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虎ノ門政策研究会企業研究/フジタ技術センター視察レポート

寝ている間に建設工事が進む?フジタの描く建設業の未来像とは

フジタ技術センターの外観(取材時撮影)
フジタ技術センターの外観(取材時撮影)

虎ノ門政策研究会、通称「虎研」は昭和59年の設立から現在までアクティブに活動中。研究部会では主に国政にかかわるテーマを研究し議論を交わす。官民、産学、企業間など縦横の連携促進を使命の一つとしてきた虎研事務局では、公共性の高い事例に着目して企業研究を進めている。今回は、株式会社フジタの技術センターを取材してきた。(虎ノ門政策研究会事務局:重田瑞穂)

1992年当時のテレアースワークシステムによる復旧作業の様子。重機が遠隔操縦で動く。左上は雲仙普賢岳(提供:フジタ)
1992年当時のテレアースワークシステムによる復旧作業の様子。重機が遠隔操縦で動く。左上は雲仙普賢岳(提供:フジタ)

 現在は改良された「ロボQS」にAI(人工知能)を搭載し、完全無人化施工の研究を進めているという。重機を動かす実験フィールドは別の土地にあるため、映像を見せてもらった。「強化学習」で訓練したAIが画像認識によって最適な機体の動きを決め、「ロボQS」に操作信号を送る。すると、誰も操作していないのに油圧ショベルが勝手にざくざくと土を掘っていく。
 強化学習とは、コンピューターにシミュレーター上で無数に試行錯誤させ、結果に応じて得点を与えることによってどう動けば良いか覚えさせる技術だ。すでに平地での掘削動作は習得した。生産改革研究部の研究員・伏見さんは「まだ人間の働きには及ばないものの、AIが24時間365日休みなく働けることで、生産性の向上を目指しています」と話す。2021年度中に、いずれかの現場で実装してみる予定だという。


風の影響を調べるミニチュアの街

 技術センターが出来た当初から、今でもずっと活用されている息の長い装置もある。たとえば「風洞実験装置」もその一つ。今回は特別に、そのドーナツ状のトンネルの内部へ入らせてもらえることになった。奥には人間の背丈よりも大きな、さながら扇風機のようなファンがある。ファンが回り、風を起こすと、トンネル内で調整され、自然風を模擬した気流が作り出せるとのこと。

縮尺模型を用いて風荷重、風圧力を調べる(提供:フジタ)
縮尺模型を用いて風荷重、風圧力を調べる(提供:フジタ)

 足元では床の一部が丸く回転するようになっていて、その上には精巧な街の模型が載っていた。模型から外したビルの中身を見せてもらうと、もじゃもじゃとセンサーにつながる大量のビニールチューブがのぞく。ここで測定したデータをもとに、高層建築自体や外装材が受ける風の影響を計算して設計に生かすわけだが、高層建築物を新しく建設することにより周囲に及ぼす影響も調べられる。ミニチュアの街を床ごと回転させれば、あらゆる方向の風向きで実験が可能だ。
 同社が国内最高階数のマンションを設計・施工した際も、ここで入念に気流の影響を調べたという。

天井パネルの裏に隠された小さなエアコン(取材時撮影)
天井パネルの裏に隠された小さなエアコン(取材時撮影)

 環境研究部の滝澤さんが「“放射”という、離れたところに熱が伝わる現象を利用したパネル型冷暖房システムです」と説明してくれた。冬の冷たい空気の中でも太陽が昇ると肌に温かさを感じるのと、同じ原理らしい。空気を介さずに赤外線で作用するので、パネルと相対する面が広いほど効果が高くなる。ベッドに座っている時より、横になればさらに涼しくなるというわけだ。
 脚立に上ってパネルの裏をのぞくと、驚くほど小さなエアコンが隠されていた。これも新たに開発されたもので、一般的なエアコンよりも空気を強めに冷やしたり、暖めたりすることができて、その空気を静かにゆっくりとパネルに吹き出すことで放射の効果を得られるという特徴を持っている。
 病院や、高齢者介護施設、さらには高級シティホテルでも採用され始めたそうだ。睡眠改善に悩んでいる方はチェックしてみてはいかが。

フジタが描く建設現場の未来

 アトリウムに戻って一息ついていると、ドン、ドンと音をたて “何か”が木製の階段を下りてきた。尻尾と頭のない犬、と形容すれば姿をイメージしやすいだろうか。Boston Dynamics社製の四足歩行型ロボット、「Spot(スポット)」だ。目をまるくして見ているわれわれの前までやってきて、ペコリとおじぎをする。生物的な動きに思わず目を奪われると、近くで見守っていた生産改革研究部の山口さんが、いたずらを成功させたかのような笑顔になった。よく見ればその手元に、小さな操作用端末があるではないか。曰く、今の動きは操作したものだけれど、あらかじめルートをセットしておけば人間が操作せずとも完全自律歩行もできるとのこと。

 Spotはフジタが開発した付属機器(いわゆる、ペイロード)をリュックサックのように背負って歩き回っている。ペイロードは無線通信ができて、PTZ(パン・チルト・ズーム)カメラや360度カメラ、マイク、スピーカーも搭載。現場の巡視点検やコミュニケーションに活用する想定で実験を重ねているそうだ。建設現場には段差がたくさんあるが、Spotなら不自由なく歩き回れる。現場に実装されたら、人間が出向かずとも済む場面が増えるだろう。

 自律走行で夜間巡回をしてくれるロボット、危険地帯で重機を遠隔操作するロボットの自動化、廃棄物のリサイクル…建築、土木といった専門分野以外にも、そういった技術が、このセンターではすべて実現している。
 一般的に、労働環境が良くないとされ、3K産業と言われてきた建設現場でも、もはや人間は力持ちでなくていいし、危険に遭遇するような場所で命を懸けて働かなくていい。誰もが8時間労働の中で安心して働くことができ、寝ている間にロボットたちが作業を進め、安全を守ってくれる。そんな風景が町中の建設現場でも当たり前な風景になっていくのは、案外すぐそこにある未来なのかもしれない。

(本記事は、月刊『時評』2021年8月号掲載の記事をベースにしております)