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【時事評論】2023年を展望する/グレート・リセットの覚悟で飛躍を

Pixabay
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 謹んで新春のお慶びを申し上げます。

 さて、今年は、干支でいうと「癸卯」(みずのと・う)である。

 「癸」は「物事の始まりと終わり」を象徴し、「卯」は「飛躍」「向上」が期待される、とされる。

 何かが終わり、何かが始まり、大きく向上していくというのであれば、慶賀すべき年になると期待したい。

 しかし、そうした意味において今年を慶賀すべき年とするためには、これまでの惰性を断ち切り、新たな挑戦を行う勇気を、私たち自身が持たなければならない。

 惰性と言えば言葉が過ぎようが、例えば、長らく続いた異次元の金融緩和は、その副作用が大きくなっているように思われる。

 日本銀行は、インフレ・ターゲットとして2パーセントの物価上昇を目標としてきたが、世界中で悪性のインフレが懸念され、米国やEUが金利を上げてきた中で、ひとり日本だけが現在の金融緩和政策を継続すべきとは思われない。

 日本銀行は本来のインフレ・ファイターとしての役割を果たすべく、大きく舵を切るべきだろう。

 その結果、金利が上昇することになれば、国の危機的な財政事情を直視せざるを得なくなる。

 これもまた、惰性と言えば言い過ぎかもしれないが、このところの財政規模の膨張傾向についても、覚悟を決めて転換を図る必要があるだろう。

 昨年、英国第78代首相のトラス氏が、英国史上最短の50日間で退任することとなったのは、公約として掲げた大規模減税とインフレ対策のための財政出動の両方を実施しようとした財政政策上の無理のためであった。

 彼女は、その財政的な無理を通そうとして「大丈夫だ、日本を見ろ」と言ったと伝わるが、その日本もまた相当の無理を重ねてきている。

 トラス氏が押し通そうとした財政的な無理を「フェアリー(おとぎ話)」と批判し、その後任となった第79代首相のスナク氏は、経済の立て直しと安定(成長ではない)を最重要課題としている。

 具体的には、当分の間、英国では総選挙がないと見込まれることもあって、いわゆる弱者に厳しい緊縮的な経済運営になると見られている。

 一時的な厳しさも、経済活動の基盤を安定化させるためには乗り越えるべきだという健全な考え方が、トラス流のポピュリズムよりも支持されたと言えるだろう。

 他方、長らく異次元の金融緩和と大規模な財政支出で景気回復を装ってきた日本は、その裏側で経済活動の新陳代謝が進まず、生産性の停滞を招いてきた。

 現下の緩和的な金融政策も膨張的な財政政策も、このまま続ければ、大きな禍根となるおそれがある。

 しかし、政治が覚悟を決めれば、英国と同じく国政選挙が当分ないと見込まれる日本でも、経済政策を大きく見直して、いったん苦しくなるかもしれないが、その先の将来の飛躍を準備することができる。

 確かに、金融政策と財政政策の見直しは、一時的には、「痛み」を伴うだろう。

 その「痛み」は、過去30年以上にわたってごまかしてきた分だけ、大きなものになるだろうが、そうした「痛み」を越えてこそ、いわば贅肉を削ぎ落した強靭な産業構造が生まれ、日本経済のグレート・リセットが可能になる。

 今年こそ、政府も、企業も、そして国民も、こうした理路を理解して、次の30年を失わないように覚悟すべき年だ。

 かつて、日本のグレート・リセットというべき明治維新を間近に目撃することとなったドイツ人医師のベルツは、次のように述べた。

 「日本国民は、(中略)昨日から今日へと一足飛びに、われわれヨーロッパの文化発展に要した五百年たっぷりの期間を飛び越えて、十九世紀の全成果を即座に、しかも一時にわが物にしようとしている」

 「このような大跳躍の場合―これはむしろ『死の跳躍(サルト・モルターレ)』というべきで、その際、日本国民が頚を折らなければ何よりなのですがー」(「ベルツの日記」)

 彼が「死の跳躍」と表現した非連続的な革命的変化こそ、今の日本に求められるものであろう。

 異次元の金融緩和と大規模な財政支出によって、生産性向上を伴わない形で支えられた経済は、麻酔とカンフルに頼っているようなもので、一時的な緊急避難措置としては別論、これほどまでに長期化すれば、不健全だと言うべきだ。

 新年早々、「死の跳躍」だの何だのと、何を言うのかとお叱りを受けるかもしれないが、むしろ、現在の状況を脱して明るい未来をこの国のために切り拓くためのグレート・リセットを期待することは、年頭の話題としてふさわしいことだろう。

 「癸卯」である今年、ベルツの忠告どおり頚を折らないように気をつけながら、この国のグレート・リセットを進める覚悟を持って、新たな飛躍を準備したい。
                                                (月刊『時評』2023年1月号掲載)