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【森信茂樹・霞が関の核心】 国土交通事務次官 藤井 直樹氏

分散化とともに新たな観光魅力の発信を

森信 コロナが5類に移行しインバウンド(訪日外国人旅行者)の回復が期待されますが、観光産業におけるコロナ発生以前から現在までどのような推移をたどったのでしょう。

藤井 2019年にインバウンドは年間3188万人まで達したのですが、20年には412万人(87・1%減)、21年には25万人(99・2%減)となりました。現在は、中国がわが国への旅行を完全フリーにはしていない状況下ではあるものの、コロナ発生前の約3割減と、一定の需要の回復が見られます。この間、観光産業においては事業存続が危ぶまれる、就業先が無くなる等の状況に迫られましたが、雇用調整助成金などの各種支援策でしのぎ、今はようやく先のことを考えられる状況になってきたというところではないでしょうか。

森信 インバウンドは経済活性化に資する一方、京都など著名な観光地ではオーバーツーリズムの問題も発生しています。この辺りのバランスはどう考えるべきでしょうか。

藤井 客足が回復する一方、いったん離職された方々が必ずしもそのまま復職されるわけではありませんので、観光地では人手不足が顕在化しています。そこへ一気に観光客が押し寄せて集中するので、混雑もするし受け入れ側に手が回らない、という状況です。

 対応としては、先ずは分散を図ることが第一です。コロナの間、Go Toトラベルや全国旅行支援などの手立てを講じる一方、宿の改修や廃ホテルを撤去して温泉街を再整備するなど、相応の予算を投入して観光地の高付加価値化を図りました。これにより、各地の観光インフラはだいぶ整備できてきたと手応えを感じています。それをもとに各地域の魅力を海外にPRして、地方への誘客に努めてもらいたいですね。コロナ以前から外国人の視点による、各地域の新たな魅力の発信がありました。知られざる観光資源は、このような手段でこれからも発掘されると思います。

 京都の混雑も有名な場所に集中する傾向があります。私はバブル期にロンドンに駐在していましたが、観光スポットはいつも日本人旅行者で混雑していたことを覚えています。静かなまち並みや隠れた名所を活用し、旅行者の分散と地域の新たな観光資源の開発を両立させるには、効果的な情報発信が不可欠です。また、地域ではMaaS(Mobility as aService)の活用により、かなりきめ細かい移動もできるようになりました。

森信 MaaSは進んでいるのですか。

藤井 はい、着実に進展しています。最近になって具体的な取り組みも複数の地域で見られるようになり、複数の交通手段を乗り継いで目的地まで公共交通機関で移動するためのツールとしての価値が、徐々に浸透してきました。交通系ICカードとマイナンバーカードの連携により、公共交通の住民割引等を提供する自治体も出てきています。地域の住民の皆さまはもちろんのこと、海外からのインバウンドがさらに増えると、この種のニーズはもっと高まることでしょう。

インバウンド、数の達成と質の転換

森信 インバウンドの目標は今どのように設定されているのですか。

藤井 2030年に年間6000万人を掲げています。コロナ前の倍という高い目標ですが、実際に1000万人のハードルを越えてからコロナ前の3000万人に達するのはほんの数年でしたので、達成に向けて着実に歩みを進めたいと思っています。

 ただ、コロナ禍後のインバウンド回復戦略においては、単に人数を増やすだけではなく、一人当たりの消費額の増加にフォーカスしています。地域が潤うためにも、付加価値や消費額をターゲットにしています。また、観光目的だけでなくビジネスや留学等、より幅広く訪日人数を増やしていく方向を打ち出しています。

森信 地方創生・地域活性化にも直結する重要なテーマですね。

藤井 国土交通省では、今夏まとめる予定の国土形成計画においても、〝地域力〟がキーワードの一つに位置付けられています。

 地域力を発揮するためには、治山治水、道路、港湾などのインフラ整備をしっかり進めることが必要です。加えて令和6年度から水道行政のうちインフラに関する部分も厚生労働省から国土交通省に移管されます(水質管理については環境省に移管)。これまで国土交通省は下水道を所管していましたが、これからはインフラに関して上下水道一体で管理することになります。国土交通省はこれまで以上に、地域の生活基盤を担うことになるわけです。

森信 グリーン化に関しては、霞が関の中でも国土交通省がほとんど9割を担っている感がありますね。

藤井 人々の生活に密着している分野が多く、GX資金の投入により車を電動化する等々、国民目線で効果が実感されやすいのだと思います。住宅部分のグリーン化も国土交通省の大きな役割です。昨年、法改正を行い、省エネ基準の対象の拡大や、省エネ改修への支援等を推進しています。こうした生活密着の取り組み内容を、今後ともしっかりと対外発信していきたいと考えています。

 これらの政策の推進に当たっては、経済産業省、環境省等関係省庁との連携が不可欠です。

 先ほどの物流効率化においても、荷主が製造業やサービス業の場合、これを所管するのは経産省、農林水産業の場合は農林水産省ですので、やはり連携を取らないと社会課題の円滑な解決につながりません。旧態依然の商慣行のままではいずれ荷物が運べなくなりますよ、と両省からも荷主の方々の意識改革を促していただいています。本日論点になった各種政策については、国土交通省だけでなく関係省庁と意思統一し、政府全体で進めることがますます重要な時代になっていると感じます。

森信 次官は休日を過ごすご趣味などはどのように。

藤井 音楽を聴くのが好きなもので、執務室の壁にお気に入りのレコードジャケットを月替わりで何枚か飾らせていただいています。クラシック、ジャズ、ロックなど分野は問いません。それらをカラオケで歌うのも楽しみの一つです。

森信 本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

 藤井次官は冒頭私にこうおっしゃった。「自分の役人人生を改めて振り返るという意味でも、このようなインタビューの機会はありがたい」と。お言葉通り、会談内容は多岐にわたり、冷静かつ熱を込めて語っていただいた。次官の大変誠実な姿勢に心を打たれた。ますますのご活躍を期待したい。
                                                  (月刊『時評』2023年7月号掲載)