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菜々子の一刀両断ってわけにはいかないか……【第265夜】

火葬、水葬、木葬、土葬

写真ACより
写真ACより

世間の皆さんあるいはお店の常連のお客様同様、将来に不安を感じている。砂浜の真砂が尽きないように、私の老後不安にも底がない。同年代の客も同様と見えて、カウンター席でも座敷席でも、その種の会話が多いように見受ける。客の話に合わせるのは接待の基本。菜々子も、新聞、テレビ、図書館で、その種の勉強に怠りはない。

都知事が東京の火葬場不足を懸念

 日本人の人口問題は深刻だ。その一つは、日本人がわが子を産もうとしなくなっていることだが、もう一つは逆に死亡者数は当分の間、増え続けること。世界トップであった平均寿命が限界点に近づいている。その結果、抑制されていた年間死亡数が解放される。その余波で深刻な火葬場(ⅰ)不足に見舞われる。「さあどうする」ということで、小池百合子都知事が「安定的な火葬体制を確保することは重要だ」と所信表明した(9月24日)(ⅱ)。

 今夜の久寿乃葉はこの話題で持ち切り。なぜ火葬場不足がそれほど大問題になるのか。

遺体処理形態のあれこれ

「火葬にこだわらなければよいのではないか」と問題提起したAさん。法律(墓地埋葬法)では、火葬のほかに土葬の記述もある。都内の大規模都市公園の一角を土葬用墓地に転用するなどで乗り切ることができるのではないか。彼は現実的解決案を提示したつもりだったが、たちまち集中砲火を浴びた。

「世界の趨勢は土葬から火葬。その中でも日本は火葬率99・97%以上と〝皆火葬〟先進国である。その先進性を逆転させるのは大馬鹿者である」

「東日本大震災で火葬場が足りずに土葬にしたら、遺族から『国民の火葬文化を尊重せよ』の大批判。腐敗途上の遺体を掘り起こし、東京に運んで火葬したことを忘れたのか」

「土葬が法律に残っているのは制定時(昭和23年)に土葬がまだかなりあったことの遺物。国民意識は火葬で統一されているのだから、法律から土葬を削除すべきなのだ」

多文化共生は絶対的優先事項か

 シュンとなったAさんに同情したか、Bさんが助太刀を買って出た。

「外国には土葬が主流の国もある。その国の出身者が日本で死亡した場合には土葬でよいのではないか。〝多文化共生〟は重要だし、墓地埋葬法も〝国民の宗教的感情〟に適した葬法を求めている。教義で火葬を禁じる宗派の場合、わが憲法での信教保証の要請もあることだし…」

 だが反対論を勢いづかせるだけだった。

「種々の国際統計では国民の経済力向上につれて火葬に移行するのが明らか。衛生上、土葬は火葬に及ばないのも明らか。土葬推奨は非科学的だ」

「火葬は処刑方法であるからと禁じていたカトリックも火葬容認に方針転換して久しい。加えて『郷に入っては郷に従う』という異文化共生の大原則もある(ⅲ)」

「管理費を払う遺族が絶えれば墓地使用権は消滅して、収蔵物は処分される。いつ来るか分からない『世界終末の日』まで数十世代も遺族が管理費を納付して遺体が安らかに眠るなど、望み得ないことを承知した上で発言しているのか」

遺体処理の多様性

「土葬以外の遺体処理法もあるのでは?」と端っこの席からCさん。世界を探せばさまざまな方法があるとして、鳥葬、天葬などを挙げた。前者は遺体を鉈で切り刻み、岩場に置き去りにする。それを猛禽類が咥えて運び去ることで死者の魂が大空に帰る。後者は生活圏域にやぐらを組んで遺体を安置し、天日や風雨が処理するに任せることで魂が自然界に戻る。ざっとそんな説明だった。みなさんの反応は?

「現行法では火葬と土葬を規定しているのだから、記載がない鳥葬や天葬は許されないと解すべきだね。第一、市町村長が火(埋)葬許可証を発行しないよ」

「墓地埋葬法での〝国民の宗教的感情〟とは、特定宗派の教義ではなく、日本人の一般的葬送観念として受け入れられる方式が前提ということ。考えてみなよ。『母国でやっていたからと鳥葬に備えて親の遺体を切り刻み始めたら、親不孝者!』と日本国民は卒倒するだろう」

「インドのガンジス川では火葬費用がなくて、生(なま)の遺体を川に流すことがあるが、これを隅田川でやりたいと言われて、『どうぞ、どうぞ』とはならないぜ」

海洋散骨、宇宙葬などは?

 Dさんが手を挙げた。「先年、厚労省の肝いり研究で『散骨ガイドライン』が制定され、関連業者はわが世の春と歓迎しているようだ。水葬を墓埋法に明記することになるのか」

 これにも発言が続発した。

「〝水葬〟とは遠洋航海の船舶内で死亡者を布でぐるぐる巻きにして海中に投じる緊急対応のこと。小説『永遠のゼロ』で紹介された〝散骨〟は水葬とは全く別物。火葬後の焼骨の安置場所が、陸上の墓地ではなくて、指定された海洋の一角の海洋墓地ということであり、分類的には火葬。なおガイドラインでは川や湖沼などの内水面は認めていない」

「火葬後の骨粉入りカプセルをロケットで飛ばす宇宙葬も、同じく火葬の類型ということになるが、宇宙ではほんの小さな物体でも人工衛星に衝突して破壊してしまう可能性もある。宇宙空間を墓地指定するのは大問題。市町村長に火葬許可を出せと言いきれるか」

「墓地埋葬法は昭和23年制定で、以後は一度も実質改正がない。現行法が国民意識と合わなくなっている。法律の所管官庁は責任感を持つべきだ」

火葬料金の規制

 小池都知事が議会で火葬場問題を論じた中で法改正に言及している。法律改正は国の権限だから、総理大臣や厚労省への注文ということだ。お客様の声を聞いてみよう。

 知事の問題意識は二つあり、一点が料金問題。全国的には火葬場は市町村立。代替性がない公益事業であることから、厚労省が営利事業を認めていない。しかし事業である以上、恒久運営のための採算性は至上命題。かなりの自治体が、一般財源を投入することで、事業の永続性と利用者負担軽減をしている。しかし昨今は自治体の大半が財政難で、公益事業の運営建て直しが重要課題になっている。

 そうした中、東京23区は例外で、葬儀場の過半が単一企業の所有になっていて、昨今、経営権が外国資本の支配下になった。以後、競争上の優位性を武器に値上げを繰り返している。知事の意向は、墓地埋葬法の許可権を行使して、行政(東京の場合は所在区役所)が料金に注文をつけられるように法改正すべきというもの。久寿乃葉の論客は?

「許可事業なのだから、法目的を達するために条件を付すのは当然。都内では寺院がらみという特殊理由で戦前に事業化された。営利本位の運営は想定外だった。現行法に『従前許可継続』の経過措置が置かれたことで事業継続が可能になっている。そうした趣旨、経緯に基づいて制度運用すればよい。制度的には施行規則あるいは個別自治体の条例で許可条件を詳細化すればよい。法改正が必要というのは問題先送りが本音とも受けとれる」

「大規模災害や戦乱など大規模遺体発生時への対応が必要だ。厚労省が行政通達で『広域火葬協力体制』づくりを呼びかけているが、本来、法律によるべき事項。その際、火葬場の許可を5年ごとの更新制に変えればよい。行政許可は有期制であるのが普通だからね」

「公益性の高さからは経営者や株主の国籍制限も必要なのではないか。電波法や電気通信事業法、さらには外為法など参考例があると思うが…」

「民間事業の長所といえば、第一に料金の安さ。東京23区ではこれが昨今逆転して、民営火葬場の高料金問題が表面化した。あるべき姿に正すのは行政の責務」

 ところで国民皆保険のわが国では、それぞれの健康保険から5万円から7万円程度の葬祭料が支給される。出産費同様に火葬場が代理受領する仕組みにすれば、遺族の負担感は心理的に軽減するように思える。菜々子もそっと意見をつけ加えた。

火葬能力の確保

 火葬能力にも問題が多い。火葬場はいわゆる迷惑施設。新設は右から左へとはいかず、死者数が増えることで、遺体が運び込まれても即座に火葬できない「火葬待ち」地域が多くなっている。1週間もの間、ドライアイスを追加する、遺体ホテルと称する事業者に預かってもらうなどは遺族には余分の手間、出費である。その間、遠来から参列の親族は自身の宿泊施設確保も必要になる。

「最善の方法は公立火葬場の新設だろう。23区内には都営が一つ。大田区など5区の一部事務組合立が一つある。5区以外の18区が連携して公立施設を作れば済むことだ」

「東京湾のごみ埋め立て未利用地を活用せよ。区内に区民が利用できる公共の火葬場と墓地・納骨堂を準備するのは行政の義務だろう。小池知事からの補助金を期待してから検討とは不埒千万だ」

「新設の前に既存施設の運営効率化が必要だろう。要員を増やし、専門能力を高め、かつ処遇改善して交替勤務制を導入して営業時間を伸ばすだけでも、効率性は改善する。まちがっても目先の浅知恵で、外国人未熟練者に任せようなどという発想にならないよう、厚労省はしっかり目を光らせるべきだと思う」

「その企業火葬場に運営改善を求め、抵抗するなら公共接収するという積極姿勢が求められる。23区がバラバラではなく、共同目的で連携する決意が重要だ」

 火葬場は現代日本では、遺族にとって肉親との最後の別れになる場所。死生観、民族性、悲しみへの寄り添いなど、火葬場職員には社会福祉的素養が今後はより求められていくはずだ。福祉とは単なる経済支援ではない。区民の心理状態を明るい方向に向かわせる方策であり、その結果なのである。今宵は、なんとなくそういう結論で終了。

ⅰ 「火葬場」は法律用語だが、読み方の指定はない。以前は「かそうば」と読む人もいたが、昔風の野焼きイメージを避けるために施設関係者は(かそうじょう)と読むようだ。「工〝場〟」や「ごみ焼却〝場〟」に通じる用語の近代化。

ⅱ 文京区の議会などからの要望が基礎になったものと思われる。

ⅲ 新しいところでは、盤石で6選確実だった宮城県知事がイスラム教徒のために土葬墓地を検討すると言ったことから、全市町村長および広範な県民の反感を買い、二度とこの件に触れないと約束するに追い込まれた。

(月刊『時評』2025年12月号掲載)

寺内香澄(てらうち・かすみ)(有)総合社会政策研究所。ショートストーリー作家としても活躍。単行本として『さわやか福祉問答』(ぎょうせい)。
寺内香澄(てらうち・かすみ)(有)総合社会政策研究所。ショートストーリー作家としても活躍。単行本として『さわやか福祉問答』(ぎょうせい)。