるものなどがあれば、お聞かせください。

馬場 洋上風力発電導入に関する政府の案件形成目標については冒頭触れましたが、目標達成に向けて、領海・内水のみが適用対象になっていた「再エネ海域利用法」を改正し、排他的経済水域(EEZ)における海洋再生可能エネルギー発電設備の設置に係る制度を創設しました。また、こうした動きに合わせて、24年5月「浮体式洋上風力発電の海上施工等に関する官民フォーラム」を設置し、浮体式の洋上風力発電を大量に導入するための具体的な海上施工の課題について官民で横断的な議論を行い、同年8月に「浮体式洋上風力発電の海上施工等に関する取組方針」を発表しています。

 取組方針では、①施工シナリオの検討
        ②港湾インフラ・関係船舶確保等のあり方に関する検討
        ③設計・施工・維持管理に係るガイドライン等の整理
        ④各種調査・研究の推進
 
 ――といった項目が挙げられました。なかでも①については、浮体式の基礎の種類などに応じて海上施工シナリオを複数パターン検討し、その上で具体的な課題について検討を進めています。また浮体式の海上施工に関しては、民間企業も各社それぞれの技術をもっていますが、まずは協調領域に関する調査研究に向けた体制を確立していくために「浮体式洋上風力建設システム技術研究組合:FLOWCON(フローコン)」が本年1月、国土交通大臣の認可のもとに設立されました。FLOWCONでは浮体式洋上風力の合理的な建設システムに関する研究や海上作業基地の活用・効果についての検討を進めています。

 また「浮体式洋上風力技術研究組合:FLOWRA(フローラ)」とも連携し、浮体システムの最適な設計基準や規格化に向けた取り組みなども行っています。このように民間企業とも積極的に連携しながら、海上施工に関する技術研究を進めていきたいと考えています。

(資料:国土交通省)
(資料:国土交通省)

――カーボンニュートラルの実現、また今後のエネルギー政策において洋上風力発電の重要度を改めて感じています。最後に洋上風力発電の導入促進に向けた今後の展望、また実現に向けた意気込みなどをお聞かせください。

馬場 洋上風力発電は、足元ではインフレや事業環境の厳しさもあってさまざまな政策課題に直面しています。こうした問題については関係者の意見を丁寧に伺いつつ、経済産業省と連携しながら着実に改善に繋げていければと考えています。その上で洋上風力は、脱炭素という目的のみならず、民間企業からは新たな投資分野として、また地域からは地方創生の側面から非常に期待されている有望な産業でありますので、産業政策としての意義が非常に大きいと思っています。

 この産業政策については二つの視点が重要であると考えています。まず一つは構造転換が進んでいる港湾エリアにおいて、洋上風力産業という新たな民間投資をしっかり呼び込み、根付かせ、着実に経済成長につなげていくことです。もう一つは、今後、浮体式洋上風力の導入を加速するにあたって、例えば、浮体基礎の製作について、造船技術はもとより、港湾建設などで培った海洋土木技術が十分に活かせる分野になりますので、こうした企業がノウハウや技術力を発揮できる環境をしっかりと作っていくことです。

 カーボンニュートラルポート政策の一翼を担う洋上風力発電設備の導入促進に取り組むことにより、港湾における新たな産業創出と海洋土木技術のさらなる発展に貢献したいと考えています。

――本日はありがとうございました。
                                                (月刊『時評』2025年9月号掲載)