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【森信茂樹・霞が関の核心】経済産業事務次官 飯田 祐二氏

経済産業政策の新機軸、その意義と推進に向けて

いいだ ゆうじ/昭和38年5月2日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。63年通産省入省、平成26年経済産業省大臣官房秘書課長、29年大臣官房総括審議官(併)地域経済産業グループ長、30年産業技術環境局長、令和2年資源エネルギー庁次長(併)大臣官房首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官、3年大臣官房長、4年経済産業政策局長(併)内閣官房GX実行推進室長、5年7月より現職(併)内閣官房GX実行推進総括室長。
いいだ ゆうじ/昭和38年5月2日生まれ、埼玉県出身。東京大学法学部卒業。63年通産省入省、平成26年経済産業省大臣官房秘書課長、29年大臣官房総括審議官(併)地域経済産業グループ長、30年産業技術環境局長、令和2年資源エネルギー庁次長(併)大臣官房首席エネルギー・環境・イノベーション政策統括調整官、3年大臣官房長、4年経済産業政策局長(併)内閣官房GX実行推進室長、5年7月より現職(併)内閣官房GX実行推進総括室長。


 経済産業省が2021年に打ち出した「経済産業政策の新機軸」は、日本の産業界が変化に対応し課題を克服するための重要な指針として位置付けられている。世界の政治・経済環境が激変し不確実性が高まる中、同「新基軸」の意義と役割はより一層重みを増すと言えるだろう。

 今回、飯田祐二次官にGXや半導体など主要分野を中心にその理念と方策を解説してもらい、加えて開幕したばかりの大阪・関西万博の魅力もアピールしてもらった。


〝ミッション志向の産業政策〟の要点

森信 日本経済を取り巻く経済環境が大きく変わる中、経産省が現在進めている「経済産業政策の新機軸」、これは〝ミッション志向の産業政策〟がその中核と思われますが、その概要と現在の状況について、まずはお聞かせください。

飯田 バブル崩壊以後、わが国は成熟国家として新自由主義的政策を進めてきました。私自身若いころ、予算を1円も使わない規制緩和が経済政策の中心で、これに携わったことがあります。が、残念ながら同政策は必ずしも結果につながらなかった面もあること、そして国際社会が急速に変化している点も踏まえ、〝世界的潮流を踏まえた産業政策の転換〟を目指し、2021年に「経済産業政策の新機軸」(以下、「新機軸」)を打ち出しました。

森信 同「新機軸」の要諦はどのようなものでしょう。

飯田 従来のような官が主導する伝統的産業政策ではなく、かといって官が民の活動を阻害しないように徹する新自由主義的政策のどちらでもない、現在の社会・経済課題解決に向けて官も民も一歩前に出て、あらゆる政策を総動員するという理念を掲げています。特に、海外では政権が変わると政策の方向性が大きく変容するなど不確実性が高まっていることから、市場に委ねるのみでは対応できない、すなわち公的部門が関与する必要がある社会・経済課題について、その解決を〝ミッション志向〟と位置付けました。この方針に基づき、必要に応じて大規模・長期・計画的に支援を行うなど、各〝ミッション志向の産業政策〟の推進を図っています。

森信 その枠組みと内容についてお願いします。

飯田 はい。社会課題解決を成長のエンジンと捉え、「ミッション志向の産業政策」と「社会基盤の組替え」という枠組みの下、大規模・長期・計画的な産業政策の強化策を提示しています。具体的には、国内投資の拡大、イノベーションの加速、国民の所得向上、この三つの好循環の実現を一貫して掲げてきました。国内投資と、イノベーションを促して内需を創出し、国内産業の付加価値を上げ賃金アップを図る、これが「新機軸」の柱となります。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)

飯田 「ミッション志向の産業政策」は内訳として、①GX、②DX、③グローバル・経済安全保障、④健康、⑤少子化対策に資する地域の包摂的成長、⑥災害レジリエンス、⑦バイオモノづくり、⑧資源自律経済、の8分野を設定し、「社会基盤の組替え」に関しては、①人材、②スタートアップ・イノベーション、③価値創造経営、④EPBM・データ駆動型行政、の4分野を設定しています。社会基盤とは、言わばOSであり、その組み替えによって八つのミッションをクリアしていく、という構図になります。

森信 日本企業の失われた30年間の企業行動は、企業収益が回復しても国内投資や賃上げに回すことなく、いわゆる「内部留保」を積み上げてきたわけですが、「新機軸」の打ち出しから4年経過した今日、各ミッションの進捗状況はいかがですか。

飯田 主だった分野では、GX推進法、5G法、半導体支援、スタートアップ5か年計画、リスキリング1兆円支援、経済対策「国内投資7兆円支援」等々の策定や構築です。これらの施策により、少なくとも過去3年間は国内投資も増え、賃金も上昇するなど結果が現れつつあります。今後はこの賃上げが中堅・中小企業に波及することが期待されます。また「新機軸」により注力できるよう、例えば経済安全保障やイノベーション、GXを専門に担当する部局を新たに独立させるなど、省内の大幅な機構改革も施しました。

 これらの各取り組みや昨年6月の中間整理の内容を踏まえ、4月末に2040年の産業構造の見通しを取りまとめます。国内投資目標を高く設定し、内需の拡大、賃金の上昇、そして人口減の局面においても着実に成長できるデザインを描いています。一例としては、製造業の付加価値をさらに高めること、介護など人手を要する反面、付加価値が低い分野については省力化に向けて徹底的な改革を行うこと、デジタル化の伸長、等のメニューを列挙しています。これらの内容に対し、さらに諸方面からの精査をいただくことで精度を高め、「新機軸」の実現を確かなものにしていければ、と考えています。

(資料:経済産業省)
(資料:経済産業省)



もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。