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行政デジタル化新時代/デジタル庁統括官 冨安 泰一郎

「重点計画」の六つのビジョン

(資料:デジタル庁)
(資料:デジタル庁)

 以後は、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」のあらましについて述べていきたいと思います。

 基本的にデジタル社会として、「一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指します。それを実現するため、六つのビジョンを掲げ、各ビジョン毎に、課題の認識(as is)、目指す姿(to be)を明らかにし、実現に向け具体的に為すべきこと(to do)を示しています。

 ビジョンの一つ目は、デジタル化による成長戦略です。現代社会ではデータの活用が価値や競争力の源泉になることから、そこで付加価値を生むことにより全産業のデジタル化を推進していきます。また、規制や行政の在り方も含めて抜本的な構造改革を実施することで、成長を生むような素材を作っていくことが重要です。そのためには法制面でもデジタルファーストを徹底し、国としてはアーキテクチャの設計やデータの標準化を推進することが求められます。マイナンバー等の利用の拡大、オープンデータ活用の徹底、さまざまなプラットフォームの連携・拡大なども具体的な方策に含まれます。

 二つ目は、医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化です。既存の行政サービスはどうしても断片的・画一的なサービスの提供にとどまっていたことから、これからはデジタルによって個々のニーズをくみ取りサービスの個別化を図ったり、複数のサービスを自らのニーズに応じて自由に組み合わせることができるようにしていくことを目指します。こうした国民のニーズに応えるため、安全安心な環境の下でサービスが選択できるようサイバーセキュリティの確保等の徹底、官民間の分野を超えたデータの提供と共有に向けた検討、国と地方間のデータ連携等のアーキテクチャ設計、情報システム間で異なるデータ取り扱いルール等の標準化などの整備が欠かせません。

 三つ目はデジタル化による地域の活性化です。デジタルにより地域の課題を解決する可能性は飛躍的に増大しますので、地方の共通基盤を国がしっかり提供することで、地域からデジタル改革、地方のデジタル実装を推進することを目指します。これは現政権が掲げる「デジタル田園都市国家構想」にもつながる発想です。このため、地域のデジタル化実装の推進、デジタル・ガバメントの推進に加え、個別地域ごとの課題への取り組みが他地域にも応用できることから、地域の人材と地域課題のネットワーク化を図ります。

 四つ目が、誰一人取り残されないデジタル社会です。さまざまな制約等にかかわらず誰もがデジタル化の恩恵を享受することにより、豊かさを実感できる社会を目指します。このため、利用者視点を第一に置いたサービスデザイン体制の確立、国、地方自治体、企業・団体、住民等がそれぞれの立場で相互協力する「皆で支え合うデジタル共生社会」の環境整備を行います。

 五つ目がデジタル人材の育成・確保になります。従来からデジタル改革の担い手不足が指摘されてきました。官民のDXを支える人材の底上げと専門性の向上を目指します。この点、まずはどれくらいのデジタル人材が今後必要となるのか、規模感などを検討します。さらに、デジタルリテラシーの向上、官民学を行き来するキャリア形成の実現等に向けた環境整備が不可欠で、何より、既に多くの民間の方に入っていただいているデジタル庁自身が、デジタル人材の能力を最大限活用していく必要があります。

 最後の六つ目が、DFFT(Data Free Flow with Trust)の推進をはじめとする国際戦略です。DFFT、すなわち信頼あるデータを自由に流通させていくべく、デジタル技術の活用を進めるとともに、来年23年のG7開催を見据え、国際ルール形成に向けて積極的に提案してまいります。

各行政サービスのデジタル化

 次に、各種戦略および各行政サービスのデジタル化についてご説明します。

 まず、デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)の取り組みについて触れたいと思います。デジタル社会の目指す姿を実現する上では、情報システムの改革だけでは、対面や書面などデジタル活用を前提としていない規制・制度の存在によってデジタルの力が十分に発揮できない状況が残ってしまう場合があります。このため、デジタル臨調において、デジタル改革、規制改革、行政改革を一体的に検討し、個人や事業者がその能力を最大限発揮できる社会を目指すこととしております。

 具体的には、各種規制・制度について、構造改革のための基本5原則(①デジタル完結・自動化原則、②アジャイルガバナンス原則、③官民連携原則、④相互運用性確保原則、⑤共通基盤利用原則)を定め、全ての法令・通達等についてデジタル適合性原則を確認検証することとしました。具体的には、デジタル完結原則について言えば、例えば、現場で人の目に頼る規制(「目視」での確認や「実地」での調査を義務付ける規制など)について、技術の進歩を勘案し、監視カメラ・センサー・AI等デジタル技術の活用により人がその場にいなくても遠隔で点検・確認できるようにできないか、先行的な取り組みを参考にして、すべての法令等について確認・検証をします。

 次に、デジタル田園都市国家構想について触れたいと思います。理念としては、デジタルの力を全面的に活用し、「地域の個性と豊かさを生かしつつ」、「都市部に負けない生産性・利便性」も兼ね備えた「デジタル田園都市国家構想」を実現する、というものです。地方でデジタルを実装することにより、それが持続可能な成長にもつながり、都市以上の豊かな生活を目指していきます。

 実現に当たっては、〝デジタル原則〟の遵守や、オープンなデータ基盤の活用推進を前提としつつ、各地域における社会的課題の解決に向け、複数の事業者や市民が連携して取り組む活動に対して支援を行う、これが基本的考え方となります。具体的には、地方を支えるデジタル基盤の整備、デジタル人材の育成と地方への新たな人の流れの強化、デジタルを活用した地域産業の活性化、スタートアップの育成などに取り組み、また、明確な目標を設定し、その進捗のモニタリングをすることとしています。

 続けて、デジタル社会の実現に向けた各種施策についてお話します。

 まず、国民に対する行政サービスのデジタル化についてです。マイナンバー制度は、行政機関間の情報連携を可能とするマイナンバー、公的個人認証を提供するマイナンバーカード、国民と行政との接点を提供するマイナポータルと、どれも政府のデジタル化を支える基盤です。ワクチン接種証明書のスマートフォンへの搭載等、緊急時における行政サービスのデジタル化を進めます。マイナンバーカードについて健康保険証としての利用を推進し、さらに運転免許証との一体化についても令和6年度末の開始に向けて検討を進めます。マイナポータルのUI・UXの改善や、オンラインで厳格な本人確認を必要とする民間事業者が提供するサービスでの利用シーンの拡大などマイナンバーカードのユースケースの拡充を図ります。

 また〝産業のデジタル化〟の観点から、事業者向けの行政サービスの質の向上に向けて、電子署名や電子委任状、商業登記電子証明書、法人共通認証基盤(GビズID)の普及を図るとともに、IT導入補助金や専門家派遣などを通じて中小企業のデジタル化のサポートなどを行います。さらに、DX認証制度、DX銘柄の選定、DX投資促進税制等を通じた企業のDXなど、産業全体のDX促進を考えていくことになります。

 一方、デジタル社会を支えるには、国、地方双方の情報システムを刷新する必要があります。国に関しては、前掲の情報システム整備方針に基づいて政府のシステム整備にあたって業務改革(BPR)の推進、共通機能の活用の徹底、システムの統合・集約などを図って参ります。さらにガバメントクラウドの整備に注力します。21、22年度にかけて地方公共団体による先行事業における利用を開始し、段階的に運用を開始する方向で進めています。またネットワークの整備として、各府省のLAN統合を図ります。対して地方においては21年度中を目途に地方公共団体情報システム標準化基本方針を策定します。また、20年に決定した17の地方基幹業務に加え、戸籍、戸籍の附表および印鑑登録事務も標準化対象に追加します。

 またデジタル人材の育成・確保に向けて、デジタルリテラシーの向上を図るほか、令和4年度以後、国家公務員総合職採用試験にデジタル区分が新設されますので、新卒社会人もデジタル人材としてどんどん霞が関に来ていただきたいと期待しています。

 重点計画には、各種施策の具体的な方針に加えて、向こう5年間の工程表も策定しておりますので、それぞれの施策がどのようなタイミングで行われるか確認いただけるようになっております。

 最後に、デジタル庁は、デジタル分野における霞が関の司令塔機能の役割が期待されていますが、DXは各省庁と一緒に進めるべきものだと思っております。日々デジタル化推進に取り組みながら、同時に常に正しい方策・方法を学び、かつ追求していく所存です。
                                                  (月刊『時評』2022年3月号掲載)