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【森信茂樹・霞が関の核心】 国土交通事務次官 藤井直樹氏

陸・海・空のGX・DX推進など、国土交通分野の重要課題に挑戦

ふじい なおき/昭和36年1月23日生まれ、兵庫県出身。東京大学法学部卒業。58年運輸省入省、平成23年国土交通省総合政策局政策課長、24年大臣官房審議官(鉄道局担当)、25年総合政策局公共交通政策部長、27年自動車局長、29年鉄道局長、30年大臣官房長、令和元年国土交通審議官、4年6月より現職。
ふじい なおき/昭和36年1月23日生まれ、兵庫県出身。東京大学法学部卒業。58年運輸省入省、平成23年国土交通省総合政策局政策課長、24年大臣官房審議官(鉄道局担当)、25年総合政策局公共交通政策部長、27年自動車局長、29年鉄道局長、30年大臣官房長、令和元年国土交通審議官、4年6月より現職。

2050カーボンニュートラル実現に向けて、運輸部門を所管する国土交通省が担う責務は大きい。それに応えるため、自動車、航空機、船舶ともに脱化石由来燃料を進め、分野によっては世界をリードしている。また、間近に迫った〝2024年問題〟への対応も喫緊の課題。物流業界の商慣行を、DXを駆使しながらいかに改革していくかが問われるところ。さらに反転攻勢の期待がかかるインバウンドをどう促進していくべきか、広範な国土交通行政のうち、藤井次官にはこれら直近の問題について解説してもらった。


空と海は燃焼系燃料の代替を

森信 いま、霞が関全省庁的にカーボンニュートラルが最大の政策課題の一つとして位置付けられています。運輸部門を所管する国土交通行政としてこの命題にどのように取り組んでおられるのか、まずはあらましからお願いできましたら。

藤井 2030年度段階でCO2を、2013年度比46%削減するという目標を立てた以上、全ての分野で削減を進めていかねばなりません。ご指摘の通り国土交通省においては交通分野を中心に、住宅分野や各業種に関連する製造分野などが幅広く対象となります。

 特に交通においては、航空機や船舶など国境を超える国際交通を擁しています。国際航空、国際海運からのCO2排出については、国別割当の対象外とされ、各々の国際機関に排出削減の目標設定やルール作りが委ねられている、という大きな特徴があります。

森信 それぞれ、国際的な場で数値目標が決められていると。

藤井 はい、国際航空であればICAO(国際民間航空機関)、国際海運であればIMO(国際海事機関)という国連の専門機関において、それぞれ削減の数値目標を設定しています。

 2019年のデータですが、世界の温室効果ガス排出量336億トンのうち、日本の排出量はその3・1%ほどですが、国際航空、国際海運はそれぞれ1・8%、2・0%を占めており、合計すると日本を上回る排出量となります。両分野とも今後の世界の経済成長に伴って輸送量が増大していくことが予想され、この分野の削減が世界の総排出量削減に大きく寄与すると考えられます。日本はこれまで空・海ともに国際会議の場でルール作りをリードしてきましたので、カーボンニュートラルに関しても引き続き同様の役割が求められるのです。

森信 航空であれば、国際的に取り決めた数値の割り振りを、国内の航空会社に割り当てるのでしょうか。

藤井 はい、関係事業者それぞれに割り振りを行います。それも国土交通省の仕事の一部となります。また、国際航空分野では排出量のオフセット義務が条約の中にビルトインされていますので、そういう点でも国内航空でこれから取り組むべきことの先駆けになるとも言えるでしょう。

森信 確かに、飛行機の排ガスは一般国民にとっても非常に目に付きやすいですからね。

藤井 ご指摘のように、交通分野は全般的に見えやすいという面があります。自動車にしろ飛行機にしろ、現在は化石由来の燃料を燃焼させて動かしているわけですが、それをこれから変えていくことになります。

森信 車であれば、電動化など脱・化石燃料の動きが加速化していますが、飛行機や船については難しいのでは?

藤井 そうなのです。車はサイズが小さいので個別に電動化が図れますが、飛行機は空を飛ばねばならず、船は基本的にサイズが大きい、つまり現状ではどちらも電気で動かす技術がありません。従って燃焼による動力という構造は変わらないまでも、その燃料を化石由来ではなく、水素やアンモニアといった燃焼によってCO2を排出しない物質、あるいは化石由来と他の燃料との混焼によって代替していこう、というのが航空・海運分野の基本的な方向性となります。

森信 飛行機では、例えばどのような。

藤井 最近ではSAF(SustainableAviation Fuel=持続可能な航空燃料)という用語がよく聞かれるようになったと思います。主に食品廃油やバイオ燃料等が想定されていますが、これらは化石由来の燃料に比べて、単位当たりのCO2排出量はゼロにはなりませんが相当程度減少します。

森信 欧州では車の燃料にこれを活用する動きがありますね。

藤井 そうですね。また、飛行機も徐々にその種類が広がり、ドローンの実証や〝空飛ぶクルマ〟の開発などが進んでいます。これらは総じてサイズが小型ですので、電気、電池で動かすことを念頭に置いています。

水素・アンモニア船では日本がリード

森信 そこまで構想が広がると、もはや日本の産業問題そのものとも言えますね。

藤井 その通りです。そこで、施策の推進に向けては経済産業省をはじめ各省庁との連携が不可欠です。排出量削減に向けて必要な水素やアンモニアなどの代替燃料を十分確保できるのか、国内で作れるのか、海外で作られたものを持ってくることができるのかが問われるわけです。水素やアンモニアを安定的に調達するには、専用の運搬船の開発はもちろん、その運搬船もまた水素やアンモニアで動かすなど、外縁の広がりが期待されます。

 海路によって運ばれた代替燃料は港湾に搬入され、そして港湾の後背地には多数の産業が立地・集積しているので、港湾全体をカーボンニュートラルポートという形で脱炭素化していく総合的な取り組みの機運が盛り上がりつつあります。

森信 GX移行債により20兆円の公費が支出されることになりましたが、国土交通省所管の分野もその対象になるわけですね。

藤井 そうですね、いま申し上げた外縁を含めて、省として今後どのようにカーボンニュートラルを進めていくのか、問われることになります。現在、官民一体となって、水素やアンモニアを燃料として動く船の技術開発が進められており、また、水素の運搬船はすでに実証段階に入っていることから、今後は実装に向けて資金を投入していくことになるでしょう。造船業は部品を含めて裾野が広く、日本の産業の中でも大きなセグメントです。この分野の競争力強化にGXを是非活用したいと考えています。

森信 かつてに比べて日本の造船業が勢いを失っていると指摘されて久しいですが、GXによって盛り返す可能性があると。

藤井 造船分野は日・中・韓が世界のビッグ3を占めてしのぎを削るという構図が長年続いており、その中で日本は付加価値の高い船舶の開発に力を入れて活路を開いてきました。15年ほど前まではLNG(液化天然ガス)運搬船の造船技術がその代表として日本の独壇場だったのですが、韓国・中国が欧州の技術を用いながら急速に台頭してきました。カーボンニュートラルを目指す流れの中で、次なる活路として水素やアンモニアの運搬船やそれらを燃料とする船舶の開発が期待されているのです。現時点では、日本が技術開発で先陣を切っており、5月には世界で初めてとなる大型船舶向けのアンモニアエンジンの試験運転が長崎で始まったところです。

森信 それは非常に明るいニュースですね。

藤井 最近、外航海運分野の投資意欲は高く、これらの技術が実装されれば造船だけでなく、海運にも大きな恩恵が得られると想定されます。造船業が製造業全体をけん引できるような存在になれば、と思っています。




もりのぶ・しげき 法学博士。昭和48年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学教授、東京大学客員教授、東京税関長、平成16年プリンストン大学で教鞭をとり、17年財務省財務総合政策研究所長、18年中央大学法科大学院教授。東京財団政策研究所研究主幹。著書に、『日本が生まれ変わる税制改革』(中公新書)、『日本の税制』(PHP新書)、『抜本的税制改革と消費税』(大蔵財務協会)、『給付つき税額控除日本 型児童税額控除の提言』(中央経済社)等。日本ペンクラブ会員。